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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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道雪

草木も眠る丑三つ時、安土城特別室の明かりは灯され、一人の女子が机に向かい、一心不乱に筆を動かしていた。

女子の周りには、山済みされた報告書や書類が所狭しとあり、その後ろには、何時でも寝れるようにと、布団が敷いてあった。

その布団の中で幼い赤子が、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。

一段落出来たのか、後ろを振り向き、寝ている赤子の顔を撫で、女子は独り言を呟いていた。

「ほんと、不思議な子だわ、隣の部屋で寝かせれば、泣き喚くし、近くに連れてきたら、こんな感じで気持ちよさそうに寝息を立てて、寝るんだもの」

困ったように話しながらも、顔は笑顔で緩んでいる。

「あたしも、そろそろ寝ないと、明日に差し障りがで、、、誰かしらこんな夜更けに」

障子越しに気配を感じ、振り向かず、赤子を見つめながら、静かに呟く。

「甲賀衆望月出雲に御座います」

「あら、久しぶりね。元気してた?」

「姫様、ご報告が」

「聞きましょうか、でも静かに入りなさい、梵天丸が寝てるから」

「はっ」

部屋に入ることを許可された望月は、音も立てず、部屋に入ると部屋の片隅に移動し、片膝をつきながら頭を下げる。

「そんな端っこに居なくていいから、こっち来なさい」

部屋に入った望月を見つめながら、手で自分の横を叩きながら、話す市。

「いやしかし、」

困惑した表情を浮かべながら、返答に困る望月。

「そんな離れてたら、声が大きくなるでしょ、それにあたしに対して、そんな気遣いは無用よ」

「御意」

緊張した面持ちで静かに、市に近づく望月。

「まだ慣れてないわね、望月」

「申し訳御座いませぬ」

「伊賀衆を見習いなさい、あの子達は近いわって言うくらい、近づいて報告するわよ」

微笑みながら、話す市。

「あのような田舎者の伊賀と比べないで頂きたい」

「望月、そのような言葉は二度と、あたしの前では元より、どんな場所でも言うな」

「しかし、古来より伊賀と甲賀の仲は、それほど良いとは言えず、」

「その様なとこをまだ言うのか」

「なっ、、、(この儂が怯えておるのか)」

不機嫌な顔になり、冷めた声で呟く市に対して、望月はこれまでに感じたことの無い恐怖を感じ、体が震え出す。

「伊賀も甲賀も他の忍び達も、私に、いや織田にとって、もう同じ日の本の民なのよ」

「もっ申し訳御座いませぬ」

「金輪際、そのような考えは持つな、甲賀の纏め役である、お前の考えが下々の持つ意思になりかねぬ」

「・・・」

「これからは、共に助け合い、生きていく意思を植えつけさせろ。それが纏め役としての義務だ!良いな」

「胸に刻みまする」

「ならば良い、で報告とはなんですか」

神妙な面持ちで答える望月を見て、優しい顔に変わり、質問する市。

「今井様に付けていた忍びより、報告があり、今井様が堺に着いたとの事」

「ふ~ん、誰か付いて来たのかしらね?」

普段の様子に戻った望月が報告をすると、首を傾げながら、市が呟く。

「島津の誰かが付いてくると、思っておられたのですか」

「ええっ、あそこは脳筋ばかりではないもの、来るとしたら家久辺りかしら」

「なっ、そこまでお分かりになられるとは、、、」

「安土まで来るとしたら、数日中かしらね」

「そうなるかと」

「九州の情勢はどうなってるのかしら、座頭衆の者から、なんか聞いてない?」

「いえ、私の方には、」

「望月はわかんないか、じゃお面に聞こうかしらね、、、お面居るんでしょ」

「えっ、」

上を向き、天井を見つめながら呟く市に対して、驚きの声を上げる望月。

(スタッ)

「気配を読まれるとは、お市様も中々やりますな」

望月の横に現れて、市に向かい、表情を崩さずに話しかける杉原盛重(お面)

「なんかねぇ、不思議と分かるようになったのよね、歳かしらね?」

「歳で、分かるようになれば、忍びは皆廃業せねばならなくなりますな」

「それは困るわね、隠密行動は今後も必須だからね」

「精進いたします」

おどけて話す市に対して、静かに頭を下げるお面。

「で、九州の情勢はどうなってるのかしら?」

「大友の動きが、活発になっており、龍造寺が大友に押されておるようです」

「そうなるわよね、それで大友の吉弘鑑理、戸次鑑連、臼杵鑑速と龍造寺んとこの鍋島直茂とは、繋がりが出来たかしら?」

「はっ姫様の文は届けております、鍋島様は前向きに考えたいとの言伝をもらっておりますが、ただ、」

「大友からの返事は無いか」

「御意」

「でしょうねぇ、大友に忠誠を誓いきってる三宿老でしょうしね」

「・・・」

「まっいいわ、押さえ切れないなら、九州を焼け野原にして、消すまでよ」

「「っ、、、、」」

薄暗い部屋の中で灯された光に照らされた市の笑顔に、不安と恐れを抱く望月とお面であった。


その頃、戸次鑑連は主君である大友義鎮の出した命に従い、兵を集める為に筑後赤司城に戻っていた。

そして座頭衆の忍びから、もたらされた市からの文を目の前で開き、険しい顔をして見つめるのも仕方ないことだろう、文に書かれてある様に物事が進むのである。

それは恐ろしいことであり、この先にある破滅すら予言されているのような感覚に陥っていた。

どうすれば、主家の破滅を回避できるか、そのことで頭を悩ませる。

そんな時、大きなお腹をさすりながら、女が声をかける。

「お前様、顔色が悪う御座います、少し休まれては如何ですか」

「仁志か、案ずるな心配ない」

「しかし、」

「今は、その腹の子の事だけを心配しておれば良い」

「また戦で御座いますか」

「儂は、戦で恩返しする奉公しかできぬ、戦馬鹿じゃからな」

「そのような事はありませぬ、お前様が戦しか出来ぬ戦馬鹿なれば、お前様を慕う民は居ないことになりますよ、でもお前様は民に慕われております、出なければ、兵など集まりませぬ、自信をお持ちくださいませ」

「、、、おぬしは、強いな」

少し、憑き物が落ちた顔をして、仁志を見つめる鑑連。

「だって、母になるのです、弱音など吐けないでしょ」

「たしかにな、」

「今から生まれる子の為にも、貴方様は生まれ変わった気で、ご奉公なされたら良いのではないでしょうか」

「生まれ変わるか、、、なるほどな」

流石は、仁志じゃな、破滅の道を回避する方法が見つかったやも知れぬ。

仏門に帰依し、儂は出家しよう、そしてお館様にも出家して頂こう。

あの宣教師とお館様を引き離す為にはこれしかないのかもしれん。

「どうしたのですか、いったい」

「いや、良いのだ、少し道が見えたわ。儂はこれより出家して、道雪と名乗ろうぞ」

「えっ、でも、、、まっお前様がそうしたら良いと思われるのであればそうなされませ」

微笑む仁志に微笑み返す鑑連。

この後、髪を剃り落としてから、再度登城すると、宣教師達と手を切るように出家を進めるが、道雪の思いは伝わらず、九州全土に戦火は広がるのであった。

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