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俺が魔剣、妹が聖剣に転生した件  作者: 梨野可鈴
第二章  使い手との旅
20/61

魔王と旅する俺(05)


 †††


 ヤバい。

 腕から無数の針をマシンガンのように撃ち続けるゴーレムが、ずんずんと地響きをさせながら迫ってくる。

 俺は針を風で吹き飛ばし、ノエルとケルンを守っているのだが、ゴーレムの巨体を押し退けることはできず、このままじゃやられる。


「うう……」


 ノエルは、ゴーレムを睨み付ける。背中を見せて逃げたところで、ゴーレムは俺達を追ってくるだろう。

 ここで戦うしかない。

 俺は必死に考える。何かないのか。針の攻撃を防ぎながら、ゴーレムを攻撃する方法は――


「姫様」


 ケルンが槍を構え、ノエルの前に立った。


「ケルン……」


「――命に代えても、姫様をお守り致します」


 その顔は、覚悟に満ちていた。

 ケルンも馬鹿じゃない。あのゴーレムを相手にすれば、死ぬかもしれない。

 死ぬかもしれないこそ、刺し違えても――ノエルを守るつもりなんだ。

 覚悟を決めたケルンに、ノエルは答える。


「許さぬ……」


 ノエルだって、この状況が分かっている。


「我の為に死ぬなど、許さぬ……我は魔王だ。民を犠牲に生きるような命を持ち合わせてはおらん」


 だけど、ノエルはぶれない。


「姫様」


 ひどく困ったような、ケルンの声。だけど――。


「だから――命令だ! 必ず、勝って戻るのだ!」

「――御意」


 ああ、くそ、格好いいなあ!

 ノエルを泣かせるわけにはいかない。俺も――出来るだけのことをするしかない!



「!」


 空気を操り、俺は自分の周りの気圧を変化させる。下の方を減圧にする。すると圧力の差に吸い込まれ、俺の刀身は地面に刺さるように降り下ろされる。


 ノエルからしたら、急に剣が独りでに地面に刺さったように思えるだろう。


「えっ?」


 この意図が、ノエルに伝わるか。

 力のないノエルは俺を持つために、「力の手袋」という魔道具を装備している。

 けど、風を操る、後衛の魔法使いとしての役割を考えれば、鞘から抜いてもらえさえすれば、俺はノエルの手に持っていてもらう必要はない。

 俺は地面に突き刺さったままで構わない。だから、ノエル、手袋をケルンに渡すんだ。

 あのゴーレムと戦うのに、それは必要なものだから。


 そう念じながら、ノエルの手にドライヤー程度の風を当てる。

 ノエルはそれで気付いたのか、手袋を外してケルンに渡す。ケルンはそれを受け取り、素早く装備した。


(よし!)


 ボス戦前の装備チェックは常識だからな!



 ケルンが槍を構え、ゴーレムに向かって突進するのに合わせ、俺は風の流れを調整し、ケルンに針が近付かないように吹き飛ばす。


「はあ!」


 ケルンはゴーレムの関節に槍を突き立て、押し込む。ゴーレムの急所を狙った攻撃だ。

 正確な一撃だった。しかし、”力の手袋”で腕力を補助しても、ゴーレムにはまだ傷さえつかない。

 ゴーレムは、近付いてきたケルンに、巨大な腕を振り下ろした。


「ケルン!」


 ノエルが悲鳴のような声を上げる。


 ――いや、させるかっ! ゴーレムの腕の周りに無理やり空気の流れを作り出す。

 ゴーレムの重い腕を、俺の風の力だけで止めることはできないが、それでも動きを鈍くするくらいの効果はあった。

 優れた戦士であるケルンは、ゴーレムの腕を避けながら、何度も攻撃を繰り出す。


「はあ!」


 何度も、何度もケルンはゴーレムの肩の関節めがけ、槍を刺すが、鋼鉄の体にはなかなか攻撃が通らない。

 防ぎきれなかった針が、ケルンをかすめ、いくつかの切り傷を作っていた。

 ――早めに勝負を決めさせないと。

 俺は魔剣に転生してから、疲れというものを感じたことがない。

 物だから当然だと思う。多分、ゴーレムも一緒なはずで、生身のケルンは、いくら疲れを感じないとはいっても、持久戦になれば圧倒的に不利だ。


 戦いを見る限り、足りないのは、攻撃力か。だったら!

 俺はケルンが繰り出す槍に、竜巻のように風をまとわせた。銀色の光が槍を包む。


「これはっ!?」


 急に風に包まれた槍に、ケルンは驚いたようだった。

 ああ、言葉が話せないのがもどかしい。

 エンチャント――付与魔法のつもりなんだけど。

 ノエルも、え? といった顔で俺を見たが、すぐにケルンに指示を出す。


「た、多分、ラグナロクの力だ! 行け、ケルン!」

「はっ!」


 あっぱれ忠誠心。ノエルの言葉を聞くと、ケルンは迷いなく槍を突き立てる。関節に槍が刺さったのと同時に、俺はその槍を、風の力で、回転させた。


「!?」


 回転によって、ごりごりと押し込まれる槍。

 そう――ドリルだ。

 ケルンは一瞬戸惑うが、槍の先がゴーレムの関節に入り込むのを見て、怪力で押し込む。

 ガキリ、と音がして、ゴーレムの腕が外れた。


「!」


 ケルンは、バランスを崩したゴーレムに、素早く第二撃を叩き込む。同様の要領で、もう片方の腕も同じように外す。

 ドリル槍によって両腕の外れたゴーレムを、ケルンは思い切り蹴飛ばした。

 ゴーレムは仰向けにどさりと倒れる。

 ひっくりかえった亀のように、起き上がれなくなってもがく。ああなればもはや戦闘不能だ。


 やった、勝った。だが喜ぶには早い。戦いを少し離れていたところから観察していた白い少女に、俺は意識を向ける。


「魔剣が自分の意思で人を助けている……何故?」


 白い少女は、倒されたゴーレムを見ると、無表情のまま、機械のように冷たい声で呟いた。


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