表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達から見た天下  作者: 女々しい男
70/76

市と通

安土の城に戻った信長は、天守閣にて、安土城下を見下ろしながら呟く。

「市め、なんという子に育てたのだ、あれでは・・・嫁の貰い手などおらぬぞ、、、」

「上様、そのお言葉は、あぶのうございます」

「最早、この日の本に、お市様の耳に入らぬように出来る場所など、御座いませぬ」

「そうじゃった!」

近くに居た、菊と十兵衛が共に苦言を呈すると、信長は慌てたように、周りをキョロキョロと忙しなく見る。

「しかしな、十兵衛・・・あれは幼かった頃の市じゃ!瓜二つじゃ!」

「それほどで御座いますか」

「冷酷、冷静、冷徹さは市以上の物を感じた、あれは心を開いた者や、好きな者以外には冷淡になるぞ」

「「なっ、、、」」

「一番、厄介なのは、市以外を考えておらぬことじゃ」

両手を前で組んで、目を閉じる信長。

「如何されますか、上様」

「ふむ、良し、市の二の舞にはならぬように、許婚を用意しよう!」

「なっ!そっそれはあぶのう御座います!お考え直しを!」

「勝手に動けば、お市様になんと言われるか!上様!あぶのう御座います!」

「いや、市は気にせぬであろう、あやつ自身は婚姻するのが嫌なようじゃが、他の者に対して、自分の考えを押し付けたりはするまい」

「左様で御座いましょうか、、、」

(上様の悪い癖が、不味いぞ)

(いやいや、あれだけ可愛がっている通様の許婚など、勝手に決められたと知れば・・・あかん)

「そうと決まれば、早いうちに許婚の選別をするぞ!十兵衛、菊、忙しくなるぞ!はっはっはっ」

「「畏まりました、、、(良いのか、本当に)」」

満面の笑みで話す信長に、何故か恐怖を感じる十兵衛と菊であった。


南部家での内乱を利用し、南部家を討つ口実を得た市は、素早く兵を北上させ、平定させたその日の夜。

梵天丸を抱きしめて眠る市は、人の気配で目を覚ます。

「・・・んっ誰かしら」

梵天丸が、起きないようにしながら、起き上がる市。

「夜分遅く、申し訳御座いませぬ」

部屋の隅で、片膝を着き、頭を下げる黒装束の男が、市に声を掛ける。

「その声は、五右衛門ね、どうしたのこんな夜更けに」

「・・・」

「あらっ、なんかしちゃったのかしら、例えば、兄様に刃を向けようとした、、、とか」

「!っ」

市の言葉で、部屋の空気が、一段寒く感じる五右衛門。

「兄様を殺りたくなったら、先にあたしを殺しに来なさい・・・五右衛門」

「もっ申し訳ありません、、、」

「あたしの事を思って、動いたのでしょうけど、逆よ」

「えっ、、、」

「兄様が居なくなれば、あたしも消えるわ」

「!っ」

「通はそれが分かってる・・・でも、それでもあたしに天下を取らせたいのね、困った子だわ」


俺は、あの日の事を思い出す。

奥州征伐を決め、越後に向かう際、岐阜の城で、通と会話した時の事を

「母上様、行かれるのですか」

「ええっ、時期が来たわ」

「私もお供を、」

「駄目よ、通、貴方には役目を与えたでしょ」

「しかし、」

「聞き分けて頂戴、私の様に貴方は汚れてはならぬのです、次世代を担う者は、このような手の汚し方をしてはなりません」

「そんな、、、」

市の厳しい口調に、下唇を噛み、泣きそうになる通。

「今回の戦は、三河での仕置きとは、比にならないわ」

「っ!」

「武家の者と言うだけで、罪を犯してもいない女子供を殺さねばならない、歴史上に大きく残るほどの残忍な仕置きをするのよ、だから連れて行けない」

「過去の権力者達が積み上げた負の連鎖を断ち切り、無に返す為に汚れる事を、何故、母上様がせねばならぬのですか!」

顔を歪め、泣きそうな通は、市に悲痛な声を上げる。

「それは、あたしが欲している世を現実にする為よ、あたしが欲しているのだから、あたしが汚れるのは仕方ないでしょ」

悲しげな顔を浮かべる市。

「しかし母上様が、このように動いても、伯父上様は、、、いや信長は、母上様に何も与えては、」

「通!兄様の事を、その様に言うでない、私は、褒美など欲しい訳では無い・・・ただ、民の末永く続く笑顔が見たいだけなのよ」

「はっ母上様は、、、こんなにお優しいのに、、、なっ、、、何で、、、」

「通、あなたも優し過ぎるわね」

市は泣きじゃくる通を手繰り寄せ、抱きしめると静かに頭を撫でるのであった。


「おっ・・・おい・・・おいちさま、お市様聞いておられますか」

「あっ熊、ごめん、聞いてなかった」

梵天丸を抱いていた為、体を揺らしながら報告を聞いていた市は、熊の言葉を聞き流していた。

「しっかりしてくださいませ、奥州の主だった大名は、全て織田に屈しました故、これより南下し、相馬を下し、佐竹、里見を」

「ああっ、佐竹と里見は、大丈夫でしょ」

「へっ、」

熊が、口を開けて呆ける。

「北条がもう潰してると思うわ」

「いやいや、流石にそれは、」

「鉄甲船回してるから、終わってるでしょ」

「へっ、」

口を開けて、呆けていた熊が、弱弱しく声を出す。

「雉麻呂に頼んどいたから、動かしてるはずよ」

「なんと、」

「まっとりあえず、相馬でも消しに行きますか。まっ戦らしい戦にもならないでしょうけどね」

「ですな」

市と熊は微笑みながら、その場を去るのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ