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白いケーキは素人ケーキ、黒いケーキは玄人ケーキ。
隣の英語教室は、10周年の記念ということで、教室を開放して「クリスマスお楽しみ会」とやらを開いていた。
参加条件は、「お料理もしくはお菓子を1家族につき1品持参」のみであり、テーブルにはデコレーションケーキから味付のりまで多種多様な「1品」が並んでいた。
田処夫人がお菓子作りを思い立ったのもどうやらこのためであったらしい。
持ち寄りパーティは伏魔殿である。
タドコロA-1はよくわからん特殊能力によって見ただけで味の良しあしがわかるらしく、白黒つける呪文を教えてくれた。
黒いケーキの中でも、絶品だったのがハトルテとやらだ。
ザ・ハトルテ、と伊達に定冠詞がついているわけではない。この世にただひとつしかない太陽や月と並び立つ存在感である。
いつかケーキ屋に行ったときにねだれるよう、タドコロA-1相手にハトルテの名前を練習し、7の段を唱えた後にも思い出せることを確認してから料理に取り掛かる。
「あれ、そういえばエイイチのお母さんと作ったのって」
「そこの、白いの」
「……まああれだよね、せっかくだし初めてのやつとか試してみないとね」
さりげなく置かれたおむすびや大学いもを確保してから、未知の味覚を開拓していくことにした。