勇者と旅する私(05)
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あれから、キースの魔法の効果が解けて、我に返ったセラが、顔を真っ赤にして慌てたり、街の人達の盛大すぎる見送りを受けて、街を慌ただしく出たりと、色々なことがあった。
なんやかんやの末、セラと私、キース、そして魔族の青年の三人は、遺跡地帯の中を進んでいた。
「さてと、もういいっすかね」
街から十分に離れたところで、キースは魔族の青年を後ろ手に縛っていたロープを解いた。
「……ごめんね、こうしないと皆、納得しないって……」
「いえ、いいんです。お二人が私を助けてくれたのはわかってますから」
魔族の青年は、改めてセラとキースに礼を言って、頭を下げた。
「ありがとうございます。あのままだったら、私はどうなっていたか……」
「そもそも、何で魔族の兄ちゃんが、人間の街に一人でいたっすか?」
キースが尋ねると、彼は首を横に振った。
「私も分からないんです。私は遺跡地帯を見回ってたはずなんですが、気が付けばあの街に倒れていて……」
不可解な話に、セラとキースは顔を見合わせる。
「……もう少し詳しく教えてもらえる?」
「はい。申し遅れました、私はソンタといいます。魔道具の研究をしています」
挨拶する彼はとても礼儀正しかった。
「魔族の村では、遺跡地帯に人間や、許可を得ていない者が入り込まないか監視するために、双子水晶という魔道具を使っているのですが」
双子水晶というのは、お互いに離れた場所の景色を写す魔道具だそうだ。Skypeみたいなものかな。
村で監視している水晶が、急に写らなくなったことから、遺跡側に設置している方の水晶の様子を見に、ソンタさんは遺跡地帯に入ったらしい。
こんな細いお兄さんが一人で行ったの? 危なくないの? と思ったんだけど、ソンタさんは魔道具、つまりは古代の文明について研究していて、よく遺跡地帯で調査をしていたから、大丈夫だと思ったらしい。
「なのですが、遺跡に入ってしばらくしたところで、意識を失って、気が付けばあの街にいまして」
キースは首を傾げた。
「拉致されたんすかね? でも何のために」
「双子水晶を修理されたら不味いと思った、人間側の仕業では?」
ソンタさんの言葉をキースは否定した。
「それでも、わざわざ人間の街に放り出す理由はないっす。遺跡地帯は結構広いっすよ? ソンタさんを担いでいくのも一苦労っす」
キースの意見ももっともなので、ソンタさんも腕を組んで唸った。
「……ともかく、これからどうしましょうか?」
セラが言うと、ソンタさんは困った顔をした。
「私としては、自分の村に帰りたいのですが……」
「俺たちもこうなった以上、遺跡地帯を適当にふらふらしてから、こっそり”煉瓦の街”の人たちに気付かれないように帰るのがいいかもしれないっすね」
うーん。任務を与えてくれた王様には申し訳ないけど。
「それでいいですか? 聖剣様」
ピカッ。任せるよー。
私達のやりとりに、ソンタさんは目を丸くした。
「……え? 聖剣?」
わなわなと震え出すソンタさん。あ、しまった。
聖剣の存在は、魔族の彼を怖がらせたかも――なんて思っていると。
「すごい! もっとよく見せ――ぶあっ」
セラの腰に提げられた私目がけて突進してきたソンタさんを、ついうっかり結界で弾いたのは、悪くないと思う。
吹き飛ばされたソンタさんは、すぐに回復して謝った。
「すみません、つい、魔道具研究家の血が騒いでしまい」
「はあ……」
「あ、あの、女性に向かって我を忘れて突進するなんて、失礼しました」
「聖剣様、怒ってらっしゃいますか?」
ピカピカ……と2回点滅する。怒ってはないけどさ。
そもそも、ソンタさんの言ってる女性って、私のことじゃなくて、セラのことだからね。
「しかし、意思を持って対話が可能な魔道具とは……」
ソンタさんは私に興味津々だ。
「珍しいっすか?」
「魔道具は、命令を受けて動くのが常識ですから……あ、いえ、遺跡の壁の一部にに、そんな記述があったかもしれませんね……魂を宿す魔道具・ラプラスという記述だったかな……」
え、何それ。気になる。私みたいなのが他にいるってこと?
「魂を宿す魔道具、ですか?」
「ええ、残念ながら、遺跡の壁は崩れていて、それ以上読めなかったのですが」
ううむ、残念。
「となれば、対となる存在の魔剣ラグナロクも……?」
ぶつぶつ呟くソンタさん。魔剣ラグナロクか、それっぽい名前だなあ。
おしゃべりはそれくらいにして、私達はどんどん歩いて行った。や、まあ、私だけはセラの腰にぶら下がってるから歩いてないけど。
大昔に滅んだっていう文明の、崩れた建物の間を進んでいく。古代ギリシャとかエジプトとかの遺跡ってこんな感じかなあ。申し訳ないが、ゲームのイメージが先行してしまう。
「……結構歩いたっすねえ」
「そろそろ、人間と魔族の領地から中間地点くらいかな?」
セラが太陽を見上げながら言うと、ソンタさんは頷いた。
「そうですね……あっ!」
ソンタさんは、遺跡の台座らしきものを見つけて近付いた。台座には、布に巻かれた丸いものが置かれている。
「どうして、こんな……」
「何ですか、これ?」
「双子水晶ですよ。こんな風に布で隠されていたら、景色が映らないはずです」
「へえ……」
興味を持って、セラが覗き込む。
何重にもしっかり巻かれた布を、ソンタさんはほどいていった。
「ああ良かった、これで村の皆にも……」
さらり、と布が外され、透明な水晶玉が表れた。そこに映っていたものを見て、私達は驚いた。
「――えっ?」
そこには、驚いた顔の、鎧を来た男性と、可愛い金髪の女の子が映っていて、こちらとしっかり目が合った。




