魔剣と聖剣が出会う時(04)
†††
ケルンとキースは、それぞれが守るべき人から離れて戦っていた。
互いに魔道具持ちの戦いである。その能力で味方を巻き込むわけにはいかない。
「はっ!」
キースは、遺跡の壁を蹴って軽業師のように跳びあがると、すかさず弓を放つ。弓が弦から離れる瞬間、美しい音色が鳴る。
しかしケルンはそれを正確に槍で弾き飛ばすと、重い鎧を着ているとは思えないほどの俊敏な動きで追う。
(ああ、耳を塞いでるっすか……)
キースの持つ幻惑の弓は、例外なく、音色を聞かせた相手の精神に影響を与える。しかし目の前の戦士は、まったく動きが鈍る様子がない。
すぐに耳を塞いでいるのだと気付いた。そこからは、魔道具の能力ではなく、矢を放つという弓本来の使い方で戦っていた。
対してケルンも、目の前の弓使いに驚いていた。
幻惑の弓の能力さえ封じれば、体術勝負でねじ伏せられると思っていたが、軽やかな動きでこちらの槍を避け、巧みに距離を取って攻撃してくる。
「人間め……我が民に手を出させるなど、絶対に許さんぞ」
「ちょっと待つっすよ、そっちだって遺跡地帯に入ってきてるじゃないっすか、第一、急に攻撃してきたのはそっちじゃないんすか?」
「仕掛けておいてぬけぬけと!」
キースは、ケルンが放った、槍の一撃を跳んで躱す。
軽く空中一回転をしながら、キースは呟く。
「耳塞いでいる割に俺の言葉に返事できるってことは、唇読めるんすね」
「武人として当たり前だ」
キースは、それもそっすね、と答えた。
声を出せない状況でも互いに合図を送るため、訓練された戦士ならば読唇術を学ぶ。
「さっき言ったっすね、仕掛けたって何のことっすか?」
「……?」
キースは矢を放つのを辞め、ひたすらにケルンの槍の攻撃を避けることに徹した。キースはもともと矢を多く持ち合わせていない。これ以上矢を無駄にするのは得策ではないと考えたためだ。
「例えばっすけど、ちっこいゴーレムの群れだったりっすか?」
「……。」
ケルンは黙るが、その表情でキースは、当たらずとも遠からずと知る。
「俺たちもゴーレムに襲われてたとこっすよ。ちょっと一回話し合おうっす」
「――黙れ」
「……交渉失敗っすか」
キースは内心ため息をつく。
人間は魔族が嫌い、魔族は人間が嫌い。戦争の歴史を思えば仕方ないとはいえ、だ。
言葉での交渉をあきらめ、キースは上着のポケットから、小さな包みを取り出した。それを思い切り割いて投げつける。
「ぐっ!」
細かい粉が飛び散り、一瞬ケルンの視界が真っ白になる。
その隙にキースは一気にケルンの後ろに回り込んだ。
相手の戦士は耳を塞ぎ、聴覚を捨てている。そこで視界を奪えば、もはやキースの素早い動きについてはこれない。キースは一気に間合いを詰め、ケルンの首の後ろを狙い、掌底の突きを繰り出したのだが。
「小癪なっ!」
「ぐっ……」
ケルンは気配だけでそれを察知し、力づくでキースを跳ね飛ばした。
細身のキースは重い一撃を受けて地面に仰向けに倒れこむ。そのキースの首筋に、ぴたりと槍の穂先が当てられた。
「……やばっ」
キースはそう言い、両手を開いて、降参の意思を示した。ケルンは無理やり、痛む片目を開いて、キースを睨みつけた。
「答えろ――貴様、その弓を、どこで手に入れた」
「はあ……?」
何で今、そんなことを聞くのかとキースは目をぱちくりさせるが、問うケルンの目は真剣そのものだ。
「幻惑の弓っすか? っと、これは――」
キースが答えようとした瞬間、地面が震え、凄まじい音が聞こえてきた。
二人ははっとして、音の方向を見る。
あっちは――セラとノエルが、いる場所だった。




