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「あ、友達って女の子だったらどうしよう」
ころりと訊き忘れた。
「まいっかー、高校生なんて雑魚寝で十分だし」
2匹だけでも雑魚は雑魚、と当時の天文部の部長は煌めく星空を見上げて言ったものである。部員が増える兆しがあるようで重畳重畳。
今考えてもわけのわからん人であったが、あの人によって男性全般に対する警戒レベルはずいぶんと引き下げられた。
部活の関係で必然的にそれなりに近しくはなったが、だからといって挨拶代わりに腹に一発入れることも背を向ければすかさず膝を崩そうと狙うこともハイタッチと見せかけてやはり腹に一発入れることも握手をすればすかさず指相撲になだれ込むことも、まるでなかったのである。
子機を戻して、固まった首を回す。用事があればとりあえず電話を掛けてみるのが我が家の常である。
ぐいと肩を竦めてから一気に筋肉を緩め、台所に戻る。
「よし、お酒……、って、え?」
慣れない感覚をふいに覚え、びくりと固まったまま元を探る。脇腹のあたりを、私の肌よりほんの少しだけ冷めた感触が、そっと滑り下りていく。
「あー、はいはい。もういいか、な」
服の上からそれを押し留め、少し迷ってからそろりと裾をめくる。
シャワーを浴びたいが、きっと今は叶わない。覚悟して、目を落とす。
「8度1分。こりゃだめだ」
昔馴染の風邪がどうにもシリアスになりそうな雰囲気を漂わせる中、健全な青少年である弟に帰ってこいとは言えない。
溶いておいた卵をお燗した酒に注ぎ、ちびりと啜る。
「卵酒なんて、甘酒の仲間でしょうがねえ」
どうやら本格的に、熱い夜になりそうである。