魔王と勇者の旅(03)
ピーッ、という、鳥の鳴き声のような高い音で、ノエルが目を覚ました。なお、俺は眠らないから、特に起きたりもしない。
「うん、できた」
セラは、ここのところ、木をくりぬいて何やら作っていたが、それが完成したらしい。丸く薄く削った木に、小さな穴が二つ開いている。手のひらに収まるサイズだ。
セラはその、大きな穴の方に口を当て、息を吹いて音を出していた。ホイッスルみたいな音が鳴る。
「笛っすか?」
「うん。ノエル、これで魔剣さんと会話できないかな」
「……むう?」
起き抜けのノエルはぼんやりしていたが、俺はすぐに意図を察した。
セラの手の中にある笛に向けて、狙って風を送り込む。
何度か試すうちに、ピヨー、と音を鳴らすことができた。笛ラムネの要領だ。
「今の音、ラグナロクが?」
ピヨッ。返事代わりに小さく鳴らしてみる。
「うん、良かった。後はノエルと魔剣さんの間で合図を決めたらいいよ」
「はいなら一回、いいえなら二回、とかっすねー」
「すごい……!」
ノエルは感動していた。俺も感動している。これで、念願の意志疎通が可能に!
小さい方の穴には、紐を通して、俺の柄に括り付ける形になった。セラは器用だな。
ピッピピー、と返事をする。一応、礼のつもりだ。
「……姫様、朝食の準備が出来ました」
やり取りを離れたところで見ていたケルンが、ノエルを呼んだ。
「うむ! ケルン、見てくれ! いいものを貰ったぞ!」
「……左様ですね」
上機嫌のノエルは、ここ数日ですっかり、セラとキースに慣れて仲良くしている。
ケルンは人間が嫌いだが、主が楽しそうなので、複雑な思いのようだった。
†††
あと一日ほどで、目的の”忘却の村”につくという。
俺は自分の足で歩いていないからただ感心するが、まったくみんな、徒歩でよく移動するぜ。
「”忘却の村”はこの森を抜けた向こうのはずです」
木が繁っていて、鬱蒼としている。暗いから迷いそうになるが、地面にはかろうじて細い道のようなものがあった。
森を進んでいた、その時――突然、目の前の木が不自然に揺れた。
「危ない!」
俺が笛を甲高く吹き鳴らし、警報を鳴らすのと、セラが叫ぶのは同時だった。
大木は揺れ、枝をバキバキと折りながら、俺たちに向かって倒れてくる。
咄嗟に、ケルンはノエルを抱えて飛びのき、セラとキースはそれぞれ左右に跳んで避けた。
木が倒れ、視界の先にいたのは、巨大な斧を構えたゴーレム。
その横にいたのは――やはり。
「お前は!」
不気味に笑う、白い少女だった。
俺は笛を吹き鳴らす。ノエルも俺に言われるまでもなく俺を抜いた。
キースとケルンも、それぞれの武器を素早く構える。
ただ一人、武器を失っているセラも、拳を握り、ボクシング選手のような構えを取って、戦う意思を見せた。
俺たちにそろって睨まれ、白い少女は首を傾げた。
「……勇者と魔王が一緒にいるのね」
「アンタの思惑には乗らないっすよ」
少女は小首を傾げる。
「お前が何をしようと、この魔王ノエルが、戦争など起こさせぬぞ!」
ノエルは俺を突き付け、啖呵を切るが、白い少女はくすりと笑う。
「戦争? 人間と魔族が滅びようとそんなことはどうでもいいわ――そんなことより」
少女は冷たい声で言うと――斧を振り回すゴーレムと共に、突っ込んできた。
「魔剣ラグナロク――貰い受けるわよ」
――え? 狙いは俺?
と、混乱している余裕もなく、ゴーレムはごうんごうんと巨大な斧で、周囲の邪魔な木をなぎ倒しながら迫る。
キースはノエルを振り返った。
「あのゴーレムは任せられるっすか!」
「勝手な指図を――」
「任せておけ!」
ケルンが何かを言いかけたが、ノエルは頷く。
キースの持っている弓は、音を聞いた者の精神に作用する。が、精神を持たないゴーレムには効果がない。この状態で能力を乱発すれば、却って味方に不利になる。
キースは猫のような俊敏さで、倒れた木の幹を飛び越え、物陰に隠れた。
「ラグナロク、行くぞ!」
わかってるさ。あいつは妹を、そして魔族や人間の村を襲った。
許す気はない!
俺は風でノエルの周りを守ると同時に、ケルンの槍を包む。さらに風の刃を、ゴーレムと少女に向けて飛ばした。




