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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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鬼の思案と梅の笑み

九州南部、温暖な気候とは裏腹に、活火山が放つ火山灰により、土地は痩せ、作物を育てるのが、困難な土地柄である薩摩。

その日の食べ物にも苦労し、食べ物を他の領地から、得る事も少なくなかった。

貧しき国薩摩、その風土に対応した、人々が持つ反骨精神は異様な光を放っていた。

それは中央の政から、離れ過ぎていた為に、起こっているものだともいえる。

そして、中央の権力者達には、奥州などと同じ蛮族の地としてしか、認識されていなかったのである。

普通ならば、豊かな土地を目指し、戦を仕掛け、この地を見捨てる事が、最善と考えるであろう。

ましてや、鉄砲伝来の地として、何処よりも早く鉄砲と言う武器を手に入れていたのだから・・・

しかし彼らは、それを良しとは考えなかった。

自ら動かず、やられてから、やり返す、そんな者達が治める薩摩、大隅二カ国の太守・・・島津貴久。

島津家の旧領は薩摩、大隅、日向の三ヵ国を治める太守であったが、貴久の前の代までに、薩摩一国まで追い詰められ、そして貴久で挽回したという経歴があった。

その挽回の立役者が、四人の息子である長男義久、次男義弘、三男歳久、四男家久達であった。

そんな息子達4人が、島津家の本拠地である内城の居室で顔を顔を突き合わせていた。

「父上が、隠居なさるそうだ」

「そのようでごわすな」

唐突に話し出す、義久に呟くように応える義久。

「しかし、今は時期が悪かろう、伊東の動きが怪しすぎるでごわす」

「裏で、大友が動いておるのではないですかね」

義弘と家久が懸念を呟く。

「大友とは、仲良くしておるが、」

「いや、二枚舌でしょうな」

「なっ、」

「そうでごわそうな」

義久の言葉を遮り、歳久と義弘が否定の言葉を放つ。

「九州を纏めに、動いていると言うことですかね」

「家久の言葉が、的を得ておるでごわそう」

「しかし、急ぎ過ぎておられる、相当焦っておるようですね」

「それは、本土の動きに焦りを覚えておるのであろうな」

「なれば、如何にする」

義久が三人を見ながら、意見を求める。

「来るなら、迎え撃つのみにごわそう」

「義弘は、無策か、、、次」

落胆して頭を落とし、こめかみを押さえる義久。

「先手必勝、相手に痛打を与えてから、引き上げ、領地に誘い込んで、討ちましょう」

「ほう、釣り野伏せりを使うか」

頭を上げて、思案しだす、義久。

「すぐには、動かぬ相手を左様に早く突かなくても良いと考えまする」

「んっ、歳久は何やら、腹案があるようじゃな」

期待を込めた目で、歳久を見る義久。

「腹案とは、言えぬ様な考えで御座いますが、この薩摩の地に、面白い物を堺から、届けに来た者がおります」

「面白いものとな」

「はい、その者が持ってきた物は、さつまいもと呼ばれる作物で、大変美味で、実が多く実りまする。痩せこけた土地でも身をつけるとの事で」

「おい、歳久、今はそのような事を聞きたい訳では、」

「だまって聞かぬか、義弘!」

「すまぬでごわす、続けてくれでごわす」

「その作物は確かに、この薩摩の地でも、実を付けました」

「それは是が非でも手に入れなければならぬな、して届けに来た者とは、誰じゃ」

体を乗り出して、歳久に話しかける義久。

「堺の商人で、今井宗久と申す者」

「なるほど、見返りは鉄砲か」

困った顔をして、呟く義久。

「いえ、島津の鉄砲などいらぬと」

「なっ、馬鹿な!島津の鉄砲は改良に改良を重ねて、今では30間は飛ぶ日の本一の性能を誇っておるのだぞ!」

「そうですよ、喉から手が出るほどに欲しはずです」

「そう言って、我らが根負けするのを狙っておるのでごわすな」

冷静な顔をして、淡々と話す歳久に対して、三人が赤い顔をして叫ぶ。

「そうではありません、我らが扱う火縄よりも良い物を持っておったのですよ」

「「「なっ!」」」

「この目で見なければ、私も信じる事など出来なかったでしょうな」

驚く三人に、首を左右に振りながら、話す歳久。

「見返りとはなんなのだ」

「安土に来いと」

「なにぃ!織田に下れと言ってきたのでごわすか!」

「性急ですな、義弘兄者は・・・織田の力を見に来いと言っておるのでしょうね」

「織田の力だと、」

「家久の言が、的を得ておると思いますな」

目を瞑り、考え込む義久に注目が集まる。

「誰を行かせれば良いと思う、歳久」

「私が、と言いたい所ではありますが、このような時にこの場を離れられませぬ。なので家久が良いかと」

目を見開き、歳久を見る義久に対して話した後、家久を見る歳久。

「行ってくれるか、家久」

「はっ、この目で織田を見極めて参ります」

こうして島津家久は、今井宗久と共に、安土に向かうのであった。


お市率いる奥州征伐軍は相馬を下し、兵を小田原まで進めると、兵を解散させ、北条の本拠地である小田原城にて、氏康と話した後、氏康の願いによりの親族との顔合わせが、大広間にて行われていた。

「氏康ぅ、上座は勘弁してもらいたいわ」

「良いのですか、きっと三郎が横でモジモジ致しますぞ」

「うん、上座でいいわ、うん納得」

「っ!(父上はどっちの味方なのだぁ!)

ニコニコする市に対して、下座に座っていた三郎が、氏康を睨み付ける。

そんなこんなで、氏康が息子娘達を市に紹介し、氏康の他愛も無い話で時間が過ぎる。

「名残惜しくはありますが、お市様も疲れておりましょう、今日の所はおひら、」

「父上、お市様に一言よろしいでしょうか」

上座に一番近くに座っていた男が、氏康に声をかける。

「なんじゃ氏政、お市様は疲れておる様だ、後にせよ」

「っ、、、」

父上が無駄話などするから、話せなかったのでしょうがっ!と言いたい、氏政だったが言えず、下を向く。

「いいわよ、氏政だったかしら、何か言いたいことでもあるの」

「お市様、気になさらず、お休みくっ」

「うっさい、氏康!わが子が、言いたいことがあるって言ってんだから、言わせてあげなさい!頭ごなしに押し付けてどうすんの!碌な子に育たないわよ!」

「っ!もっ申し訳御座いませぬ、、、」

体を震わせて、下を向く氏康を見て、お前、本当に関東の獅子なのかよっと思う市。

「よし、黙らせたから、気楽に話しなさい氏政」

「はっ、直言のお許しありっ」

「氏政!もっと気楽に話しなさい」

「っ、、、っ!」

微笑みながら、話す市に一瞬呆ける氏政の足を抓る女。

「氏政、奥さんが隣にいるのに、そんな顔したら駄目よ」

「もっ申し訳御座いません」

「あたしじゃなくて、隣にいる奥さんの梅殿にでしょ」

「はい」

「話が進まないわね、話ってなによ」

呆れたように話す市に、氏政が真剣な目で市を見つめると口を開く。

「お市様が、妻梅を北条に戻すようにして頂いたと、聞き及びました」

「ああっ、それね」

「乱世の習いとは申せ、もう会うことすらかなわぬと思っていた梅と、もう一度夫婦になれるとは、お市様にはなんと、感謝の言葉を伝えればよいのか」

「有難う御座います」

氏政と梅は、涙ぐみながら、市に感謝する。

「戦略結婚とかで、無理やりに夫婦でいるものなら、手は回さなかったんだけどね。ある人がね、梅殿の心境を察して、どうにかしてあげて欲しいと、あたしに託したんだよね。だから、あたしは感謝されるいわれは無いのよ」

頬を指でかきながら、気まずそうに話す市。

「えっ、そのお方とは」

「まっまさか」

驚いた顔をして問いかける氏政と何かに気づき、悲しげな顔をする梅。

「そう、あなたの兄上である、義信殿よ」

「なんとっ」

「あにうえぇ、、、」

「良い兄上を持ったわね、誇りに思いなさい梅」

「はいっ」

涙を流しながら、市に笑顔を見せる梅。

「そう言えば、義信殿の正妻も梅だったわね、色々と彼なりに重ねて見ていたのでしょうね」

「義理とは申せ、義信兄上の愛された方ですから、姉上様とは仲良くさせて頂いております」

「そう、甲斐に居る梅殿のお子は、お元気なのかしら」

「はい、元気な男の子と聞いております、甲斐の学び舎にて、主席だったそうで、来年から、安土の学問所に行かれるとか」

「へぇ、中々の子のようね、楽しみだわ。貴方達も子をバンバン作って、安土に来れるように養育しなさいよ」

「まっまだ、気がはようございます」

真っ赤な顔をして、言葉に困る梅を見て、微笑む市と氏康達であった。



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