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獏だって夢をみる?

作者: しゅうか
掲載日:2015/11/08

<少し前>

 幼い魔女が火車車に追われながら、走っていた。

 彼女の周囲ではゾンビが徘徊し、一旦木綿が飛び交い、狼男が吠えていて、ホッケーマスクをした男が鉈を手にゾンビを襲っていた。

 少女の進行方向には家が建っていた。その家は不気味に黒い。

 よくよく見ると、髪の毛で家が覆われていた。黒いのは、そのためだ。

 家の脇には井戸があって、そこから着物を着た女性が這い出てきていた。

 青年が、空からそれらを眺めていた。その手には巨大なフォークが握られている。

 身の丈ほどあるので、クワのようにも見えた。

 ――悪くないね。中々美味そうな悪夢だ。

 青年はご馳走を前に舌なめずりした。

「見つけたわ!」

 唐突に魔女が叫んだ。見ると、彼女は青年を真っ直ぐに指差している。

 再び魔女は叫ぶ。

「バート! あなた、あたしの使い魔になりなさい!」

「は?」


<現在>

「君って本当魔力の無駄遣いするねぇ。わざわざ僕を呼び出してやることがコレとは!」

 バートはアリサの隣に座って。気分を高揚させながら、万歳をしていた。

「いいじゃない! 楽しいんだから!」

 同じように万歳をしながら、アリサは楽しそうに叫ぶ。

 二人を乗せた巨大な船は、それなりの高度と速度を持って大きく揺れていた。

 まぁ、要するに二人はバイキングに乗っていたのである。

 ――ここ一週間やったことと言えば、一緒に遊ぶことだけ。本当に凄い無駄遣いするよなぁ。

 楽しげに悲鳴をあげながら、バートは隣に居るアリサを視てぼんやりと思った。

 獏は、使い魔に向かない。

 理由は簡単。彼らが夢の中でしか生きられないからだ。

 獏を現実世界で使役する場合、無理やり現実世界に召喚してその体を維持しなければならない。

 常に獏に魔力を供給しなければならず、枯渇すれば獏はすぐさま消えてしまう。死んでしまうと言ってもいいだろう。

 今こうして一緒にバイキングに乗っているだけで、アリサは魔力を消費し続けているのである。

 そこまでするメリットは、特にない。

 獏が出来る事といえば悪夢を食べること、夢を自由自在に移動できること、後は多少他人の夢に介入することぐらい。

 憎い相手に悪夢を見せる位はできるかもしれないが、それ以外は基本役に立たない。

 それを承知の上で、アリサはバートを使い魔にした。

 そこまでする何かがアリサにはあるのかと思い、バートは何故自分を使い魔にしたのか一度尋ねたことがある。後、初めから自分の名前を知っていたのも気にかかった。

 その二つの疑問に対する答えは、

「……秘密。自力で思い出しなさい」

 だった。


<過去>

 少女は追われていた。背後には、包丁を持った殺人鬼。

 足音もなく走る殺人鬼。けれど、振り返らなくても殺人鬼がすぐそこに居ることが少女には分かる。

 だって、これは夢なのだから。

 そんな少女の進行方向に、青年が立っていた。その手には巨大なフォークが握られている。

 青年は手にした巨大なフォークを地面に突きたてた。それをクルクルと回すと、地面が渦を巻いてフォークにまとわりついてく。

 動き出した地面に引っ張られて、少女以外のあらゆるもの、殺人鬼や、周囲にあった町の風景なんかもフォークに巻き付いていった。

 巻き付いた世界は圧縮され、最終的に大きな球体になる。

 ――スパゲティを巻いてるみたい。

 少女はそんな感想を抱きながら、その光景を不思議そうに眺めていた。

 町がなくなったことで、世界にはただ闇だけが広がっていた。けれど、青年と自分の姿ははっきりと認識できた。

 その世界で青年はホォークから球体を取り外し、もぐもぐと美味しそうに食べ始める。

 フォークは地面に突きたてられていた。

「そこは、フォーク使わないのね」

「あ、やっぱそこ気になる?」

 少女が声を掛けると、青年が微妙な顔でフォークに目をやった。

「あなた、何者なの? それ美味しい?」

「ああ、美味しいよ。僕はバート。獏っていう悪夢を食べる生き物だよ、知っているだろう?」

「バク……」

 少女は、動物の方の獏の姿を連想する。すると、バートは瞬く間に動物の獏の姿になっていた。

 彼が手にしていた悪夢が、コロコロと音を立てて足元を転がっていく。

「こっちの獏じゃないから! 戻して!」

「戻せるの?」

「この世界の主は、あくまで君だからね。君の記憶とか思考とかそういうのが直に影響されるんだよ」

 少女はバートの元の姿を思い浮かべる。すると、獏はすぐに青年の姿に戻っていった。

 バートは足元に落ちた悪夢を拾い上げ、その場に座って再び食べ始める。

 少女は手持無沙汰になり、とりあえずバートの隣に座ってみた。

「あたしの悪夢を食べてくれて、ありがとう。でも、獏が本当に夢を食べるなんて思わなかったわ」

 少女は不思議そうにバートを見つめた。獏の存在は知っていたが、信じてはいなかったのだ。だって、会ったという話を聞かない。

 それをバートに言うと、そりゃそうだ、と彼は頷いた。

「僕たち獏は夢の世界に生きているんだよ。君達が普段生活しているような世界には行けないんだ。だから、僕たちに出会えるのは夢の中だけ。

でも、人間は夢の大半を忘れてしまうだろう? 僕たちに会ったという事実は忘れてしまうさ。

偶に覚えていることもあるだろうけど、ただの夢として処理されるのがオチだよ」

「なんだか寂しいわね」

 少女は、自分が今バートに会った事も忘れてしまうのだろうか、と思った。

 そうだねぇ、とバートは頷きました。

「バートが外の世界に来れればいいのに」

「僕もそう思うよ。ここはなんでもあるけど、外の世界でしか見れないものだって沢山あるはずだしね。

僕はそういうものを見て、色々な事を楽しみたい。

でも、それは無理だ。魔女が僕を使い魔にでもしてくれればいいけど、そんな酔狂な魔女いないんだよねぇ」

 ――なるほど、使い魔にすればいいのか。あ、でもまず魔女にならなきゃ。

 少女はそんな風に考えて、起きたら魔女になってバートを使い魔にしよう、と決めた。

 それは、バートにとっては翌日にでも消えてしまうような些細な記憶。

 少女――アリサにとっては、大切な思い出となった夢の話。


<現在・再>

 アリサとバートは、花火を見ていた。

 この時期、夏のシーズンだけこの遊園地は花火を上げるのだ。

 初めて花火を見るバートは、その光景にぼんやりと口を開けて見入っていた。

 最初の方こそかなりのハイテンションで、綺麗だのなんだの言っていたが、もはや喋る事すら忘れてしまっているらしい。

 そんなバートの姿にアリサは満足して、そして尋ねてみる。

「ねぇ、バート今日は楽しかった?」

「え? ん? そうだね。今日も楽しかったよ」

 バートは素直に当然のようにそう答えた。

 獏と魔女は、昨日も今日も明日も面白おかしく生きていく。

自給自足。後、場面転換しまくるのをやりたかった。

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