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タドコロA-1が木から落ちた。
ついでに弟も落ちて、同じ病院に運ばれた。
学年が上がるにつれ集う場所は我が家とは限らなくなったものの、タドコロA-1は相変わらず弟連中と行動を共にしていたようである。
タドコロA-1の頑丈さなどすでに重々承知の私は、こんな馬鹿なことまで付き合わなくてよいものを、と心配するより先にとことん呆れた。というより、そもそも運ぶのは病院でいいのか。
母に連れられて弟を迎えに行く。
先に到着していた田処夫妻によると、タドコロA-1の方は一見したところまるで怪我はないという。レントゲンでは異常はなかったが、念のためイモアライなる検査を受けているらしい。
母が手当てを終えた弟に説教をしている間、タドコロA-1の様子を見に行くことにした。
いかにも物々しい金属製の扉の前でうろうろしていると、派手な色使いの張り紙が目に入る。
「注意!!
金属製品持ち込み厳禁」
腕時計、ボールペン、ヘアピン、アクセサリー、と挙げられているこまごまとした例を薙ぎ払うように、衝撃的な写真。
「天井に、消火器」
白いドーナツ状の筒。中に差しこまれるベッド。浮輪に嵌り込んだかのように、アーチを描く筒の天井に重力に逆らってへばりつく消火器。
「違うよ、消火器は赤いでしょう。あれは黒いから酸素ボンベだよ」
白い服を着た誰かが、教えてくれる。
そんなこと、どうでもいい。胸騒ぎがする。嫌な感じだ。
「すごい写真だよねえ。幸いなことにうちの病院じゃないけど」
「金属、は、だめ?」
「危険だから絶対だめ。すごい勢いで引っ張られて、一度くっついちゃうと全然取れない」
「……どうして」
「MRIは、すごく強力な磁石だから」
「エム、アールアイ?」
イモアライではなく。
「そう、MRI」
MRIのMはマグネットのM。
――手に磁石がくっつきます。
気が、遠くなった。