魔王と旅する俺(06)
†††
ゴーレムを倒したケルンは荒い息を吐きながら、槍を白い少女に向けた。
「貴様、何者だ、答えよ!」
「……ふふ」
少女は冷たい微笑を浮かべて、ノエルを見た。ノエルが、ぞくりと震える。
「どうして魔剣や聖剣が人々を助けるのか分からないけれど……それなら、魔剣の相手は、聖剣に任せるとしましょう」
――聖剣だって?
少女は、ひらりと飛んだ。まるで空中から糸で吊られているかのように、ふわりと宙を舞い、遺跡の屋根に降り立つ。
人間離れした動きに、俺達は驚き、目で追うことしかできない。
「待て!」
「ふふふ……」
遺跡の屋根から、音もなく、ひらりと向こう側に飛び下り――少女は消えた。
「な、何だったのだ……」
ノエルは、少女が消えた方を見て、呆然と呟く。俺もまったく同じ思いだった。
「く……」
ケルンが膝をつく。槍を支えにして、かなり辛そうだ。
「だ、大丈夫か!?」
ノエルが慌てて駆け寄る。ちなみに俺は地面に刺さりっぱなし。
「はい……しかし、休んでいるわけにはいきません、急がなければ」
「え?」
「さっき、水晶で見た一行を覚えていますね」
「うむ」
ソンタと、栗色の髪の女性と、弓を持った青年だったか。
「彼らは近くにいると考えていいはずです……。あの弓の魔道具は厄介で、その弓の弦から放たれる音を聞くと、一時的に心を捕らわれてしまうのです」
「むっ……」
それは厄介だな。
「ですから、音が聞こえないよう、耳に栓をしておいた方がよいでしょう」
というわけで、ケルンとノエルはそれぞれ、耳に綿を詰めた。なんで綿がそう準備よくあったのかというと、ケルンの持っている裁縫箱に入っていた。
何故、裁縫箱を持っているんだと思ったが、ノエルの洋服の手入れ用らしい。旅の荷物が多すぎませんか、ケルン。
完全に音が聞こえないようにしたらしく、ノエルはケルンに用がある時には、マントの袖を引っ張っている。
俺はノエルの腰にぶら下がりながら、周りに注意を払っている。(ちなみに「力の手袋」は、すぐにノエルに返された)
確かに、その弓の魔道具を持った相手から不意打ちされる危険性を考えたら、耳を塞ぎっぱなしにするしかないんだろう。けど、周囲の音が聞こえないって、結構危ないと思うんだよな。
というわけで、俺が周りを警戒するしかないのだ。
そうして神経を尖らせながら歩いていたら、人の話し声が聞こえた。
魔剣バイブでノエルに知らせる。
「ひゃう」
振動をくすぐったがるノエル。少女をくすぐるって、何かいけないことをしている気になるが、それはともかく。
ケルンはそれで周りの気配を察し、崩れた壁に身を隠しながら、向こうの様子を伺った。
「……。」
ケルンは、さらさらと指で、足元の地面に字を書いた。
あ、筆談か。
互いに声が聞こえないなら、そりゃまあそうするんだろうけど、参ったな、それだと、異世界の字が読めない俺には内容が分からん。
ゆくゆくは字の勉強もしたいところだ。この剣の体で機会があるかはわからないが。
「……うむ、分かった」
ノエルは答える。
ケルンはノエルをその場に残すと、静かにその場を離れ、忍び足で遺跡の陰に隠れながら、彼らの後ろに回り込む。
なるほど、挟み撃ちか……それにしても、ケルンが敵前でノエルを残すとは。
ケルンは、鋭い目で弓使いの青年を睨んでいる。それだけ、あの魔道具を警戒しているのか。
「……が、頑張るのだ」
ノエルは気合を入れるために一人呟き、俺の柄を握りしめる。
一気に俺を引き抜くと、三人の前に躍り出た。




