第六話 『元英雄と元魔王』
前話、見返すと書き方のせいでバルギルドさんがヒロインに見える…。
バルギルドヒロイン説。
「元……魔王だと?」
少女の名乗りを思わず反復してしまった。
「ああ、そうだ」と少女は偉そうに頷いている。
エルフィスザーク・ヴァン・ギルデガルド。
その名前には聞き覚えがある。
現魔王として猛威を振るうオルテギアの一つ前、先代の魔王の名前だ。
穏健な魔王として知られ、
歴代魔王の中でも突出した魔力を保有していたと言われている、
五十年前……いや、百五十年前か。
人間を憎むオルテギアの下克上によって殺害されている。
エルフィスザークを殺したことで、オルテギアが魔王となったという訳だ。
エルフィスザークを名乗る少女は、
確かに平均を大きく上回る魔力を保有している。
だが、とてもじゃないが魔王に届くレベルではない。
何よりエルフィスザークは百五十年前に死亡しているのだ。
この少女がエルフィスザーク本人とは到底思えない。
「とてもじゃないが、信じられないな。
エルフィスザークはとっくの昔に死んでいる。
どうして故人がこんな所に封印されてるんだ」
「なるほど、私は死んだことにされているのか」
元魔王を名乗る少女は興味深そうな表情を浮かべる。
「まあ、信じられなくても無理はないか。
今の私はオルテギアによって体を五つに分割され、
力のほぼの全てを失っているからな」
「……分割だと?」
「ああ。魔王の座を奪おうと挑んできたオルテギアと戦って私は敗れた。
だが、私ほどの魔力を保有していると、
死んだとしても長い時間を掛ければ蘇ることが出来るのだ」
そういえば、確かに。
魔力を多く保有している魔物や魔族は再生能力に長けていた。
魔王ともなれば、蘇ってもおかしくないかもしれない。
「私の復活を恐れたオルテギアは私の肉体を五つに分割し、
特別な封印結晶に封じ込めた。
百五十年前から、私はずっとここにいるんだよ」
滔々と語る少女が、嘘を付いている素振りはない。
だが、やはり簡単に信じられるような話ではなかった。
それに話が本当なら、
百年前に俺がここへ来た時にも封印結晶があったことになる。
以前はあんな物、存在していなかった。
「特別な封印結晶というのは、あの妙な作りになっていたやつか?」
「ほう……。お前は私が見えていたのか」
少女は自分が封じ込められていた方を向き、忌々しそうな口調で言った。
「あれはな、迷宮の下層に辿り着けるような強い魔力を持つ者には、
どうやっても見えないよう細工が施されている。
だから私は、今まで誰にも見つからなかったのだ」
少女はそう言った後、蒸し返すように首を傾げた。
「そういえばお前……よくそんな少ない魔力であの龍を倒せたな」
強い魔力を持つ者には見えない……。
確かにそれなら、前に俺が来た時に封印結晶が無かったことへの説明が付く。
少女の言葉に答えずにいると、気にした様子もなく言葉を続けた。
「ふむ。この説明で信じて貰えないとなると、後は”魔王紋”しかないな」
少女は、自分の裸を這っている黒い紋章を指す。
少女を直視しないように気を付けながら、魔王紋と呼ばれる紋章を見てみる。
「……!」
この少女の紋章を見た時、既視感を感じていた。
――魔王オルテギア。
あの魔王の体を伝っていた赤い紋章に、少女の物は類似している。
「魔王の座から降りているから、今はただの紋章だがな。
ああ……魔王を見たことのない人間に言っても意味がなかったか。困ったな」
そう言って、少女は唸り始めた。
そんな彼女に対して、俺は言った。
「いや……信じるよ」
「ほう……?」
「ここまでの話に矛盾した点は無かったし、
嘘を付いているようにも見えなかった。
それにその魔王紋っていう紋章にも、心当たりがある」
少女から敵意は感じないし、これ以上、疑う意味もない。
俺は少女――エルフィスザークの言うことを信じることにした。
「疑って悪かった」
「気にするな。目の前にいるのが元魔王と言われて、
すぐに信じる方がどうかしているからな」
俺に信用されたのが嬉しいのか、エルフィスザークは上機嫌に笑った。
動く度に晒されている胸が震えて、酷く目の毒だ。
俺が裸体を視界を入れないようにしているのを何かと勘違いしたのか、
「安心しろ。
元魔王とは名乗ったが、人間に危害を加えるつもりはない。
ましてお前は私を封印から出してくれた恩人だからな。
むしろ、礼をしたいくらいだよ」
「そ、そうか……」
裸でいるのは俺への礼のつもりか? とは流石に聞かなかった。
何はともあれ、こちらに危害を加えるつもりがないのは良い事だ。
「私がエルフィスザークだと信じて貰えたことだし、
次はお前のことを聞いてもいいか? 」
「ああ」
「見覚えのない格好だ。
少なくとも、王国の人間ではないようだが」
エルフィスザークの問いに、どう答えるか少しの間悩んだ。
魔力の量が少ないことは既に見抜かれてしまっている。
他国からこの迷宮へやってきた人間、という嘘は通じないだろう。
好意的な態度で接してきているのだから、
ある程度は話してもいいかもしれない。
「俺は天月伊織。
異世界からこの世界を救う為に召喚された勇者の一人だ」
「ほう……」
興味深そうな顔で話を聞くエルフィスザークに、
英雄アマツのことに関して言おうか迷ったが、結局言うのは止めた。
完全に信用出来ない以上、このことは伏せておこう。
「なるほどな。
公国が異界から勇者を喚び出す魔術実験をしていたが、成功したという訳か」
元魔王だという話と同じくらいに突拍子もない話だと思ったが、
エルフィスザークはあっさりと俺の言葉を信じたようだった。
公国の魔術実験という知識があった為だろうか。
というか、エルフィスザークが封印される前から、
公国は勇者を召喚しようとしていたのか。
「召喚の魔術は公国製だけど、俺を喚び出したのは王国だ。
公国は一度勇者を喚び出した後に魔王によって滅ぼされたらしい」
「公国が滅んだだと?
あそこの果実は絶品だったというのに……おのれオルテギアめ」
疑った様子もなく、エルフィスザークは俺の言葉を受け入れる。
国一つ滅んだというのに、疑う様子もない。
「……随分と簡単に信じるんだな」
「私は人を見る目には自信があるからな」
そう言って、エルフィスザークはどや顔をしてきた。
「それに、異界から来た勇者ということならば、
その少ない魔力量で龍を倒せたことにも説明がつく」
侮っていた訳ではないが、思った以上に聡明だ。
鷹揚な態度だが、こちらのことをよく観察している。
「そういえば、喚び出された勇者の一人、と言ったな。
つまり、お前の他にも勇者がいるということか?」
やはり、拾ってきたか。
エルフィスザークがどう動くか分からない以上、曖昧な返事をするしかない。
「ああ……そうだな」
相手は元魔王だ。
あまり勇者について詳しく語るのはよくないかもしれない。
言葉を掻い摘んで、勇者についての詳しい情報を隠す。
そして、ここへ来た経緯へと話をすり替えた。
「酷い連中もいたものだ。そうか、お前も色々と苦労しているのだな」
勇者についてボカしたことに、恐らくエルフィスザークは気付いてだろう。
しかし、彼女はそこについては触れてこず、
俺の境遇に関して同乗する風な反応を見せた。
同じ魔王なのに、オルテギアとは随分性格が違うな。
「……意外だ。魔王ってのは、皆冷酷な奴だと思っていた」
「それは心外だな。
魔王にも心優しい者はいるし、私とて穏健派として通っていた魔王だ。
冷酷なのはオルテギアのような、一部の武闘派の者だけだよ」
魔族も一枚岩ではないということか。
現に目の前の少女も、仲間だったはずのオルテギアに魔王の座を追われているからな。
「だが、公国が滅んだということは、
最初に召喚された勇者はオルテギアを殺せなかったか」
「……あぁ。あと一歩の所まで追い詰めたらしいが、
最後の最後で敗北したらしい。何か気になることがあるのか?」
エルフィスザークは何かを逡巡する素振りを見せた。
そして、こちらをチラリと一瞥した後、「まあいいか」と一人で頷き、話し始めた。
「その勇者がどれ程の力を持っていたかは知らないが、
ただ強いだけでは絶対に魔王を倒すことは出来ない」
「……どういうことだ」
確かに、俺はオルテギアを殺せなかった。
魔天失墜を持ってしても、あいつの魔力を破ることが出来なかったのだ。
エルフィスザークがあいつに負けたのにも、何か理由があると言うのか?
「オルテギアは――不死身だ」
彼女の口からは、衝撃的な言葉が飛び出してきた。
オルテギアが不死身……だと?
「……そんな話は聞いたことがないぞ」
「当たり前だ。
オルテギアが不死身だということを知っているのは、魔族だけだからな」
エルフィスザークは軽くそう言った。
「じゃあ、あいつを殺すことなんて出来ないのか?」
「いや、そうでもないぞ」
そういうと、エルフィスザークは俺に背を向けて小走りを始めた。
バルギルドの骸を避け、自分が封印されていた場所の近くまで移動していく。
低く屈んだかと思うと、彼女はすぐにこちらに戻ってきた。
「これだ」
そう言って彼女が見せてきたのは、古ぼけた二足の靴だった。
全く気付かなかったが、あそこに転がっていたらしい。
「この靴がどうしたっていうんだ」
「これが――魔王を殺すための道具だ」
いや、訳が分からない。
こいつは何を言っているのだろう。
もう一度靴を見てみるが、何の効果もないただの靴にしか見えない。
「いいか。
私のように膨大な魔力を持つ魔族は、
さっき説明した通り、魂さえ残っていれば蘇生することが可能だ。
そんな魔族の魂を削り切ることを目的とした武具が存在している」
「それがこの靴だってのか?」
俺の問いに、エルフィスザークはコクリと頷いた。
その表情は真剣そのものだ。
「何か力を持っているようには見えないが……」
「これは”破魔の天靴”という特別な武具だ。
これ一つでは何の力も持たないが、
”破魔”の名を冠する五つの武具を集めることで、
装着者は魔王殺しの力を得ることが出来る」
どうにも胡散臭い話だ。
猜疑の目を向けていると、彼女が動いた。
「ちょっとそれを貸して貰うぞ」
次の瞬間、握っていた筈の牙が俺の手から消えていた。
牙を取られたことに、気づけなかった。
直感が失われているとはいえ、少しショックだ。
土魔将から生えていた恐ろしい程に鋭利な牙を、
エルフィスザークは手の中に勢い良く靴に突き立てた。
「……!」
だが、靴に牙は通らなかった。
何の魔力も感じられない、見た目はただの靴だというのに。
これが破魔の天靴なのかは分からないが、確かに特殊な物ではあるようだ。
「この靴は私を封印したのと同じ種類の封印が施され、
それぞれ五将迷宮に隠されている」
「詳しいんだな」
「ああ。隠したのは私だからな」
あっさりと、エルフィスザークはそんなことを言った。
「私だって魔王だ。
自分を殺せる道具をその辺りに放っておける訳がないだろう」
「まぁ……そうだな」
確かに自分を殺しうる道具を放置しておく訳がないか。
「オルテギアが不死身という話はしたな。
あいつは魔族の中でも特別で、肉体が一定以上のダメージを受けると、
秘めていた魔力が解放され、それ以上のダメージを与えられなくなる」
エルフィスザークの説明で合点がいった。
魔天失墜が弾かれたのは、そういうからくりがあったからなのか。
確かにそれまで通っていた攻撃が、最後の一瞬、唐突に通らなくなっていた。
「だが、破魔の武具の力を使えば、
その魔力を打ち破り、奴の魂にダメージを与えることが出来るのだ」
そうは言っても、この靴がどうしたら魔王の魂を打ち砕けるのだろう。
俺の内心を読んだのか、「まあ五つ揃えれば分かるさ」とエルフィスザークは言った。
「それが魔族を殺せるんなら、
どうしてオルテギアはお前を倒す時に破魔の武具を使わなかったんだ?」
「魔族に破魔の武具は使えないからだ」
なるほど、言われてみれば当たり前か。
名前からして破魔だもんな。
魔力の化身みたいな魔王にとっては最悪の道具だろう。
納得する俺を尻目に、エルフィスザークは続けた。
「それに、仮に使えたとしてもあいつは封印を選んだ筈だ。
破魔の武具を揃えれば、自分が滅ぼされる恐れがあるからな」
確かに、破魔の武具が奪われたりした時のことを考えれば、
そう簡単に破魔の武具を揃えられないか。
「まあ、せっかく手に入れたんだ。無くさないようにしまっておこう」
そう言うと、エルフィスザークが靴を自分の頭の上に乗せ始めた。
「どうするつもりだ?」
「こうするんだ」
ズズズと音を立てて、靴がエルフィスザークの頭の中で沈んでいった。
かなりショッキングな映像だ。
「”収納魔術”だ。こうして頭の中に色々な物を詰め込める」
「そ、そうか……便利だな。いや……ちょっと待て」
「ん?」
エルフィスザークの中に完全に靴が入ってしまう前に、俺は彼女を止めた。
「今の話が本当なら、その靴を持っていかれるのは都合が悪い」
「ほう」
エルフィスザークは頭から靴を離し、俺の話を聞いている。
「俺を召喚した王様の話だと、
魔王は今、人間を滅ぼすために魔力を溜めているらしい」
「……ふむ」
「俺には元の世界に帰る方法がないんだ。
このままだと、この世界と一緒に滅ばされちまう」
まだ死ぬのはごめんだからな。
そんなのはごめんだ。
「このまま死ぬのを待つくらいなら、俺は魔王を倒しに行く。
だから、その靴を持っていかれる訳にはいかない」
クラスメイト(ゆうしゃ)達ではあいつを倒すのは無理だろう。
それに、破魔の武具の事を知っている人間は俺だけだ。
だったら、俺がやるしかない。
オルテギアには一度殺された借りがあるし、ちょうどいい。
「ふむふむ、そうだな!」
俺の言葉に、何故かエルフィスザークは嬉しそうな表情を浮かべる。
そしてズイッと顔を近付けてきた。
思わず後ずさる俺に構わず、顔が触れ合いそうな距離までやってくる。
すると、エルフィスザークはこんな提案をしてきた。
「確か、伊織と言ったな。お前、私と一緒に来ないか? 」
「何だと……?」
何故、靴を持って行かせる訳にはいかないという話から、
俺がこいつと一緒に行くという話になったんだ?
「破魔の武具がそれぞれ五将迷宮に封印されていると言ったが、
実は分割された私の体も五将迷宮に封じられているのだ」
そういえば、体を五つに分割されたと言っていたな。
丁寧に全ての迷宮に分けられてしまっているのか。
辟易していると、彼女は真面目な視線を向けてきた。
「私は自分の体を取り戻したい。
そして、お前は勇者として魔王を倒すため、破魔の武具が必要だ。
利害は一致しているだろう?」
思わず頷き掛けたが、頭のどこかでストップが掛かった。
俺は破魔の武具を、彼女は自分の体を。
確かに利害は一致している。
だが、また分からないことが多い。
「俺はとにかく、お前が俺を仲間に引き入れるメリットがあるのか?」
「勿論だ。お前は勇者として召喚されたのだろう?
土魔将を殺すほどの力があるのだ。迷宮を突破するのに役立つだろう」
どうやら彼女は、勇者という単語に期待しすぎているらしい。
今の俺は安定して力を出すことが出来ないというのに。
戦力として期待して貰っても困る。
エルフィスザークは続けていった。
「そして何より、お前には魔力がない。
私の体と破魔の武具を封じ込めている結晶は、
魔力の量が低い者にしか見えないようになっているのだ。
魔力の多い私には封印を見つけられないからな」
魔王に抵抗出来る程の実力を持つ人間には、絶対に見つけられないということか。
考えれば考えるほどに質が悪い。
「分割されているとは言え、私は元魔王だ。
今持っている力だけでも、十分に戦える。お前の役に立てる筈だぞ?」
エルフィスザークは、熱心に俺を勧誘してきていた。
確かに、彼女が俺と組むことで得られるメリットは分かった。
だがそれにしても、見ず知らずの俺を随分と買っているように見える。
「どうして、俺なんだ?」
その問いに対して、エルフィスザークはチラリと視線を横へズラした。
視線の先にあるのは、彼女が封じられていた結晶があった場所だ。
「……お前は、私を封印から出してくれた人間だ。
私はお前にその恩を返したい。
お前がオルテギアを倒すというのなら、
私もそれに協力するのもやぶさかではない」
「……本当にそれだけなのか? 」
「……勿論、私個人の事情もあるがな」
どうやら何か含みがあるようだ。
小さく笑うエルフィスザークだが、悪意があるようには見えなかった。
だが、彼女は魔族で、俺は人間だ。
まだ確認しておかなければならないことがある。
「一つだけ、聞かせてくれ」
「何だ?」
「もし仮にオルテギアを倒したら、再び魔王の座に着くつもりか?」
オルテギアを倒せたとしても、新たな魔王が君臨しては何の意味もない。
新しい敵が生まれるだけだ。
この問いに対する返答に関して、俺と彼女の関係は決定する。
しばらくの沈黙の後、エルフィスザークは答えた。
「――ああ」
やはりそうか。
彼女はあくまでも、魔王の座に戻るつもりのようだ。
「だったら……」
「だが、私はオルテギアのように人間を滅ぼそうとはしない」
お前とは行動できない。
そう言おうとした俺を、エルフィスザークが遮った。
「私はな、人間を滅ぼしたいなどは思っていない。
むしろ――尊敬しているんだ」
「尊敬……?」
どういう事だろう。
魔族が人間を尊敬しているという話は聞いたことがない。
むしろ、侮蔑の対象として見ている筈だ。
「力だけを求める魔族と違い、人間は色々な技術を生み出してきた。
生活に役立つ魔術や、使い勝手の良い魔術。
それに、魔族では作れない美味しい料理とかな」
熱心に言葉を並べるエルフィスザーク。
最後の料理にだけ、やけに力が入っていたのは気のせいだろうか。
「私は常に新しい物を生み出そうとする人間を素晴らしいと思う。
だからこそ、魔族と人間……二つの種族が争わず、共生できる世界を作りたいと思っている」
そう語るエルフィスザークの表情は真剣そのものだった。
長い歴史の中で、争い続けてきた人間と魔族が共生などすることは出来ない。
そう口を挟むのを、躊躇ってしまう程に。
「だから、私が魔王をやっている時は争わなくて済むように手を打ってきた。
その結果、人に媚びを売る惰弱な魔王と呼ばれ、人を蔑むオルテギアに負けてしまったがな」
そう言って、エルフィスザークは自嘲するように微笑んだ。
「だから……”勇者”天月伊織。
私と一緒に来てくれないか。
勇者と、”元魔王”の私で、
平和な世界を作るために、共にオルテギアと戦ってくれ」
そう言って、エルフィスザークは俺に頭を下げてきた。
人間と魔族が共生する未来など、今の俺には想像もつかない。
元は魔王として君臨していた彼女がこんな現実離れしたことを言うとは。
しかし、彼女の想いは伝わった。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。
俺と一緒に魔王を倒すため、力を貸してくれ」
俺の答えにエルフィスザークは頭を上げ、柔らかな笑みを浮かべた。
「――ありがとう」
”元英雄”と”元魔王”。
本来は交わる筈の無かった存在が、今ここで手を結んだ。
――こうして、俺達は共に魔王殺しの旅をすることになったのだった。
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