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第一話 『二度目の召喚』

 俺が異世界に召喚されたのは、五年前のことだ。


 唐突に世界が光に包まれ、気付けば異世界に立っていた。

 そしてうろたえていた俺に、公国の王を名乗る男が告げたのだ。


『魔王を倒す為に、君を呼んだんだ』


 拒否する権限はない。

 その日から、地獄の日々が始まった。

 俺はなし崩し的に勇者にされてしまったのだ。


 それから五年掛け、ただの高校生だった俺、

 天月伊織あまつき いおりは”英雄アマツ”として最後の戦いに挑んだ。


 しかし、俺は魔王に敗れ、呆気無く死んだ――筈だった。


 目を覚ました時、俺は元の世界へ戻ってきていた。

 あちらの世界で五年を過ごしたというのに、

 こちらで経過していた時間はたったの一ヶ月。


 成長していた俺の体は五年前の物に戻り、

 あちらで身に付けた超人的な力も殆ど無くなっていた。

 戻ってきて一週間が経過したが、一体何がなんなのか分からない。


「うわ、伊織ちゃん。今日も朝から暗い顔してんなぁ。

 一ヶ月どっかに行ってる間に、根暗になった? あ、元からか!」


 教室に入るなり、クラスメイトの高坂凪斗こうさか なぎとが大声で話し掛けてくる。


「…………」


 高坂の言葉ではないが、

 この世界で経過していた一ヶ月の間、俺は失踪した事になっていた。


 高校二年生が一ヶ月も行方をくらませれば、それなりの騒ぎになる。

 この世界に戻ってきて一週間が経過したが、

 学校に登校出来たのは昨日のことだ。

 

「伊織ちゃんがいない間、寂しかったんだぜ? なぁ、こっち向けって」


 無言で席に座った俺に、高坂がしつこく話し掛けてくる。

 そんな俺にクラスメイトはちらりと視線を向けるが、

 次の瞬間には何もなかったかのように振る舞う。


 クラス委員の飯田正次いいだ まさつぐと視線が合ったが、

 彼もすぐに目を逸らして授業の支度を始めた。

 

「なぁ、おい伊織ちゃん?」

「…………」


 しつこかったので、俺は高坂の方を睨み付けた。

 殺気の篭った視線。

 高坂が言いかけていた言葉を飲み込み、小さく息を吐いて後ろに下がる。


 かつての力は失っているが、それでも高坂一人をねじふせるのは造作もない。

 ただ、ここはしがらみの多い現実だ。

 手を出して面倒ごとになるのは避けたい。

 

 怯える高坂を横目に、俺は立ち上がって教室から出た。

 ホームルームまでまだ時間がある。

 トイレにでも行っておくか。


「い、伊織の奴、ちょっと顔つき変わった……か?」


 教室の方から、そんな声が聞こえた。



 休み時間。

 教室にいても高坂達に絡まれるので、

 行く宛もなく校内をぶらついていた。

 すると、この世界に帰ってきた時のことが脳裏に浮かんだ。


『一ヶ月間もどこへ行っていたんだ!?』


 家に戻った俺が最初に聞いたのは、叔父の叫び声だった。

 捜索届けを取り下げなければと、激怒しながら電話をかける姿。

 叔父の言葉で、こちらの世界では一ヶ月しか経過していないことを知った。


「お前が兄さんの子供でなければ、

 すぐにでも追い出している所だぞ!」


 俺の両親は、俺が小さな頃に交通事故でなくなっている。

 誰が俺を引き取るかで、親族の間で争いが起きたらしい。

 結局、結局俺は叔父に引き取られることになった。


 育ててくれた事に感謝はしている。

 しかし一緒の家で生活していても、叔父の事は他人としか思えなかった。

 叔父にしても、俺は厄介な他人という所だろう。



「……この世界に、俺の居場所はないってことか」





 ホームルームが終了し、教師が教室から去っていく。

 ちらりと俺に向けた視線からは、

 「面倒事は避けたい」という意志しか読み取れない。


 その意見には全面的に同意だ。

 俺もさっさと鞄に荷物をまとめ、椅子から立ち上がろうとした時だ。


「伊織ちゃん、無視するなって。

 一ヶ月なにしてたのか教えてくれよー」


 高坂とその取り巻きが、笑みを浮かべながら近付いてきた。

 無視して教室の出入り口を目指す俺の肩を、高坂ががっちりと掴む。

 

「……何の用だ? 忙しいんだが」


 忙しいというのは嘘ではない。

 実際に一ヶ月間、失踪していた間にやらなければならないことが溜まっている。

 こいつらに付き合っている暇はないのだ。


「あぁ? 話そうって言ってるだけじゃねえか」


 明確に逆らった俺に、高坂が苛立ちの表情を浮かべた。

 取り巻き達も、俺を取り囲むように近付いてくる。

 さて、どうしようか。


 面倒事は避けたかったが、俺にも我慢の限界はある。

 教師もいないことだし、少しばかり反撃しておくか。

 そう思った時だった。


「な、なんだぁ!?」


 不意に教室の床が目が眩むような白い光を放ち始める。

 教室全体が大きく震動し、机と椅子がガタガタと激しく音を立てた。


「じ、地震かっ?」

「すごい揺れだぞ!?」


 騒ぎ出すクラスメイト達の中で、

 俺は見覚えのある光景に目を見開いていた。


 俺は、この光景を知っている。

 忘れる訳もない。


 この光は、そう……。

 五年前に経験したのと同じ魔力だ。

 グラリと世界が傾き、視界が光に覆われる。

 


 ――こうして俺は、再び異世界へ召喚されたのだった。


次話→ 5/8 12:00

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