折れた聖剣(02)
呆然としている俺に、ノエルがゆっくりと近付いてきた。
「……ラグナ、ロク?」
そして、恐る恐るといった様子で、俺を地面から引き抜く。そしてゆっくりと鞘にしまった。
それを見て、ふうと栗色の髪の女戦士は息をついた。そして、転がる聖剣をゆっくりと拾い上げる。
「セラ、聖剣さんが!」
「……急に真っ白な少女が現れて、聖剣を折った。一体何が起きたのか、僕にも……」
真っ白な少女と聞いて、ケルンが反応する。
「何だと?」
「……この者の言うことは本当なのだ、ケルン。……我らはゆっくり話し合わねばならないようだ」
そう言ってノエルは、人間側の二人に改めて向き合う。
髪はぼさぼさ、着ている服も汚れていたし、多分俺のせいだと思われる擦り傷が顔についていた。本当、ごめんな、ノエル。
「改めて、我は魔族の王、ノエルだ。少し、話を聞かせてはもらえぬだろうか?」
「……いいっすよ? その代わり、そっちの話も聞きたいっすね」
「勿論だ。そなたらには、借りがある」
弓を背負った細目の青年は、肩を竦めた。
ノエルとケルン、そして人間側――セラとキースというらしい――はここでようやく落ち着いて話をするに至った。
なお、話し合いにはソンタもいる。
すっかり忘れていたが、このソンタという一般人、俺の暴走の際に真っ先に逃げ出したらしい。魔族の民が王の目前で逃げ出してしまうなど、と頭を地面につけて詫びていたが、ノエルはもちろん許した。
「ソンタ殿が逃げなければ、逃げろと命じていたところだ」
「も、申し訳ありません……」
しかし、ソンタは恥じ入っていた。
まあ、自分よりずっと小さい少女が逃げずにいた横で、大の男が我先にと逃げたんだもんな。
魔族側は、人間側がゴーレムを仕掛けてきたこと、ソンタの帰りが遅いことから遺跡地帯に探しにいったことを話した。
「……そして、我らも、遺跡地帯の中で、あの白い少女に襲われたのだ」
「何ですって?」
「少女、というよりは少女の操るゴーレムだったが」
キースと名乗った青年が、人間側で起きたことの事情を説明した。
人間領で、ゴーレムに村が襲われる事件が起きたこと。魔族との戦争回避のために、国王からの命で遺跡地帯に向かっていたこと。
人間の村でソンタがゴタゴタに巻き込まれていたので助けて、ここまで送り届けてきたこと。やはり自分達も遺跡地帯でゴーレムに襲われたこと。
「……どういうことだ? お前たちの話を信じるなら、まるで人間側も魔族側と同じ状況ではないか」
「――魔王ノエルの名に誓って言うが、我はゴーレムを人間にけしかけたりなどしてはおらぬ。そのような馬鹿なことをすれば、傷つくのは民ではないか……」
ケルンとノエルの言葉に、セラとキースも顔を見合わせる。
「どういうことだろう?」
「……第三勢力があるんじゃないんすかね? 俺は姿を見てないっすけど、その白い少女ってのは、人間側にも魔族側にも敵対しているとみていいわけっすから」
キースは胡坐をかいた上で頬杖をついている。
さっきから思ってたが、こいつ頭は悪くないけど、なんかチャラいな。
それに対して、セラは地面の上でちゃんと正座している。ま、ノエルっていう、仮にも他国の王様の前だもんな。こっちが当然の態度か。
「……第三勢力……。これは、一度王様のところに戻って、報告した方がいいのかな」
「そうできたらいいんすけど……。聖剣さんを隠し通せるっすかね?」
キースは、折れた聖剣――変わり果てた妹の姿を――見た。
「さっきの魔剣の大騒ぎ、人間の街からも見えたはずっすよ。そうなると、こっそり遺跡地帯から出てくるのは難しいし……そこで聖剣さんが折れたことがバレたら、それこそ不安や魔族への怒りを煽って、戦争の火種にもなりかねないっす」
聖剣を折ったのはあの白い少女(今のところ、人間か魔族かは分からない)なのだが、人間側の希望の象徴である聖剣が失われたことが判明するのはまずいという。
それを聞いていたソンタが、おずおずと手を挙げた。
「あの……”忘却の村”に行ってみるのはどうでしょうか」
「え、何の村だって?」
「”忘却の村”は、ここから遥か北東の村ですが……今となっては忘れられたような、古い知識は、全てそこに残されているという言い伝えがあるのです。そこなら、もしかしたら、古代の――魔道具の知識が残されているかもしれません。その聖剣を、直す手立てが、見つかるかも」




