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ろくばん、いきます、と弟が羽根布団に頭から突っ込み、埋もれたたまま笑う。
私も笑う。でもすぐに気付く。まずい、笑いすぎた。息を吐くとともにひゅう、とかすかに音がする。
くたびれた布団は人の形にぼこりとへこみ、けれどすぐにもこもこと立ち上がってくる。もう2順目だ。
7番の準備が終わる前に、お水飲もうかな、とそろりと言い置いて、背を向ける。タドコロA-1の視線が追ってくるが、遮るように襖を閉める。
騒ぐほどのことではない。少し休めば治まるのだ。
台所に向かう途中、あら千寿ちゃん、と田処夫人に呼び止められる。
「クリスマスだからクッキーとね、ケーキを焼こうと思うの」
前の年もその前の年も、クリスマスだからどうこうとは聞いたことがないが、田処夫人としては今年はそういう方針らしい。
「よければうちに来て、手伝ってくれないかしら。もちろん、エイイチにも手伝わせるけど。ほら、エイイチのお友達ってほかは男の子しかいないし」
田処夫人は私の後ろにちらと視線を投げて、きれいに笑む。
「お菓子作るときに、埃立ててほしくないじゃない?」
斬新なスカウト理由である。