黒ずきんと影オオカミ君 ~出逢い編~
day and night
you and me
and paradise.
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今からそう遠くない未来。
惑星歴2100年、地球を大規模な地震が襲い、その地震で人は住んでいた大半の土地を喪った。
残り少なくなっていた緑も失い、眼前に広がる世界は廃墟と荒廃した大地だけだった。
ーーーーそれから400年の月日が経ったーーーー
人はしぶとく、強かに生き抜き、荒廃した世界を修正していった。
しかしその修正の間で、新たな人種も誕生した。
獣人 森人 影人
の3種である。
人はこの半世紀の間に交配するすべを無くし、人工授精・クローンに頼っていた。しかしこの3人種は獣から進化し、または森から産まれ…そして人の闇から産まれた。
それ故なのか、人には持ち得ない力を有していた。
獣人は獣と対話し、時には本能のままに人を襲うこともあった。
森人は木々と対話し、人々に助言し森の成長を早めた。
影人は人、獣などのあらゆる影の中に寄生し、稀に人を誑かした。
しかし悲しきかな、この3人種は人に受け入れられることはなかった。
人は愚かな生き物である。見てくれの異なったモノ、人にはない異質な能力をもったモノを毛嫌いしている。例えそのモノのお陰で、今まで生きていられたとしても。
「カナちゃん、お願いがあるのだけれど」
「なに?」
「おばぁちゃんに葡萄酒を持って行ってくれないかしら?」
そういって母は葡萄酒の入ったバスケットを差し出した。
「えぇ、いいわ。散歩がてらに行ってくるわ。でも珍しいわね、お婆様が取りにこないなんて」
「なんでも風邪をひいてしまったらしいのよ。」
「そう‥…じゃぁ行ってくるわ。」
「あ、カナちゃん。なんでも最近この辺りで影狼が出るらしいから‥」
「えぇ、知ってるわ」
そう言って母の言葉を遮ってカナは家を後にした。
お婆様の家への道は一直線に続いている。
一直線といっても別に平坦な道のりではないのだけれど、私はこの道が気に入っていた。
小さな都市の奥に見える鬱蒼とした森。
この廃墟には色々なモノが転がっていた。
100年くらい前までは栄えていたらしいが、小さな諍いが生じて今は廃墟になり果てている。
私も詳しいことは余り知らないのだけれど、ITやAIで栄えていたらしい。今の人工授精やクローンとは全く異なった道を歩んでいたらしい。それを物語るように、この廃墟にはチップやコードが剥き出しになった生体部品などが転がっていた。たまにアンドロイドらしいものーここでらしいと言ったのは100年の間に機器の隙間から植物が生えていたからであるーも見つけた。そう、ここには見たことのない文化が転がっている。それが私には新鮮でならなかった。もしかしたら自分の体も機械で生成されているんじゃないかと考える事すらある。誰かのコピーであると考えるよりは夢があっていいように感じる。
とは言っても私もそこら辺に生息、生成されている人たちとは少し違うのだが。私は人間の母親、森人の父親から生成された者。家族、政府以外は知らない情報。友達にだって言っていない。と、いうか言うのも面倒くさかった。聞かれてないしね。でも私は友達と居るより1人で居る方が気が楽だった。余計な考えもしなくていいから。それにあの生温い感じが余り好きになれない。まだ機械の残骸と戯れて居る方が楽しかったりする。この廃墟はいわば私の壊れた楽園なのかもしれない。でもこの楽園も気に入ってるけれど、森達も気に入っている。森達は嘘は付かないし、中途半端に優しくない。それにサッパリしてる所も気に入っている。
と考えながら廃墟を抜けようとした・・・そこに
「・・・ピエロ・・・・・・?」
森の入り口にピエロが風船を持って立っている。
「何かの見世物でもあるのかしら?」
あの森の中ではそんな見世物は遠慮して貰いたい。大きな見世物のあった後はゴミの山と化すから・・・。
「こんにちは、お嬢さん。風船をどうぞ」
「ありがとう。近いうちに見世物でもあるの?」
「えぇ、お嬢さんも是非、いらしてくださいね。」
「そぅ・・楽しみにしているわ」
そう言ってピエロに微笑んだ。
「それでは、お気を付けて」
ピエロも微笑みカナを見送った。
カナが森に入ると同時くらいにピエロの影から何かが這い出て木々の影を経由しながらカナの後ろを着いていった。ピエロはそれを横目に見ながらうっすらと笑った。
「ーーー影に喰われないようにーーー」
カナはピエロの視線を背に感じながら森を奥に進んで行く。森は鬱蒼と茂り、光を通そうとせず深い影を落としていた。鬱蒼としている割には悪意に淀んではなく、むしろ友好的といっていい。
そんな中にカナは粘っこい視線を感じ、何度となく後ろを振り返った。しかしそこには影が闇を落としているだけだった。カナは首を傾げながらも道を進んだ。木々の影に潜んでいるヤツは見つからないように、慎重に影を経由してカナに近づいていく。そして上手くカナの影に潜んだ。
影に入り込んだ瞬間、カナが後ろを振り返ったので大量の冷や汗をかいた。
カナは振り返り、自身の影に視線を下ろした。心なしか大きくなった様な影。カナは自身の影を凝視するも、何事もなかった様に歩みを進めた。
「早く、お婆様も所に行かなくてはね。待ちくたびれてしまうわ。」
カナは横目で影を見た。するとそこには自分の影とは対をなし、狼の影があった。
ーーーーあぁ、あれが噂の影狼かーーーー
だがカナは視線の正体が分かっても、不思議と恐怖は湧かなかった。むしろ”まぁ、いいか”みたいな感じに近かった。たまに後ろを振り返っていれば喰われることはないだろう・・・いや、むしろ食べられる感じがしない。カナは妙な自信に溢れていた。
そんなこととは露知らず影狼は何度となくカナを食べようと狙った。しかしその度にカナが後ろを振り返り失敗に終わった。
そうして前方に大きなモミの樹が見えた。その下にはレンガの家が建っていて、ドアの所に1人の老婆が立っていた。
「お婆様!!」
カナは老婆を見るなり手を振りながら走り寄った。
「よく来たねぇ、カナ。さぁ疲れているだろう、家にお入り。お茶を入れてあげよう」
「えぇ、ありがとう。ところで起きていて大丈夫なの?体調を崩されたと聞いたのですが?」
老婆は軽く微笑み、カナを家に招き入れながら
「今日はいつもより調子がいいんだよ」
「そうですか、それは良かったですわ。あ、これお母様から」
そう言ってカナはバスケットを渡した。
「おや、なんだい?」
「お母様お手製の葡萄酒です。」
「そうかい、ありがとう」
「そうだ、お婆様。お母様があんまり無理をなさらないようにって言っていたけど・・・何かしたんですか?」
「いやいや、そんな大した事はしてないよ。只最近、凶暴な影狼が出ると聞いたから簡単な罠を作っていたんだよ」
「・・罠?」
「えぇ、そうよ」
そういって老婆は微笑んだまま、話そうとしなかった。
「ねぇ、お婆様。」
「カナ、お婆様って言うのはやめてっていつも言ってるだろう?”ユラ”でいいよ」
「わかったわ、お母様も居ないし。ユラは何故、ここで1人で暮らしてるの?お母様が一緒に住もうって行ったのに。」
「私はここを守らなきゃいけないからねぇ。それに旦那様との思い出もあるから離れがたいのよ。カナやユナさんと一緒に暮らしたくない訳じゃないのよ。さ、紅茶。冷めないうちに召し上がれ」
「そう。それを聞いて安心した。」
カナは紅茶を飲みながら呟いた。
「綺麗な色の風船ね」
ユラは風船を眺めながら言った。
「オーシャンブルーかしら?いい色よね。この風船、森の入り口に立っていたピエロがくれたのよ。他にもアイス・グリーンやフレッシュ・グリーン、ワイン・レッドもあったわ。何でも近いうちに見世物があるらしいわ。」
「あら、それは楽しみね。でも朝方入り口には行ったけれどピエロは居なかったわ、残念だわ」
ユラは心底がっかりしたように肩を竦めて見せた。カナはそんなユラの姿に笑いながら
「ユラは朝が早いから、ピエロはまだ寝てたのよ」
ユラも笑いながら
「そうかもしれないわね」
そうして2人は他愛のない話をし笑い合った。
「ところでカナ、夕御飯は食べていく?」
「ううん、家でお母様が何か作ってる筈だから。」
「そうかい、残念。」
「ごめんなさい、また今度いただきます。」
カナはふっと窓を見つめ
「日も落ちてしまいましたし、そろそろ帰ります」
「もう、そんな時間かい?今日はありがとうね、楽しかった。帰り道も気をつけるんだよ。」
「心得てるわ。じゃ、お邪魔しました。」
そう言いながら、カナは扉を閉めた。家の窓から手を振るユラに何度となく手を振り返した。
カナがユラの家を出たときにはすっかり日は暮れ、月がひょっこりと顔を出していた。カナは後ろを向き影があることを確認した上で、自身の影に話し掛けた。
「ちょっとあんた」
「・・・・・・。」
「聞こえてるんでしょう?」
「・・・。」
「聞こえてますか?影狼さん??」
「!!!」
「気付いてないと思ったのかしら?」
「い、いつから、気付いて・・・」
カナは軽く笑みを浮かべて
「あんたが私の影に憑いて、少し経って。横目で見たらあんたの影がはっきり、くっきりあったわよ。残念だったわね、私を食べ損ねて。さて、私の影から出てきて貰おうかしら?聞いた話によると夜は実態があるんでしょう」
「よく知ってるね」
そういって、影狼はカナの影から抜け出した。
「あら、結構背が高いし、いい男じゃない。」
「君は・・・僕が怖くないのかい?」
カナは眉間に皺を寄せ影狼を睨んだ。
「”怖い”ですって?何よそれ、下らない。あんたが怖いんだったら、世の中のすべての人種が怖いことになるじゃない」
「あ、いや・・・そうじゃなくて。僕は君を食べようとしたんだよ。それに今まで何人もの人を取り込んだよ」
「だから?」
「・・・だから、っていやあの」
「はっきりしないヤツなのね、あんたって。ところであんた名前は「?あんたや影狼じゃ呼びにくくて仕方ないわ。」
「名前・・・俺の?」
「そうよ!私は、カナ。カナ・ドリスよ」
「俺は・・・ワー・ブラック。君は不思議な子だね。みんな俺を見ると逃げるのに。」
カナはブラックをジッと見つめ
「ブラックはただの混種でしょ。本能のままに人を襲う獣人と影に住んで、稀に他種を誑かす影人との混種。そうでしょう?それにブラックは他種を誑かした事ないでしょう。・・・人を襲ったのはたぶん、本能か、防衛本能。混種狩りに見つかったかなにかしたんでしょう。奴らタチが悪いのよ」
「よく、分かるね。」
「だって、私もそうだもの」
「え?」
「私も混種なのよ。」
そういってカナは笑った。カナの笑顔を見ながらブラックは固まっていた
「え・・・・・・君も?!」
「・・・君、じゃない!カナ、よ。私は人間と森人の混種なの。家族と政府くらいしか知らないわ。」
「君・・・」
と言った瞬間カナに睨まれ
「カナはその事を俺にいって狩られる、とはおもわないのかい?」
「思わないわ。全くもって。というかあんたに限って思えないのよ。食べられるとも感じなかったし。不思議ね。・・・きっと似てるのよ。私とブラックは」
そう言ってカナは微笑んだ。ブラックはどう答えたものか思案していた。
「ところでブラックはこれからどうするのよ?私に見つかったし」
「・・・考えてない」
カナは少しビックリした風に
「は?考えてなかったの」
「あぁ」
ブラックはバツが悪そうに言った。
「あー・・まぁいいわ。考えてないならないで。・・・決めた!ブラック、家に来なさい」
「うん。・・・?ってえぇ!?」
意外な言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「何よ?おかしいこと言った?」
カナは小首を傾げながら言った
「だって、俺は」
言葉が詰まった。俺は影狼だ。カナは俺を怖がらないから、友達を家に呼ぶ感覚で言ってるんだろうが、きっと親はそうは思わない。俺は人だって殺してる、嫌われてる。
「影狼だからって言おうとしたでしょ」
カナは小さくため息をつきながら
「そんなこと関係ないわ。誰にも文句は言わせない。ブラックは私の「友達になってくれるんでしょう?」
そういって微笑んだ
「でも・・・」
「私も、私の親も甘くみないでよ?話せば解ってくれる人だもの、かぁさまは。ほら、行くよ」
そう言いながらカナは手を差し出した。
ブラックはゆっくりとその手を握った
久しぶりに感じた人の温かさだった。
月の暖かな光に照らされながら森の小道を歩いて行く。眠りについた森に2人の足音が幽かに響く。
「ねぇ、知ってる?森って結構お喋りなのよ」
「そう、なのか?」
「小さな小さな声だけどね。みんなブラックの事が気になってたみたいよ。ブラックが私の影に憑いてから、みんなが言うのよ『カナ、影狼よ』って」
得心がいった、それでカナはわかったのか
「あら、私がみんなの声でブラックに気付いたとおもった?」
「え?違うのか」
「言ったじゃない。ブラックの影があった、って。私だって少し位は気配がわかるの。それに少し前から森のみんなが、ブラックの噂をしてた。『なにか、来た』ってね。あ、森を抜けるわ。後は街を抜けるだけね。」
「でも、カナ。親にはなんて言うつもりなんだ?」
「そのままを言うわ」
「そのままって・・」
「嘘を言ったって仕方ないじゃない。大丈夫よ。」
街も眠っていた。静かな寝息を立ててる様にひっそりとしている。時折どこかで瓦礫が落ちる音がするくらいだった。街の中央辺りに差し掛かった頃だろうか、カナが口を開いた。
「私はね、この退廃した街が好きなの。友達と居るときよりも何よりもここに居るのが好きだったわ。私に見合ってるのよ、ここは。」
「そうは見えないけど」
「そう?・・・私はみんなに混種だってことは言ってないの。なぜだか言えないの。でも何故かしらね。ブラックには言えた。混種の事も、ここのことも。不思議ね」
そしてまた無言で歩き出す。
カナにも俺と似たような闇があるのかも知れない、とふと思った。いや、闇がない人間なんていない。みんな何かしら暗部を持ってる。それを表に出すか、内に沈めるか、強さに変えるか。きっとそんなに差異なんて無いのかも知れない。
俺は強さに変えられるんだろうか?
「あ!!」
カナの声に顔を上げた。
「あそこが我が家よ」
そう言って少し先にある家を指した。消えかけていた不安が再び頭を擡げた。
「だから、大丈夫だって」
「ただいま~」
カナは扉を開けた。
「おかえり、カナちゃんと・・・えっと?」
「今日、友達になったの」
「あら、そうなの。お名前は?」
「・・・ワー・ブラックです。」
躊躇いがちに答えた。顔があげられない
「かぁさま、ちょっといいかしら?」
「いいわよ、でもその前に立ちっぱなしもなんだから、座って、ね。」
そう言いながら椅子に腰掛けお茶を淹れ始める。ブラックが不安げにカナを見つめる。その視線に答えるようにギュッと手を握り返した。
「ブラックはね、影狼なの。」
カナの母親はカナとブラックにお茶を差し出しながら
「あらあら」
と吃驚した声を上げた。
「でも何ともないわ。私の友達だもの」
そう言ってカナはニッコリと笑った。
「そうね、悪い人だったらカナちゃんはここには居ないものね。」
「そうよ」
「それで、ブラック君はこれからどうするの?」
「・・ーーー」
「ここで一緒に暮らすの」
ブラックが答える前にカナが答えた。
「カナちゃん、あなたが答えてどうする野o。で、ブラック君はそれがいいのかな?」
「帰ってくるときに話し合って決めたの。そうよね。」
ブラックはカナとカナの母親を交互に見た後、小さく頷いた。カナは満足そうに笑った。
「じゃぁまず、私はカナちゃんの母親でユナ・ドリス。これからよろしくね。」
そうして俺はここで暮らし始めた。
これはカナと俺の出逢いの話。
少し昔の懐かしい話。
http://18395.mitemin.net/i199157
秋沢鬼羅と申します、初めまして。
結構昔に書いたのを掘り出しました。背景描写の勉強をしなければならないような文章ですね。
それでも愛でてくれると嬉しいです。
しかし気が付いたらブラックがヘタレです。
はじめはもっと格好良かったんですよ??一体何処でこんなになったのか。
年齢設定はカナより一回り上くらいなので25歳くらいです。
彼はどう変わるんでしょうね。作者も解りません。
皆さんで想像してみて下さい。
では。