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「お楽しみ会」というからには余興がつきものである。
できなければできないで、教室の子に混じってクリスマスソングを歌えばいいだけという抜け道があるらしく、私は特に準備はしていなかった。
「ねえ、エイイチはなにやるの?」
「マジック」
「へー、マジックなんかできるんだ」
しばらく無言であったタドコロA-1は、何かこちゃこちゃやってから右手をポケットから取り出しこちらに向けた。
「手に磁石がくっつきます」
ものすごく淡々とタドコロA-1は言う。見ればわかる。
「おわり」
終わりってそれだけか。それだけなのか、タドコロA-1。
「えー? それさあ、……やめときなよ」
正体がばれるじゃないか、と言い募りたい気持ちに駆られて、ふと、気になった。
タドコロA-1は、自分の正体に気付いているのだろうか。
普通の人間は手に磁石がくっついたりしない。だからこそ、タドコロA-1のマジックはマジックとして成立するのだ。
「なんで?」
真顔で問われて、なんでと言いたいのはこっちだと思う。
なんで、の後に続く言葉は思いつかなくて、だから代わりの理由を紡ぐ。
「だってほら、クリスマスだよ? クリスマスなのに、エイイチの手に磁石がくっついたからってさあ、ぜんっぜん、なんっにも、楽しくないもん」
きっぱりと言い放つ。
手に磁石がくっつきます。おわり。
だから何なのかと言われればそれ以上の意味などない。
これはその程度のことだし、ここはその程度の場だ。
「じゃあどうするの」
隅に立て掛けてあった発泡スチロールの蓋らしきものを引っ張り出して、一発えいやと殴って突き破り、タドコロA-1に差し出す。
私のこぶしより少し大きいくらいの穴からタドコロA-1の両目が覗く。
「冷蔵庫になりなさい」