勇者と旅する私(06)
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水晶玉に、男の人と女の子が映っている――と思った次の瞬間には、水晶は急に真っ暗になって見えなくなった。
「ええっ? また壊れた?」
「いや、違うと思うっす」
慌てるソンタさんに、キースが冷静に言う。
「多分、向こう側が水晶を布か何かで覆ったんす。ちょうどさっきみたいに」
キースは、水晶を包んでいた布を拾い上げ、荷物にしまった。
「今、見えたのは誰だろう?」
セラが疑問を口にする。恰好からして、二人は、普通の村人ではなさそうだった。
「……わかんないけど、近くにいるんじゃないっすか。向こうの背景、ここと似たような遺跡だったっすよ」
ううむ、本当にキースって油断ならないよね。よくあの一瞬でそこまで見てるよ。
「じゃあ……」
セラが何か言いかけた瞬間、金属のこすれるような音がした。
前世ではどちらかといえば運動神経の悪かった私が、咄嗟に危ない! と感じたのは、武器ゆえの戦闘センスなのかな。即座に結界を発動させた。
「聖剣様!?」
(私を構えて、セラ!)
「いつの間に……!?」
キースも弓を構えながら、辺りを見渡す。
金属っぽい小さなゴーレムが、遺跡の陰からどんどん表れて、私達を囲んでいた。
その大きさは膝くらいで、ブリキのおもちゃみたいに見えなくもないけど――どれもみんな手が鋏になっていて、シャキン、シャキンと音をさせながら、じりじりと私達に近付いてきていた。
「ちょ、すごい数っすよ……!」
キースは奥歯を噛み締める。
「キース、街でやってみせた、あの弓の魔法は使えないの?」
セラは私を構え、キースと背中合わせで辺りを見回す。
「幻惑の弓は、生き物相手じゃないと効果ないっす!」
ああ、そういえば、あの時私は魔法にかからなかったね。
私は周囲の音が聞こえてるけど、耳で聞いてるわけじゃない。多分、あの不思議な音が脳神経に作用するとか、そういう感じなんだろうな。
そうなると、ソンタさんは戦えなさそうだし、頼りになるのは聖剣の私の能力だけ?
だけど、結界で覆った周りはシャキン、シャキンと鋏を鳴らす無数のゴーレムに囲まれてる。結界の外に出た瞬間、あれが一斉に――うう、考えたくない。
かといって、いつまでもこうしていられない。私やゴーレムのような魔道具と違って、セラ達には限界がある。結界の中に閉じこもっていても、お腹も空くしトイレだって行きたくなる。
「一体一体なら弱そうなのに……」
セラが言う。うん、そう、だけど集団で一気に襲いかかられたら……ん?
ピカピカピカ、と私は点滅して、セラに注意を発した。
「聖剣様?」
細かい作戦は話せないけど、頼むよ、セラ!
私は周りにむらがるゴーレムの一体に意識を集中させて――結界の中に入ることを許可した。
ゴーレムは鋏を振り上げ、セラに突進する。
「えっ!」
セラは咄嗟にゴーレムを私で叩いた。小さなゴーレムはすぐにセラの足元に転がって動かなくなる。
壊れたところで、ゴーレムを改めて、結界の対象外にする!
ぺいっ、と勢いよく弾き出されたゴーレムは、ボーリングみたいに他のゴーレムを何体かなぎ倒した。
「なるほど、一体ずつ結界に迎え入れて倒すんすね。時間はかかりそうっすけど、安全っす」
キースが私の作戦を説明してくれた。その通り!
「さすがです、聖剣様!」
ふふふ、前世では、軍師伊織様と呼ばれたこともあるのだ。お兄ちゃんにだけ。
こう見えてお兄ちゃんとはタクティクスバトル系は結構勝ってたんだよ。パズル系と格ゲーでは負けたけど。
(さあ、どんどん倒すよ!)
私達は、一体一体、ゴーレムを地道に倒していった。さすがにセラとキースは疲れてきたらしく、三十体倒したあたりでため息をついた。
「一体、何体いるんすか……」
「うん、それにしても、何でこんなにゴーレムが?」
それは確かに。
ゴーレム=魔道具=この世界では貴重品、だよね?
「まさか魔族は、ゴーレムの作成に成功したとか?」
「それは無理ですよ! 魔道具は、失われた古代技術なんですから」
うーん。そうなのか。
そんなことを考えていると、急に、ゴーレム達が動きを止めた。
今まで突撃していた勢いはどこへやら、ゴーレム達はささーっと蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。
「に、逃げた……?」
セラは、ゴーレムが消えた方を見た。
このまま攻撃しても、勝ち目がないと判断したのかな?
「や、どうすかね、聖剣さんと違って、そんな高度な判断ができる魔道具とは思えないっす」
「ええ……最初の数体がやられた様子を見れば、もっと早く判断することも可能だったはずです」
確かに。結界に身を守りながら、一方的に攻撃してたもんね。
キースはその意味するところを呟いた。
「誰か、あのゴーレムに撤退指示を出した奴がいるっす……」
ぞっとした。
つまり、誰かが私達を監視していて、手のひらで踊らされている?
セラもそれを感じたのか、険しい顔になる。
「早くここを離れた方が……」
セラが何か言いかけた時だった。
「見つけたぞ!」
突然割って入ってきたのは、さっき水晶に映っていた、金髪の少女だった。
黒い剣を構え、その切っ先は真っ直ぐこちらに向けられている。
(あれ? あの黒い剣、どこかで見たような……。)
少女は高らかに宣言した。
「我が名は、魔王ノエル! 人間よ、盟約を破り、我が民を脅かす者を、許すわけにはいかぬ!」
★キャラ紹介
■魔剣ラグナロク(???)
性別:男?
魔族の宝である魔道具の剣。風を操ることで、真空の刃で攻撃、飛んできた矢を逸らすなど、攻守ともに優れた戦闘能力を持つ。
男子高校生だった前世で、ゲーム・ラノベ好きだったことが幸いしてか、異世界でのバトルにもそこそこ適応。
前世では特に格闘ゲーム、音ゲーなど、タイミングと技術が要求されるゲームが得意だった。
■聖剣エクスカリバー(伊織)
性別:女?
人間の宝である魔道具の剣。本来優れた防御の能力である結界を、攻撃にも転用するなど、意外な戦闘センスを持つ。
兄同様、女子高校生だった前世で、ゲーム・ラノベ好きだった影響か。
前世ではどちらかといえば運動音痴だったが、剣となって世界の知覚の仕方が変わったのか、反射神経もいい。
輝くことでセラ達と、「はい/いいえ」の二択で、会話できるようになった。
■セラ
性別:男
聖剣に選ばれた勇者。真面目で正義感が強い。
勇者補正なのか、女性と見間違われる容姿にはますます磨きがかかり、大概の男性はセラに一瞬見とれる。
しかし、本人は身も心も男性。ゆえに、自分が相手を魅了していることにはまったくの無自覚。
■キース
性別:男
勇者セラの護衛である、弓使いの青年。
所有している魔道具「幻惑の弓」はその音色で相手を惑わす効果がある。
チャラいが頭は良い。聖剣に意識が宿っていることを見抜く観察眼の持ち主でもある。
しかし、男だと理解しているはずのセラの前で葛藤しているので、ハニートラップには弱いかもしれない。
■ノエル
性別:女
魔族の王族の姫。少女なのだが魔王。
魔剣ラグナロクが勝手に戦っているからどうにかなっているものの、本人の戦闘能力は皆無で、戦闘では剣を掲げているだけ。
しかし真面目で、民のことを優先して考える優しい少女。
甘いものに目がない。
■ケルン
性別:男
魔族の戦士で、ノエルの護衛。
従者としては、ノエルに少々甘いことを除けば非常にハイスペック。
戦闘能力も高いが、執事としての能力も高い。お茶を淹れさせても、菓子を焼かせても腕前は一流。
幼い頃に別れた姉がいる。
■ソンタ
性別:男
魔族の青年。魔道具の研究をしている。
珍しい魔道具を見ると鼻息荒く迫るが、それ以外は学者らしく丁寧な物腰。
■白い少女
ゴーレムを操る謎の美少女。




