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タドコロA-1がいつから我が家に来るようになったのは定かではないが、その頃には二足歩行がおぼつかない段階はとうに過ぎていたと思う。
弟は級友をよく引き連れてきたが、その母親たちはどうも目の届く場所にはいても連中の遊びに加わらない私をお目付役として認識しているらしかった。
そして私も、お姉ちゃんはさすがに落ち着いてるねえ、しっかりしていていいわねえ、とお世辞混じりに褒めそやされれば、「お宅の息子さんなんて片手と片足で捻じ伏せられますけど、まともに相手をするのは疲れますから」などと言うこともなく、いえそんな、とそっと目を伏せる慎ましやかな子供であったため、特に齟齬はなかった。
「お庭があるって、いいわよねえ。メンテナンスが大変だからマンションで十分だろう、って主人は言うんですけど」
我が家に来ると、田処夫人はよくそう口にする。
メインテナンス、というのが後に知ることになった田処氏の正確な発音だが、田処夫人はほかのところはなかなかうまく口真似をするのにそこだけは頑なに特徴を無視していた。
イヌツゲに囲まれ、表の門と勝手口で対になるように沈丁花が植えられてはいるが、それだけの庭なのでメンテナンスも何も年に数回植木屋を呼ぶ程度である。
壊すものもないので駆け回るに都合がよく、連中のせいでいつも中央の土は一際固く踏み固められていた。