10
「終わった」
奪ってきた刀だの飛び道具だのをひとつまたひとつと縁側にこぼし、タドコロA-1は面白くもなさそうに安っぽい金色の剣をひとふり掲げる。
「早いね」
「うん」
それを正面に受けて、ゆるゆると腰を上げる。縁側に立ち上がると、もともとの身長の差に底上げ分が加わって、タドコロA-1の頭を見下ろす格好になった。
「ばっかじゃないの?」
タドコロA-1を面と向かって馬鹿にしたのは後にも先にもそれ限りだ。
「1回勝てば終わり? それで抜けられると思った?」
剣を奪い取って切っ先を突きつける。
「甘いよ。それなら、私が勝つ」
学年が3つ違えば、その分口も回る。力も強い。それを行使した。それだけのことだ。
単なるお姉さんとしてあらあらまあまあと世話を焼くほど、私は面倒見のよい人間ではない。
手を出されたら腹が立つ。足を出されたら腸が煮える。手加減ならしてやる、頭をはたき返して何が悪い。
勝ちたいと思ったことはないが、挑まれたなら負けたくない。舐められたら面倒だ。
「戦いは、終わらないの。こんなちゃちなニセモノなんか、戦う理由じゃないんだよ。武器を取り上げたって、戦う人は戦うの」
剣で投げやりに庭を示せば、ハイパーとかウルトラとかマックスとかギガバイトとか叫びながら連中が思い思いに飛び蹴りを決めていた。
「勝ったら負けるまで戦うし、負けたら勝つまで戦うの。相手が敵ならもちろん戦うし、敵が味方になっても新しい敵と戦うんだよ」
「それ、終わらないと思う」
「うん、終わらないよ」
「終わらないの?」
「終わらないよ」
「で、いつ終わるの?」
「終わらないんだってば」
視線をぶつけて、譲らない。
こうすれば、折れるのはタドコロA-1だとさっき学んだ。
「…………行ってくる」
タドコロA-1はほのかに諦めを漂わせて庭に戻っていく。
「うん、行ってらっしゃい。あ、これ、持ってく?」
ぽいと放った金の剣をタドコロA-1は器用に後ろ手に受け取る。
スーパーオキシドラジカル、というだいぶやる気のない掛け声とともに脚が宙を裂いた。