表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達から見た天下  作者: 女々しい男
65/76

氷解

「姫様、葛西、大崎領に居た反織田派の仕置き、終わりまして御座います」

葛西の城であった寺池城を攻め落とし、休んでいた市に報告する熊。

「そう、戸沢に攻め入った、犬も早々に片を付けたみたいだし、どうやら安東も、織田に下るような行動を取ってるみたいだから、遅くない時期に、頭下げに来るんでしょうね」

山と詰まれた書類に目を通しながら、熊の質問に答える市。

「南部領での、怪しげな動きが気になりますが」

「あそこは割れるでしょうね」

「ならば、動くので御座るか」

「そうね、動くつもりだったけど、割れるならば、割れるまで静観するわ」

「ならば、矛先は伊達で御座るか」

「そうなるわね、すぐに侵攻出来るように、手配しなさい」

「しっしかし、百地殿らの報告を聞く限りでは、実権は当主である輝宗には、無いようですし、最上殿がどう思われ、、、」

「んっ?民の為にならぬ者を、残すつもりはないわ」

「しかっ、、、いや、作用で御座るか、、、」

「奥州は中央から遠いわ、どうしても目が届きにくい場所、ならば禍根は取り除く、その恨みはあたしが請け負うわ」

「姫、、、」

冷たい目をしながら、熊を睨む市に対して、悲しげな目を市に向ける熊。

その後、熊は市の元から離れ、別室に入ると、そこで待機していた男に声を掛けられる。

「熊田殿、姫様の様子は・・・駄目で御座いますか」

「すまぬ、山県殿」

「お市様が、今のご様子では、この者等を会わせると、不味い事になるやもしれんからな」

熊と会話をする山県の後ろで、緊張した面持ちで座る三人の男。

(スゥー)

「お三方、もう暫く、お待ちくださっ、、、なっ姫!」

「なっ、、、!」

「そんなことだろうと思ったわ」

静かに襖が開き、そこから市が顔を覗かせる。

その姿を見た熊と山県は驚き、腰を浮かす。

「熊、昌景、気を使わせたみたいね」

「いえっ、勝手な行動を致しました、もうしわ」

「いいわ、気にしないで、あたしの態度や言葉を、見て聞けば、そのような行動を起こすわよね、、、熊はやさしいから」

「、、、」

「!っ」

市の言葉を聞き、顔色が真っ青に成りながら、体を震わせる熊。

それを見た、昌景が、恐れと共に言葉を無くす。

「昌景も熊に似てるのね、敗れた将の面倒まで見ようと言うのだから」

「!っ、、、」

思わず、市に向かい、平伏すると自然に体が、震え始め、言葉が出せなくなる昌景。

「柿崎景家、斎藤朝信・・・そして黒川晴氏か」

「「「はっ」」」

市の呼びかけに、平伏して、返答を返す三人。

「何?今更、織田に下るつもり?命が惜しくなった?」

「「「・・・」」」

「それなら、価値は無いのだけれど、、、でもその目、違うようね」

三人の目を見て、話しかける市。

「織田には、下りませぬ」

「我らの罪、一生を掛け、償う所存」

「その為に、我らの命、お市様にお預け致す」

市の顔を見据えて、力強く話す三人。

「罪ね、今までの行いを罪と言うの?」

「「「はい」」」

「そう、今まで貴方たちが、行った行為を間違いであったと、認めると言うのね?」

「「「・・・はい」」」

「それは、死よりも、辛い決断を下したという事ね」

「「「・・・」」」

「その目、良い目をしてるわ、己の事を考えない、他を思いやる心を感じる」

「「「・・・」」」

市を前にしても、恐れず、力強い目で見つめる三人

「熊、彼らに良き死に場所を、用意してあげられるかしら」

「はっ、良き死に場所を用意致します」

熊もまた、市を優しく見つめると優しい声で話しかける。

「そう、好きになさい」

熊達を背にし、部屋に戻りながら、市は呟く様に声を出す。

こうして、三人は市近衛衆の一員となった。


数日後、伊達輝宗が市の下の訪れ、降伏する際、輝宗が連れてきた、生まれたばかりの赤子であった梵天丸が、市の子となる。

それにより、危うげだった市の行動に、変化が現れる。

「姫!梵天丸様は置いていかれませ!あぶのう御座る!同行させてある近衛女人衆に、お預けした方が良いかと」

「熊、あたしもそう思うんだけど、離れたら泣き叫ぶのよ、、、この子」

「なんとっ」

「それにさ、乳母付けようと思って、任せたら乳首噛み千切ろうとするし、、、」

「では、梵天丸様は乳を飲んでおらぬのですか!」

「それがね、試しにあたしの乳咥えさせたら、乳が出て飲んでるのよね、、、」

「なんとっ、摩訶不思議な」

「でしょ、あたしも驚いてるんだけど」

そんな困り果てた市を見つめると、熊は安心したような顔を浮かべる。

「何よ、熊!そんな顔して」

「いや、昔の顔に戻られたと、安堵致したで御座る」

「そんなに変な顔だったかしら?」

「はい、厳しい表情や、切羽詰まった顔をされていたで御座る」

「そうね、そうかもしれないわ、この子のお陰で、なんだか憑き物が取れた気がするのよね」

市に抱かれて、スヤスヤと眠る梵天丸を眺めながら、微笑む市。

「今、浮かべてある姫の顔が我ら、好きで御座る」

「なっなに言って、、、」

「「「「「「御意」」」」」」

熊の言葉に、顔を赤くする市に対して、後ろで成り行きを見守っていた獣達が、熊の言葉に同意する。

「いっいつの間に、あっあんたたち、もう知らない」

恥ずかしさで、真っ赤になった市を、優しく微笑みながら、見つめる獣達であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ