魔剣になった俺(01)
†††
――ここはどこだ?
気がつくと、俺は、薄暗い場所に立っていた。
立っているはずなのに、歩きだそうとしても、体が微動だにしない。神経が切れてしまったかのように、体に力が入らない。
目だけでも動かして、周りを見渡そうとすれば、全方位に知覚が広がるのを感じた。
目で物を見ている時とは違い、景色が直接頭の中に流れる感覚。
夢の中で見る景色がこんな感じか。自分自身を俯瞰しているとでもいうべき、奇妙な知覚。
その知覚で、俺は自分自身の体の輪郭を感じ取り――自分が剣になっていることを知った。
……。
…………は? 剣?
自分の体が、西洋風なゲームのキャラクターが振り回す、あの剣になってるんですが。
いや、動かねーんだけど、この体。
しかも、ここはマジでどこだ?
暗くてじめじめして、壁は石で組まれてるっぽい。 ピラミッドの中みたいというか……ゲームのダンジョンみたいなとこなんですが。
周りには人どころか、ネズミ一匹いやしない。
ううむ。流行りだからな、異世界転生のネット小説はそれなり読んだが……。
火事で死んだと思いきや、剣に転生して、こんなダンジョンのアイテムになるとは。
異世界転生し、俺は孤独で地味なスタートを切ったのだった。
とりあえず、この体の仕組みを理解するところからスタートだな!
というか、何かしてないと、退屈で精神が殺されそうだ。
まず視界。剣である俺には目がないのに、どういう訳か周囲が見えている。
俺が地面に突き刺さってるこの部屋は、およそ3メートル四方の狭い部屋だ。どこまで視界が広がるかは分からないが、直線距離に遮るものがなければ、まあまあ人間の時と同じように見えるようだ。
ただし、視界は上下左右全方位に広がっている。これは目でものを見てないせいなんだろうな。どういう理屈で見えてるのかは分からんが。
次に、聴覚は人間並みにあるようだ。ダンジョンの奥は静かだが、たまに遠くから、雫が落ちるような音が聞こえるからな。
触覚は、どうもかなり鈍いらしい。俺が地面に突き刺さってるのは見れば分かるんだが、地面と俺の剣先との接地面の感覚が、それほどしないからだ。
嗅覚もぼんやりとはあるようだ。湿った土の臭い。
味覚はないだろう……多分。
自分の体の感覚をつかんだところで、次に俺はどうにか体を動かせないか、試す。
前世の感覚を頼りに力んでみたが、筋肉のない、鋼の塊はそれで動くはずもない。
次に、動きたいと念じてみた。人の魂が宿っている剣なのだ。それで、ひと○いサーベルのように動くかと期待したが……どれだけ粘っても駄目だった。
最後に、一発逆転、擬人化できないかと思ったが、これも無理だった。
昨今、刀がイケメンになれるというのに、元人間が剣になったままって、何の罰ですか……。
あっという間にやることがなくなった俺は、そのままぼんやりしていた。
ああ、暇だなあ。前世では暇さえあればゲームして動画見て、睡眠時間も削るほどで、暇を感じることなんて久しくなかった。眠くてうとうとしてた時でさえ、伊織がゲーム片手に部屋に乱入してきたからな。
目があったら、涙で視界が滲んでいたに違いない。
真っ暗なダンジョンは時間の感覚を狂わせる。俺がここで目覚めてから、時間はちょっとしか経っていなかったのかもしれないが――俺には永遠にも感じられた。
誰か。ここに素敵な武器が落ちてますよ。
ダンジョン(深いのか? それすら分からない)を踏破して、手にいれてください。
そんなことを祈った瞬間――俺のいる部屋の扉が、開かれた。
はっと意識をそちらに向けたら、そこにいたのは、まだ若い――いや、幼いといっていいほどの、少女がいた。
「見つけたぞ!」
嬉しそうな顔で少女が俺に近付いてくる。
ふわふわとした金髪が、揺れた。恰好はそう――ゲーム世界の魔法使いがよく着るような黒いローブを着ている。いや、でもなんかリボンもフリルもついてるし、どっちかというと、ドレスっぽいな。俺はあんまり詳しくないけど、ゴスロリっていうのか?
彼女は俺の前に立ち、剣の柄を握った。そして、高らかに宣言する。
「我が名は魔王ノエル! 魔剣ラグナロクよ、我を受け入れろ!」




