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男は常に何かと戦っている。弟を見ていると常々そう思う。食うか寝るかスプラッタ映画を見るほかは、基本的に戦っている。
私もたぶん戦っている。違うのは、不戦勝も白星として数えることくらいだ。
タドコロA-1は戦わない。球拾いか、審判か、庭を見渡せる居間で私の隣にいるかだ。
実際のところタドコロA-1は何が楽しくて我が家に来るのか、何度目かの訪問を迎えてもまったくわからなかった。
宿題は済ませた。三つ編みも左右にできた。おやつにはまだ早い。
浅く日が差し込む縁側に腰を下ろし、足先に沓脱ぎのぶかぶかのサンダルを引っ掛ける。足を乱暴に蹴り上げるたびに地面の濃い影が揺れた。
庭は剣と刀と十手とヨーヨーと音の出る銃と折り紙の手裏剣とが交錯する大乱戦である。
連中にとって、共に戦う仲間にも、勝利を奉げる女王にも、守るべき姫にもなれない私は、中立なままぼんやり見守る。
タドコロA-1は隣で妙にきれいな胡坐をかいて、同じ方向を見ていた。
「エイイチは、戦わないの?」
問いを投げたのは、気まぐれだった。
「戦わないの?」
タドコロA-1は意味がわからないというように私を見て、私もタドコロA-1がそんな表情を浮かべる理由がわからずじっと見返す。
しばらくしてから、タドコロA-1は立ち上がり家の奥へと向かう。
ああ行ってしまったな、と思っていると、すぐに戻ってきた。玄関から靴を取ってきたらしい。
足を差し入れると地面に飛び降り、とんとん、と爪先で地面を叩いてから、歩み出す。
負ける気のない背中だと思った。