プロローグ
異世界転生ファンタジーを色々読んでみたら、自分でも書きたくなりました。
ゆるっとお楽しみいただければ幸いです。
遥か空の上で繰り広げられる凄まじい戦いを、その場にいた全ての者が固唾を飲んで見つめていた。
金色の輝きに身を包み、純白の剣を手にした勇者は、体中に傷を負いながらも、歯を食いしばって跳びあがり、剣を振りかぶる。
銀色の風に髪を流し、漆黒の剣を手にした魔王もまた、苦しそうな表情で、剣を振り下ろす。
二つの剣が激突した時、強い光と風が、大陸を包んだ――
†††
ファンファーレが鳴り響き、スタッフロールが流れる。
伊織は感無量という表情をして、幸せそうなため息をついた。
「はあああー、なんて神エンディング! カッコいい!」
「だろ。これ何度見てもいいよなー」
俺の部屋のベッドでごろごろしながらゲームをしているのは、俺の一つ年下の妹、伊織だ。俺が貸したゲームがクリアできそうというので、エンディングを見せてもらった。
いや、俺も当然、ごのゲームはクリアしてるよ? けど、エンディングの映像が本当にいいんだって。
「これさ、エンディング後の追加要素あるんでしょ?」
「追加クエストが配信含めて50個」
「よっしゃー」
喜々としてクリアデータをセーブする伊織。うつ伏せから仰向けにごろんと転がり直しながら、器用にゲームを続ける。
「ねえお兄ちゃん、私さ、RPGってさ、エンディング後があるゲームが好きなんだよね」
「そうなのか?」
「あ、それもね、ラスボスを倒した後の世界を見れるタイプのやつ。ラスボス倒してエンディング見たら、ラスボス戦の直前に戻ってから、裏面がスタートするのも多いけどさ、キャラに感情移入した私としては、世界が暗黒になってるところに、また戻るの好きじゃないんだよね……あ、充電切れそう」
俺は、ぽいと手元のゲーム機用充電器を放り投げた。
その充電器で、俺の部屋のコンセントと、自分のゲーム機を繋ぐ辺り、まだまだ俺の部屋に居座る気のようだ。
まあ、互いの部屋に相手がいても、全然邪魔にならないのが俺達だ。伊織がゲームに集中し始めたので、俺もまた、妹から借りたゲームをプレイし始めた。
俺と伊織は、おそらく、かなり仲がいい。
普通、異性の兄妹というのは、思春期になれば互いに興味嗜好が離れ、あまり遊ばなくなるものだ――といわれたが、俺たち二人はそうならなかった。
というのも、伊織が中学生になった頃から、二人そろってがっつりとオタクになったからである。ライトノベルやアニメ、ゲームというサブカルにはまった俺たちは、趣味嗜好が見事なまでに一致した。
それは高校生となった今も悪化の一途を辿る。周囲のオタク仲間が高校デビューしていく中、俺と妹は互いに安心して、ゲームキャラの話に興じる。
最近の喧嘩内容は「ポケ○ンの欲しいバージョンが被ったから、どちらが譲るか」くらいだ。
図鑑をコンプリートするため、バージョンを分けるのは必須だからな!
そんなわけで、いつものようにだらだらと、親が帰ってくるまでゲームをしていた俺達なのだが――ふと、伊織がゲーム画面から顔を上げた。
「ね、なんか焦げくさくない?」
「ん?」
言われてみると、何やら焦げくさい臭いがする。俺は周りを見渡す。
「……なんだ?」
今、家にいるのは俺と妹だけだ。ゲームに夢中で気がつかなかったが、嫌な感じがする。俺はゲームをポーズ画面にし、立ち上がって、部屋のドアを開けた――ところで、立ち尽くした。
視界いっぱいに、真っ黒な煙が、迫ってきた。
火事だ。
あまりのことに呆然とする伊織を引っ張り、急いで一階に逃げようとする。
だが、階段の下は真っ赤な炎に包まれていて、とても下りられる状態じゃない。
「ど、どうしよ」
「ベランダだ!」
妹を急き立て、二階に戻る。だが、火の回りは早く、あっという間に家中が熱くて真っ黒な煙に覆われた。煙から有害な物質を吸ったのか、二人してゴホゴホと咳き込み、部屋の中に倒れる。体が動かない。
「ちくしょう……」
景色が、ぐにゃぐにゃ歪むのは熱気のせいなのか。
ガラガラと、焼けた天井が崩れてくる。
何の役にも立たないが――せめて、最期の力を振り絞って、俺は妹に覆い被さるようにしてその身を守ろうとする。
「おにい、ちゃ……」
消える意識の向こう側で。
真っ暗な穴が、大きく開いて――どこかに吸い込まれていくような気がした。