勇者と旅する私(03)
†††
「聖剣様、もうすぐ遺跡地帯に面する街、”煉瓦の街”につきます」
了解の意味を込めて、私は元気に一回輝く。
(いやあ、本当、セラとキースに私の存在に気付いてもらえてよかった!)
こうして二人は私に時々話しかけてくれて、本当に楽しい。
まあ、欲を言えば、もっと私から話題を出して、たくさんお話したいんだけどね。
街が近づくと、キースはセラと私に忠告をした。
「セラ、聖剣さん、一応いいっすか」
「何、キース」
「……あんまり、街中では話さない方がいいっすよ?」
(えー? 何で?)
「どうして?」
「いや、あの……聖剣さんがピカピカしてるのは目立つっすからね? それにセラも、事情を知らない人が見たら、ぶつぶつ独り言を言ってるみたいに見えるっすからね?」
む、なるほど……。
この世界、携帯とかなさそうだもんなあ。私も無線を使ってハンズフリーで話している人見て、ぎょっとしたことはあるもんなあ。
私が納得した一方で、セラはちょっと不満そうな顔をした。
「聖剣様を無視するのは……」
「セラ、俺たちの目的は、魔道具をこっそり集めて、魔族との戦争を回避する抑止力にすることっす。つまり、あんまり目立ちたくはないんすよ?」
思うんだけど、キースって賢いよね。
セラが時々無意識に色っぽい仕草をして、混乱に陥ってるのを見るとバカっぽいけど、それを除けば、賢いというか隙がない。
「うん……。」
「セラの故郷がゴーレムに襲われた一件もあって、国民の間には、魔族との戦争が始まるんじゃないかって不安が広がってるっす。……人間は魔族によくない印象を持ってる人が多いっすから、遺跡地帯の近くに住んでる人の中には、先に戦争を仕掛けてしまえって考えてる人もいないわけではないっす……」
「……うん」
「聖剣を出して勇者を選んだのは、そうして希望の象徴を立てることで、国民の不安を鎮めて、先走った行動をさせないようにする目的もあるんすよ」
そうなんだ。
セラもキースの言葉に、納得したらしく、頷いた。
「僕が勇者で、聖剣様もいらっしゃるって、”煉瓦の街”ではバレない方がいいんだね」
「そうっすね」
同意の意味で、私もピカっとしておく。
”煉瓦の街”は、もともと遺跡地帯を監視するための砦らしい。
街の中心には、街の名前の由来になったらしい、煉瓦造りの高い塔が建っている。遺跡地帯を超えて魔族が攻め込んでこないか、常に見張っているのだと、キースがセラに教えていた。
街はなんていうのかな、ヨーロッパの下町、みたいでお洒落な感じ。”光の都”はお城を中心に、建物は白くまとめられていて、道もすっきりしていたのに対して、この街は全体に煉瓦造りで、狭い道や複雑な作りになっている。
こんな状況じゃなかったら、ゆっくり観光したいなあと思う。
「とりあえず、町長さんに会って、王様からの手紙を渡さないといけないね」
「そうっすね」
手紙の内容は、「勇者一行がこっそり遺跡地帯に入ります」というものらしい。ちなみに手紙の中身は私も見せてもらったけど、読めなかった。
異世界の言葉はどういうわけかわかるのに、文字は読めない。転生あるあるだね。
町長の家に向かう途中、街の広場を通る。
ところがそこに、人だかりが出来ていた。
「……何だろう?」
「なんか嫌な感じっすね」
人だかりからは、あまりよくない感じの声――怒鳴り声や野次が聞こえる。
できれば関わり合いになりたくないと思っていたが――その中から、聞き捨てならない言葉を聞いたセラとキースははっと顔を見合わせた。
「魔族よ! 忍び込んで、人間の街を焼きにきたんだわ!」
人だかりの中心にいたのは、茶髪の青年だった。
腕を両方から捕まれ、羽交い絞めにされている。服は上半身を無理やり脱がされている。
「は、離して……そんなつもりはない! 気が付いたらここにいたんです!」
「嘘をつけ、魔族め!」
(え?)
私はその、広場の中心で、捉えられている青年を見て意外に思った。
魔族ってもっとこう、悪魔っぽい蝙蝠の羽があったり、ツノがあったりするもんじゃないの? せめて目が赤いとか。
何か……普通の人間に見えるんだけど。
ねえセラ、あの人が本当に魔族なの? ……と聞きたいのだけど、そこまでのコミュニケーション能力がない。無念。
「月の印……彼は確かに魔族みたいだけど、どうして……?」
セラが呟く。月の印って何なの、教えてよー。
仕方ないから推測する。えーと、セラが見てすぐわかったってことは、見ればわかるような魔族の特徴があるってことだよね?
あ、捕まっている青年の胸、鎖骨の間辺りに、三日月みたいな入れ墨がある。あれのことかな?
そういえば、セラの体を見た時、セラには太陽みたいな模様の入れ墨が入ってたっけ。
ひょっとして、胸に太陽の入れ墨があるのが人間、月の入れ墨があるのが魔族ってことなのかな……?
だから彼は無理やり服を脱がされているのか。納得……ってそんな場合じゃない!
「なんかヤバそうっすね……」
キースが呟く。
捕まえた魔族の青年を囲む街の人々達は、明らかに殺気立っていた。




