第八話 『旅の始まり』
視界を包む光が消えると、俺達は深い森の中にいた。
迷宮にいた時よりもかなり温度が高く、じっとりとした汗が出てくる。
今の季節は元の世界で言う所の春に当たる。
王国はまだこれほど暑くないから、
本当に連合国に移動したということだろう。
「今、俺達はどの辺にいるんだ?」
「連合国の端に広がる森の中だな。
目的地の煉獄迷宮からはそれほど離れていない」
直接来たことはないが、
地図で連合国西部に広がる森を見た覚えがある。
この森から歩いて一日と半日くらいの距離に、
目的の迷宮がある温泉都市に着いた筈だ。
「野営か……ベッドはないのか?」
「あるわけないだろ……」
「そうか。じゃあ寝る場所も作らねばならんな。
地面で寝るのは流石に体が痛くなりそうだ」
木々の間から見える太陽の位置から夜が近いと判断し、
今日は野宿することに決まった。
色々なことがあって疲労が溜まっているから、
出来ればちゃんとした布団で寝たかったな。
だが、贅沢は言っていられない。
「まずは何をしたらいい?」
「火種になりそうな薪集めと、寝床作り。あとは夕飯かな」
「夕飯……!」
夕飯というワードにエルフィが食いついてくる。
やはり、こいつ食いしん坊なんじゃないだろうか。
彼女は野宿に関しての知識に疎かったので、
英雄時代に嫌というほど経験した俺が、あれこれ指示を出すことになった。
幸いなことに、こそれなりに綺麗な小川も見つけられた。
それに、近くに野営できそうな開けた場所もあった。
テントや寝袋などが無いため、今日はそのまま眠ることになる。
その為に、色々な物を集めなければならない。
「鍋になるようなのがあればいいんだけどな……」
「少し待て、これが使えるはずだ」
そう言って、エルフィは頭から白いものを取り出した。
骨である。しかも頭から、ニューっと。
あまりの光景に絶句したが、彼女は真面目な表情で手渡してくる。
「魔物の頭骨だ。熱の伝導性は非常に言いはずだぞ」
「なんでそんなの持ってるんだよ!」
「趣味だな」
心臓に悪い。
生物の頭蓋骨でもコレクションしているかと思ったが、
どうやら骨董趣味らしい。
一時期ハマっていた時期があって、この骨はその残りのようだ。
これから破魔の武具を詰め込むことを考えると、
頭の中に空きを作っていて欲しいところだ、
その後、エルフィの頭に頭骨で水をすくったり、
焚き火をするための薪を集めたりと、協力しながら準備を進めていく。
エルフィの頭に使える物が入っていたのがありがたかった。
寝床を作る際には、エルフィが誇らしげに毛布を取り出した。
これを使えとのことらしい。
美しい青色をしており、ふかふかとしていて心地よさそうだ
「これは魔物から剥ぎ取った毛皮だ。温かいぞ」
「綺麗な青色だな」
「ああ。これは剥ぎとった時に魔獣の体液が付着してな。いい色だろう?」
「全然よくない!」
さらりと告げられた事実に戦慄する。
しかし、この柔らかさには勝てない。
我慢して使うとしよう。
落ち葉の上に毛布を敷いて、簡易的な寝床を作る。
時折こうして俺をからかいながらも、
エルフィは着々と準備を手伝ってくれる。
「楽しそうだな」
そうした野宿の準備をする中、
エルフィは嫌がる所か、むしろ楽しそうにしていた。
こうした面倒なことはむしろ嫌いそうだと思っていたのだが。
「ああ。野宿をするのは初めてだからな。
一度、外で眠ってみたいと思っていたのだ」
正直、俺は野宿は好きではないが、
楽しんでいるようだし水を差す必要はあるまい。
ウキウキしているエルフィと共に、黙々と準備を進めていった。
その後、野営地の準備が整ったら、
森へ食べられる物がないか探しに行った。
どうやらこの辺りには魔物があまりいないようだ。
襲われる可能性が減って安心する。
いくつか果物を見つけたが、知らない物も多かった。
英雄時代の知識にある物だけを採取することにした。
また、途中で兎を見つけたので、エルフィに魔法で捕まえて貰った。
調味料がないから味付けは出来ないが、そのまま食べても良いだろう。
果物を洗い、兎を食べられるように処理して、
ようやく俺達は一息着くことが出来た。
エルフィの魔術で薪に火を起こし、
鍋に入れた水を煮沸消毒して飲水を作る。
それを更に冷やしてから、二人でごくごくと水を飲んだ。
渇ききった喉に、冷たい水が染み渡る。
それから、倒木で作った椅子に腰掛けながら夕食の準備を始めた。
兎の肉を枝で作った串に刺し、夕食用に焼き始める。
安全の為、少し焼き過ぎというくらいにまで火が通ったのを確認し、
取ってきた果物と合わせて頂くことにした。
「随分と手馴れているんだな。経験があったのか?」
「ああ。かなり前に何度もな」
久しぶりのご飯をよく噛んで食べながら、ゆったりと言葉を交わす。
エルフィは兎肉に美味しそうに齧り付いていた。
「魔王だった頃は魔王城にいる時間が長かったからな。
こうして森で野営の準備をしたりしてみたかったのだ」
魔王が持つ夢としては、ずいぶん小さな夢だな。
しかし、楽しげに語るエルフィを見ると、
茶々を入れる気にはならなかった。
「夢が叶って良かったじゃないか。
まあ、専用の道具があると、もっと色々楽にできたんだけどな。
食べる物にしたって、塩とか香辛料があったら、
もうちょい美味しいのが作れた筈だ」
「ほう……?」
最後の食べ物の部分に食いついて来たので、
以前野宿した時の話をエルフィにしてやった。
兎や鹿などの野生の動物。
携帯していた干し肉。
森で採取出来る野草やキノコ。
それらを塩や香辛料で味付けしながら、
鍋の中でグツグツ煮る簡単な料理を作った時のこと。
川で捕まえた魚を串に刺して、
丸焼きにして食べようとしている時に熊に襲われ、
倒した熊の肉を香草と一緒に焼いて、魚と一緒に食べた時のこと。
どれも英雄時代の時のことだ。
あの時の俺は五将迷宮を踏破させられただけでなく、
各地で暴れていた魔王軍を倒す為に色々な所へ行かされたからな。
街に行った時は贅沢が出来たが、
移動中には何度も野宿をする必要があった。
幸い、あの頃は強かったから、基本どんな所でも眠れていた。
エルフィはそんな俺の話を、興味深そうに聞いていた。
そして話し終わるや否や、俺を羨ましがるような表情を浮かべてきた。
「伊織も色々なことを経験してきたのだな。
……お前が少し、羨ましいよ」
「何言ってるんだ。
あの時は確かに大変だったけど、
これから俺とお前はそれ以上に大変な旅をすることになるんだぞ」
今の俺には力がないし、
エルフィにしてもすぐに魔力を使い切ってしまう。
二人合わせても、英雄時代の俺には遠く及ばない。
かなり危険な旅になるのは間違いないだろう。
「野宿だって、何回もすることになるかもしれないからな。
だから温泉都市に着いたら、野宿用の道具も買っておく。
お前も一緒に選んでくれよ」
エルフィの収納魔術にも限界があるし、
俺もリュックを買っておかないといけないな。
しかし、気になることがあった。
「……どうした? さっきから」
街に着いた時の事を考える俺の方を、
エルフィはなぜか驚いたような顔で見ていた。
声を掛けると我に返ったようで、「そうだな……」と呆けたような返事を返してくる。
エルフィも疲れているのだろうか。
それから多少物足りなかったが夕食を終え、早々に眠ることにした。
落ち葉と毛布の寝床にゴロリと横になる。
やはり寝心地はあまり良くないが、地面の上で眠るよりはマシだろう。
「やはり、外の世界は良い物だな」
横で寝転がっていたエルフィがポツリと漏らした。
「あの結晶は外部から遮断されているせいで真っ暗で、中は何もなくてな。
私があの中で意識があったのは、五十年間だけなんだが――
正直、退屈で仕方なかったんだ」
苦笑しながら語るエルフィの目には、寂し気な色が浮かんでいた。
そう語るエルフィの声は、少し震えていた。
「エルフィ……?」
「だめだ、眠すぎて変なことを言ってしまう! もう寝る!」
そう言って、エルフィはこちらに背を向けてしまった。
それからしばらくして、エルフィはポツリと言った。
「――お前には、感謝しているんだよ」
それからすぐに、エルフィの寝息が聞こえてきた。
「…………」
封印中のことを、
エルフィは大したことではないかのように語った。
しかし、五十年という時間。
身動きも取れず、暗闇の中にいて、辛くない筈がない。
度合いが違うが、
五年間この世界で独りで戦い続けた俺は、
孤独の苦しみは分かるつもりだ。
それが、五十年間。
俺だったら発狂していてもおかしくはない。
エルフィの背中を見て何かを言おうとしたが、
結局、掛ける言葉が見つからなかった。
―
翌日。
川の水で顔を洗い、とっておいた果実を朝食として食べた。
「酸っぱいけど美味いな」と果実を頬張るエルフィの表情は明るく、
昨日のことを気にしている風ではない。
あえて蒸し返す必要もないし、
俺もあの話題には触れないことにした。
パクパクと果実を齧るエルフィを見て、
俺ももう一つ食べようと果実に手を伸ばした時、
毒のある果実が混ざっていることに気付いた。
どうやら一緒に運んできてしまったらしい。
隔離しようとした瞬間、エルフィがひょいと手にとってしまう。
「お、おい。それは毒があるからやめとけ」
「なに、私の魔力の前では無意味だ。
それに、毒がある食べ物ほど美味しいものだぞ?」
フグに当たって死ぬ人と同じことを言っている。
俺の懸念を無視して、エルフィは一口で食べてしまう。
もしゃもしゃと咀嚼しながら、嬉しげに顔を綻ばせる。
「ピリピリと舌に来る猛毒特有の刺激……たまらないな。伊織もどうだ?」
「死ぬわ!」
あっという間に、エルフィは果実を完食してしまった。
しかし具合が悪くなる様子などない。
どうやら、こいつには毒が効きそうにないな。
腹を満たし、眠気が取れた段階で俺達は出発した。
目的地である温泉都市は火山の近くにある為、
その方向さえ分かれば迷わずに進むことが出来る。
木の上に登って火山の位置を確認し、そちらへ向かって歩いて行く。
「こうして見ていると、魔族もあまり人間と変わらないな」
エルフィも食事をするし、睡眠も取っている。
魔力の量が多かったり、毒に強かったり、
生命力が異常な点以外は、通常の人間と大差がない。
「まあ、私はそうだな。
だが、魔族と言っても、人間に近い種族もいれば、
人の形を取っているだけで魔物に近い種族もいる。
ひとくくりに考えるのはどうかと思うぞ」
「……そうだな。
魔族って言っても、人間と敵対してる種族をそう呼んでいるだけだし」
この世界には人間の他にも様々な種族が存在している。
妖精種や土妖精種など、
人間と共生している種族は亜人と呼ばれ、
魔王軍の配下として人間と敵対している種族は魔族と呼ばれているのだ。
龍のように、人間と姿がかけ離れている種族は魔物と呼ばれ、魔族と区別されている。
「エルフィは人間と区別が付かないから、問題は起きなさそうだな」
人間に害を加える魔族と影響で、
多種族に対する人間の心証はあまり良くない。
これから行く連合国は亜人族を受け入れているし、
王国も比較的寛容ではあるが、中には人間以外を排斥する国もある。
そういう点では、エルフィの容姿が人間に近くて良かった。
「私が魔王になったら、
そうした魔族への排斥もどうにか和らげていきたいな」
エルフィの目標は人間と魔族の和解……だったか。
亜人ですら排斥される世の中で、その目標を人に話せば笑う奴もいるだろう。
分かった上で、エルフィはそれを目標に掲げているのだ。
「ああ。そのためにもまず、
破魔の武具とお前の体を全部集めよう」
オルテギアを倒さなければ、和解どころかまず人間が滅びるからな。
元の世界に帰れない以上、そうなれば俺も巻き添えを喰らってしまう。
あいつを倒すためにも、必要な物を確実に揃えていこう。
厳しい道程の先にある荒唐無稽で、今の世界からは考えられない夢。
人間の代表として魔族と殺し合ってきた俺には、とても想像がつかない。
だけど、それでも――
真剣に語るエルフィを見て、
俺もそんな世界を見てみたいと思った。
―
それから数時間。
火山方向へ向けて進んだ時だった。
「魔物だ」
不意に茂みの方向を見て、エルフィがそう呟いた。
牙を取り出して身構えた直後、
茂みから複数の狼が飛び出してきた。
草のような緑色の毛皮を持つ、”草狼”だ。
草木に擬態する厄介な魔物だが、それほど強い魔物ではない。
円形を作って俺達の退路を無くし、
ジリジリと間隔を狭めてきている。
「ふん」
最初に飛び掛ってきた一匹が、エルフィの魔眼で吹き飛んだ。
昨日よりもグッと威力を抑えた一撃だが、草狼には耐えられなかったようだ。
『グルルル』
仲間がやられたことで、警戒を強めた草狼達が低い声で唸る。
迂闊に近づいてくるような真似はせず、
俺達の周りをグルグル回って隙を伺っているようだ。
周囲の草狼の数は六匹。
やがてしびれを切らしたのか、
六匹が各方向から同時に飛び掛ってきた。
「伊織、そっちの奴は頼んだぞ」
「っ、分かった!」
エルフィの魔眼は相手を見なければ発動出来ない。
死角から来る敵は俺がカバーしなければならない。
大口を開けて飛んできた個体を、
身体強化して下から思い切り蹴りあげる。
口を思い切り閉じられ、その草狼は悲鳴をあげて仰け反った。
「フッ!」
同時に俺の足に喰らいつこうとしてきた草狼を躱し、
脳天へと思い切り牙を突き立てた。
緑色の体が大きく震え、やがて動かなくなる。
即座にさっき蹴り上げた草狼の方へ向くと、
ちょうど牙を剥き出しにして俺に喰らいつこうとしているところだった。
懐に入れてあるもう一本の牙に手を伸ばし、
草狼に突き刺そうとする直前――
「遅いぞ、伊織」
唐突に草狼が地面へと落下し、
そのまま重力に押し潰されて絶命した。
エルフィへと視線を向けると、
彼女は四匹の草狼をとっくに倒し終わり、
こちらを見て呆れたような表情を浮かべていた。
「悪いな」
「いいさ。だが――」
言葉を切り、エルフィが訝しげな視線を向けてくる。
「伊織、お前一体どうやって土魔将を倒したんだ?」
草狼に手こずっていた俺に、
エルフィがもっともな疑問をぶつけてくる。
「腕は良いが、あくまで普通の人間の域のでしかない。
魔力はむしろ普通よりも少ないくらいだ。
それで土魔将を倒せるとは到底思えないぞ」
確かに、この実力ではとてもではないが土魔将を倒すことなど出来ないだろう。
いい機会だ。
俺の戦闘力について、エルフィに説明しておこう。
「確かに普通に戦ったんじゃ、土魔将には勝てなかったよ」
俺の戦闘力は一般人よりも少し上くらいでしかないからな。
「だけど、殺される直前、唐突に魔力が湧き出してきて、
あいつを殺せるだけの一撃を放つことが出来た」
「ほう……魔力が?」
身体強化が精一杯な魔力量から、
膨大な魔力が降って湧いたかのように、俺の中から溢れだしてきた。
「エルフィの封印結晶が砕けたのもその一撃の効果だと思う」
「ふむ……奇妙な話だな」
確かにその通りだ。
しかし、あれはそうとしか言い様がない。
「つまり、その魔力の増加がお前の勇者としての力だというのか?」
「恐らく……な。
他の勇者は自分がどんな力を持っているのか自覚できてた。
でも、どういう訳だか俺だけ、自分の力が分からないんだ」
そう言うと、エルフィはしばらく考えこむような素振りを見せた。
彼女としては、
俺が土魔将を倒せるだけの力を持っていると思って、
手を組もうと提案してきたのだろう。
失望させてしまっただろうか。
「まあ、いいさ。
戦闘に関しては魔眼がある。
調整すれば私ひとりで戦えるだろう。
伊織には封印結晶を見つけてもらうという重要な役目があるからな」
俺が弱いと知ったエルフィは、あっさりとそう言った。
特に失望しているようでもない。
「……いいのか?」
「言っただろ? 私には封印が見えないんだ。
むしろ伊織が弱くて助かったよ」
弱いと言い切られてしまうのは若干癪ではあるが、
エルフィのその答えはありがたかった。
「それに、よく分かっていないとはいえ、
お前には土魔将を倒せるだけの力が秘められているんだ。
どうしようもなくなった時は、勇者の力に期待させて貰うとするさ」
「……分かった」
ひとまず、自分の力についてエルフィに話すことが出来た。
これで俺達二人の戦力について、
エルフィもしっかりと考えて行動することが出来るだろう。
だが……英雄アマツの件については、もうしばらく伏せておこう。
今言っても特に意味はないだろうし、彼女を混乱させるだけだ。
信じてもらえる証拠もない。
時期を見計らって、
然るべき時に元英雄だということを話すとしよう。
「おい、どうした伊織」
「うわっ」
エルフィがものすごく顔を近づけてきていた。
考えごとをしていて気が付かなかった。
「……なんでもないよ」
適当に誤魔化した後、俺達は更に森を進んだ。
日が暮れてくる前に野営地を定め、
昨日と同じように野宿の準備を始める。
草狼の肉をエルフィがこっそり持ってきていたが、
臭みが強すぎて調理できないと判断し、
持っていてもしかたがないので捨てさせた。
不満そうにしていたが、香草を使うだけでは無理があるからな。
野生の動物と果物を見つけ、それを夕食とした。
そして早めに就寝し――
日が登ると、すぐに目を覚ます。
準備を終えて、俺達はすぐに出発した。
二時間ほど歩いて、ようやく森の外へ出た。
森の外には草原が広がっており、人の手によって整備された街道が続いていた。
そこからは歩くのがかなり楽になり、
真っ直ぐに街の方へと進んでいく。
「もうしばらくで連合国か。
私が知っているのは百五十年も前の連合国だが、今はどうなっているのだろう」
「んー……俺も連合国についての知識はそんなにないな」
俺が持っている知識も、百年前のだしな。
その間に国が一つ滅んでいるし、
連合国が大きく変わっていてもおかしくはない。
「まあ、分からないことがあったら街の人にでも聞こう」
これから向かう温泉都市は観光客が多い所だ。
旅人に対して、その辺の街よりは丁寧に接してくれるだろう。
といっても、温泉都市がなくなっていなければの話だが。
「お、見えてきたな」
エルフィのそんな言葉で、
俺は自分の考えが杞憂だったことを知る。
街道の先に見える巨大な火山から少し離れた場所に、大きな街があるのが見えた。
百年前に見たのとそれ程大きくは変わらない街並みだ。
「私の記憶とそれ程大きく違いはないようだな!」
どうやら、百五十年前からもそれ程変化していないらしい。
「温泉都市には温泉まんじゅうという、変わったまんじゅうがあった筈だ。
早く行くぞ、伊織!」
ワクワクしたようにそう言って、エルフィが街へ向かって走り出す。
見た目相応の少女のような振る舞いに俺は苦笑しつつ、彼女の後を追った。
こうして俺達は、次の目的地”煉獄迷宮”の近くにある、
連合国の誇る観光街――温泉都市に到着したのだった。
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