魔王と旅する俺(02)
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意外なことに、ケルンはノエルの提案に反対しなかった。危険だからダメだって言うと思ったんだが。
人間の国との境界を監視する魔道具は使えず、様子を見に行った若者も戻らない。人間の手がすぐそこまで迫っている可能性を考えると、余裕がないと判断したらしい。
「ソンタさんを見つけ、そして双子水晶のもう片方の様子を見たら、すぐに戻ります」
ケルンはそう言うと、ノエルを背負い、村を出た。ノエルの腰にぶら下がる俺も一緒だ。
村を出てしばらく行くと、不思議な模様の描かれた石の門が見えた。
近くに寄ると、かなり大きい。うーん、出雲大社の大鳥居、もしくはジュラシックパークの門くらいか?
「ここが遺跡地帯……」
ノエルは、初めてここに来たのか、口を開けて門を見上げている。俺にも口があればあんぐり開けているかも。遺跡だ。マジでファンタジー世界……。
「魔族も人間も、みだりに踏み入ることはない場所。何があるか分かりません。気をつけて下さい、姫様」
ケルンがそう言うと、ノエルは頷いた。
崩れた建物の跡から、かなり巨大な城や建物が建てられていたことが想像できる。中には、原型をとどめている建物もあって、高い塔のようなものもあった。
素人判断だが、高層ビルの立ち並ぶ現代日本にいた俺の感覚で言えば、この古代遺跡の文明は、かなり進んでいたんだろう。それもそのはずか。魔道具を作れたということは、魔法が自由に使えたということだからな。
そうなると、一つ疑問がある。
ノエルも同じ事を考えていたらしい。ノエルは物珍しそうにあたりをキョロキョロしながら、ケルンに尋ねた。
「ケルン、これ程の文明が、何故滅んだのだろうな……?」
「分かりません。ここが滅んだ後、残された魔道具を巡り、魔族と人間が激しく争いました。その際に、古代に関する記録はほぼ失われてしまったと伝えられています」
「……ふむ」
考え込むノエル。
その時――俺は建物の隙間から、何かがキラリと光ったのを見た。
「う、うひゃっ!?」
ノエルは驚いた声を上げた。
それも仕方ない。何しろ腰にぶら下がる魔剣――俺が、激しく振動しているのだから。
ガチャガチャガチャガチャ! と音を立てて、携帯のバイブよろしく震える俺。もちろん知らせるのは着信じゃない――危険だっ!
「っ!?」
ケルンは何かを察したのか、咄嗟にノエルを庇うように前に抱きかかえ、その場を飛び退く。その背を、鋭いものが掠めた。
間一髪で、矢を回避した。
「な、なんなのだ!」
「姫様、離れないで下さい」
ケルンは槍を構え、矢が飛んできた方を向く。しかし――
ガチャガチャ! 再び俺は渾身の力で振動する。
「く、くすぐったいぞ?」
困惑するノエルを狙い、――別方向から飛んできた矢を、ケルンははたき落とした。その顔には明らかな焦りが見える。
「なぜこうもあちこちから矢が……囲まれているのか?」
説明しよう。
魔剣である俺の視界は、目でものを見ているわけでないからか、全方位に向いている。故に、背後からの不意打ちも感知できる。
更に、俺は風を操る能力があることも判明した。
鞘に入ったままの状態で、刀身から空気を吹き出させることで、自分の身を振動させている。剣を鞘にぶつけることで、マラカスのように音を鳴らしており、一応、ノエルに話しかけているつもりだ。
ガチャガチャ! ガチャ!
「え、え、え……?」
当のノエルは困惑している。剣が勝手に震えるわ、矢で攻撃されるわで、あたふたしている。ええい、もどかしい。
俺を抜けと言っているんだ! ……言葉にはなってないけど。
その時、矢の一本が、槍で落とし切れずにケルンに当たる。幸い、鎧に弾かれる位置だったが、ノエルははっとした。
「ケルン! ――そうか、魔剣……!」
ノエルは俺を抜いた。黒い刀身がさらされると同時に、銀に輝く。
(よし、行くぜ!)
俺はノエルとケルンを中心に、風を渦巻かせ、矢を弾き返す。
「す、凄い……」
ノエルが俺を構えたまま、呆然と呟く。
しばらく矢は俺達に向かって、四方八方から放たれていたが、やがて矢が尽きたのか、攻撃の手が止まった。
警戒しながら、風を止める。
「誰だ? 出てくるのだ!」
ノエルは、相手に向かって声をかけた。反応はない。しかし、逃げる足音もしないようだ。
ケルンは槍を構えたまま、弓兵が隠れていたと思われる、遺跡の物陰へと向かう。ノエルも後ろからついてきた。
しかし、そこにあったのは予想外のものだった。
「これは……?」
地面から人形の腕のようなものだけが突き出して弓を持っていた。動きが止まっている。
「ゴーレムの一種のようですね。恐らく、侵入者があれば、矢を放つようにしてあったのでしょう」
ふーむ、地面から手が突き出しているって……次から次へと仲間を呼ぶ某モンスターじゃないのな。その腕は人工物っぽくて、俺は昔、社会科見学で見た工場のロボットアームを思い出した。
「何故、こんな仕掛けが……やはり、人間が、戦争を仕掛けているのか?」
ノエルが暗い顔で俯く。遺跡地帯に入ったままのソンタも心配だが、争いの気配に、不安になっている。
「遺跡地帯に過去の魔道具が残っていたとしても、それが命令なしに動くことはありませんから、何者かの意思があるはずですが……」
「む、そういえば気になるのだが……」
「姫様?」
ノエルは首を傾げた。そして、抜いたままの俺を見る。
「この魔剣――我の意思とは関係なく、魔法を使うように思うのだ」




