魔王と旅する俺(05)
†††
ヤバい。
腕から無数の針をマシンガンのように撃ち続けるゴーレムが、ずんずんと地響きをさせながら迫ってくる。
俺は針を風で吹き飛ばし、ノエルとケルンを守っているのだが、ゴーレムの巨体を押し退けることはできず、このままじゃやられる。
「うう……」
ノエルは、ゴーレムを睨み付ける。背中を見せて逃げたところで、ゴーレムは俺達を追ってくるだろう。
ここで戦うしかない。
俺は必死に考える。何かないのか。針の攻撃を防ぎながら、ゴーレムを攻撃する方法は――
「姫様」
ケルンが槍を構え、ノエルの前に立った。
「ケルン……」
「――命に代えても、姫様をお守り致します」
その顔は、覚悟に満ちていた。
ケルンも馬鹿じゃない。あのゴーレムを相手にすれば、死ぬかもしれない。
死ぬかもしれないこそ、刺し違えても――ノエルを守るつもりなんだ。
覚悟を決めたケルンに、ノエルは答える。
「許さぬ……」
ノエルだって、この状況が分かっている。
「我の為に死ぬなど、許さぬ……我は魔王だ。民を犠牲に生きるような命を持ち合わせてはおらん」
だけど、ノエルはぶれない。
「姫様」
ひどく困ったような、ケルンの声。だけど――。
「だから――命令だ! 必ず、勝って戻るのだ!」
「――御意」
ああ、くそ、格好いいなあ!
ノエルを泣かせるわけにはいかない。俺も――出来るだけのことをするしかない!
「!」
空気を操り、俺は自分の周りの気圧を変化させる。下の方を減圧にする。すると圧力の差に吸い込まれ、俺の刀身は地面に刺さるように降り下ろされる。
ノエルからしたら、急に剣が独りでに地面に刺さったように思えるだろう。
「えっ?」
この意図が、ノエルに伝わるか。
力のないノエルは俺を持つために、「力の手袋」という魔道具を装備している。
けど、風を操る、後衛の魔法使いとしての役割を考えれば、鞘から抜いてもらえさえすれば、俺はノエルの手に持っていてもらう必要はない。
俺は地面に突き刺さったままで構わない。だから、ノエル、手袋をケルンに渡すんだ。
あのゴーレムと戦うのに、それは必要なものだから。
そう念じながら、ノエルの手にドライヤー程度の風を当てる。
ノエルはそれで気付いたのか、手袋を外してケルンに渡す。ケルンはそれを受け取り、素早く装備した。
(よし!)
ボス戦前の装備チェックは常識だからな!
ケルンが槍を構え、ゴーレムに向かって突進するのに合わせ、俺は風の流れを調整し、ケルンに針が近付かないように吹き飛ばす。
「はあ!」
ケルンはゴーレムの関節に槍を突き立て、押し込む。ゴーレムの急所を狙った攻撃だ。
正確な一撃だった。しかし、”力の手袋”で腕力を補助しても、ゴーレムにはまだ傷さえつかない。
ゴーレムは、近付いてきたケルンに、巨大な腕を振り下ろした。
「ケルン!」
ノエルが悲鳴のような声を上げる。
――いや、させるかっ! ゴーレムの腕の周りに無理やり空気の流れを作り出す。
ゴーレムの重い腕を、俺の風の力だけで止めることはできないが、それでも動きを鈍くするくらいの効果はあった。
優れた戦士であるケルンは、ゴーレムの腕を避けながら、何度も攻撃を繰り出す。
「はあ!」
何度も、何度もケルンはゴーレムの肩の関節めがけ、槍を刺すが、鋼鉄の体にはなかなか攻撃が通らない。
防ぎきれなかった針が、ケルンをかすめ、いくつかの切り傷を作っていた。
――早めに勝負を決めさせないと。
俺は魔剣に転生してから、疲れというものを感じたことがない。
物だから当然だと思う。多分、ゴーレムも一緒なはずで、生身のケルンは、いくら疲れを感じないとはいっても、持久戦になれば圧倒的に不利だ。
戦いを見る限り、足りないのは、攻撃力か。だったら!
俺はケルンが繰り出す槍に、竜巻のように風をまとわせた。銀色の光が槍を包む。
「これはっ!?」
急に風に包まれた槍に、ケルンは驚いたようだった。
ああ、言葉が話せないのがもどかしい。
エンチャント――付与魔法のつもりなんだけど。
ノエルも、え? といった顔で俺を見たが、すぐにケルンに指示を出す。
「た、多分、ラグナロクの力だ! 行け、ケルン!」
「はっ!」
あっぱれ忠誠心。ノエルの言葉を聞くと、ケルンは迷いなく槍を突き立てる。関節に槍が刺さったのと同時に、俺はその槍を、風の力で、回転させた。
「!?」
回転によって、ごりごりと押し込まれる槍。
そう――ドリルだ。
ケルンは一瞬戸惑うが、槍の先がゴーレムの関節に入り込むのを見て、怪力で押し込む。
ガキリ、と音がして、ゴーレムの腕が外れた。
「!」
ケルンは、バランスを崩したゴーレムに、素早く第二撃を叩き込む。同様の要領で、もう片方の腕も同じように外す。
ドリル槍によって両腕の外れたゴーレムを、ケルンは思い切り蹴飛ばした。
ゴーレムは仰向けにどさりと倒れる。
ひっくりかえった亀のように、起き上がれなくなってもがく。ああなればもはや戦闘不能だ。
やった、勝った。だが喜ぶには早い。戦いを少し離れていたところから観察していた白い少女に、俺は意識を向ける。
「魔剣が自分の意思で人を助けている……何故?」
白い少女は、倒されたゴーレムを見ると、無表情のまま、機械のように冷たい声で呟いた。




