聖剣になった私(01)
†††
うーん、異世界転生って本当にあるんだなあ。
最近、ネット小説でよく読んだよ。あれは本当に色々なシチュエーションで転生するよね。面白いから、好きだよ。
だけど、いざ自分が異世界転生するとなったら、もう少しマシな状態で転生したいなあ……。
たとえ、断罪直前の悪役令嬢でも、現代知識チートを駆使して何とかするよ! ……と言いたいとこなんだけど、今の私にはその「何とか」が何一つできない。
そもそも、転生っていうか、生きてるといっていいのかなあ?
お兄ちゃんと部屋でうだうだゲームしてたら、火事に巻き込まれて死んだ、ごく普通の女子高生だった私。
気付けば、中世ヨーロッパみたいな世界――もっと言えばよくあるゲームみたいな世界――で、「聖剣エクスカリバー」になっていました。
聖剣の私は、立派な教会っぽいところで、丁寧に保管されていた。
何日かに一回、教会の神父さん? みたいな人が、錆びないようにーって、ちゃんと手入れをしてくれるので、私は常にピカピカの状態。白銀の剣はまるで鏡みたいだ。
私が自分自身が聖剣だって知ったのは、その神父さんが、教会のシスターさんに説明してるのを聞いたから。
どうやら私の体となっている聖剣は、大体、二百年前くらい前まで続いてた、魔族との戦争に使われた、すごい剣らしい。この教会では、その聖剣を代々大事に保管してると、神父のおじさんが誇らしげに話していた。
何で、そんな剣に、転生しちゃったのかなあ。……いや、この剣自体は大昔からあったらしいから、剣に私の魂だけ宿った、というのが正しいかもしれない。
(はああ……)
私はこの世界に来て、何度目になるか分からないため息をついた。
いや、ため息っていっても心の中でね。剣だから、口も鼻もなくて、息してないから、気分的なものだけど。
この世界に転生した時、私はパニックになった。だって、体は動かせない、声も出ない。
最初に見えた景色は、教会の大聖堂の屋根だった。火事で死んだ記憶があった私は、「私死んだのか! ここは天国か!」なんて思って、心の中でぎゃーぎゃーわめいた。
わめき疲れて、ちょっと落ち着いて、辺りを見回して――自分の体が、ゲームなんかでよく見る、両手剣になっているのを理解した時、再びパニックになった。
それでも、どうにか状況を把握しようと、その場でじっとしているうちに――いや、体は動かないから、じっとしているしかなかったんだけど――大体、一週間くらいかけて、私は自分の状況をおおまかに理解したというわけ。
理解はしたんだけど――だから、どうしろと。
異世界とか、聖剣とか、そんなシチュエーションに、ちょっとときめいたのは確かです。ゲーム好きだから。
けどね、剣なんだよ、私。
ゲームでいったら、キャラクターじゃないの。装備品なの。
この体、自分の意思では何一つできない。無機物らしく、食事も睡眠も必要ないけど、それって逆に考えれば、眠ることもできないわけで――暇すぎるのだ。
退屈は精神を殺す。って、よくお兄ちゃんが言ってたけど……このまま、一生――いや、そもそも剣に寿命があるのかな? ――ずっと退屈してるだけだと、確かに、精神的に死にそう。
異世界転生し、私は地味にピンチを迎えていた。
異世界転生から20日。
大聖堂の天井にある、大理石の黒いつぶつぶ模様の数を数えていた私のところに――焦った様子で神父さんがやってきた。
(こんにちは、神父さん。でも、昨日磨いたばっかじゃなかったっけ?)
と、心の中で挨拶するも、神父さんに聞こえるはずもなく――神父さんは私を抱え、教会から出ていく。
(おお? この大聖堂の中から出るなんて初めて!)
退屈しきっていた私は、どんな変化も大歓迎だった。
ゲームにマンガ、アニメにネット、退屈を知らない現代人は、退屈に弱いのだよ。
しかしあれかな、あんなに大事にしていた私を持ち出すって何だろう?
ご開帳ってやつなのかな。どうやら私聖剣は、この教会のシンボル的な扱いみたいだし。
そんなことを考えながら、神父さんに運ばれた私は、鎧を着た人に渡された。おお、騎士かな?
「これが聖剣か……」
騎士さんはうやうやしく私を受けとる。あ、やっぱ神父さんさんよりゴツい手だ。
そして、次に騎士さんが言った言葉に、私は驚喜した。
「では、聖剣にふさわしい勇者の選定を始める」