小野寺の仕置き
市の命を受け、先に小野寺領に侵攻し、抵抗を受けた武田軍は、抵抗した小野寺軍を容赦無く殲滅し、居城である横田城に向かっていた。
「お館様、小野寺は最上領に侵攻しようと、考えておった様ですな」
信玄の傍に近づき、進言する信春。
「その様だな、このような国境付近にて、纏まった軍が居たのだからな」
信玄は苦しげな表情をすると、信春に答える。
「しかし、我らの軍を見て、いきなり攻撃を仕掛けてくるとは、諜報関連は弱そうですな」
「そうじゃな、出来れば、お市様の勘気が、強くならぬようにと思い、先陣を受けたが、この事が知れれば、お市様がどうなさるか」
「不味いですな」
「不味いのう」
二人が顔を見合わせながら、苦痛の表情を浮かべる。
「何故、お市様は、あのように民を重視されるのでしょうか」
信玄と信春の会話に、割り込むように昌景が、話しかける。
「確かに、奥州の武士は、民に対して悪辣な行為が多いが、お市様の仕置きは、苛烈過ぎるとも言える」
「武士を憎んでおるかのような仕置きだな」
追従するかのように、昌豊と虎綱が、思っていた事を話し出す。
「お主達!その様な事、今後一切口に出すな!お市様のお耳に届いたら、なんとする!お主達の首だけで済むと思っておるのか!」
信春が、慌てて口を開く。
「「「!っ申し訳ございませぬ」」」
三人は、慌てて謝罪する。
「わしに謝っても、詮無き事じゃ!もう口を開くな!」
「もう良い、昌景等の考えも分からぬでは無い」
「!っお館様」
「お市様が何故、あんなに民を大事になさるのか。わしにも分からぬ、じゃが、聞いた事はあるのじゃ、その時に、お市様は一言(あたしにも、若い時に、味わった忘れる事が出来ないほどの、辛い思い出位あるのよ)と、仰っていた、その時に見せたお顔は、見ている方も悲しくなる様な、お顔をされていたのだ」
「「「「・・・・・・」」」」
「あの方は、その時に誓ったのであろうな・・・民を、人の笑顔を守りたいと」
「確かに、お市様は民の笑顔が、好きであるようですな」
「笑顔で、田畑を耕す民や商いに、せいを出す者達を見ておられると、笑顔になっておられる」
「それを妨げる者は、容赦はしないという事か」
「そう考えれば、お市様の仕置きは、納得がいく」
「しかし、このような仕置きが、頻繁に行われれば、お市様の悪名がたつ恐れがありますぞ」
「それすら構わぬと言う事であろうな、あの方は悪名等、気にもしておらぬはずじゃ」
思い思いに、言葉を交わす五人。
「信玄様」
「んっ、半蔵か、如何した」
いきなり現れた半蔵に、何食わぬ顔で、話しかける信玄と、先ほどの会話を聞かれたと考え、顔色を青くする四人。
「小野寺が織田に降伏するとの事。我が、お市様の判断を仰ぐ迄、戦は控えて頂きたい」
「あい分かった」
半蔵の伝令を聞き入れ、信玄は、横田城に攻めかかろうとしていた兵を、入城させるのであった。
半蔵の報告を聞くと、市は僅かな供回りだけで、先行して横田城に入る。
横田城の大広間にて、小野寺景道と対面する市。
「織田に降伏するんですってね」
「はっ、小野寺は織田に降伏致します」
「ふぅ~ん、でも、武田とは小競り合いしたらしいけど?」
「あれは、最上領に侵攻しようと準備していた兵で、」
「武田は、織田の臣下なのよ・・・あんた織田を舐めてるの」
「さっさようなことはぁ、、、」
思わず、下げていた頭を上げてしまい、市の目を見てしまった景道は、言葉を繋げなくなる。
「まっ、国境を越えて、自国の領土に、他国の兵が入れば、抵抗もするでしょうけどね、手を出す前に、使者位はたてるものよね」
「!、、、」
「頭の毛を剃り落としても、意味無いわよ?でっどうするの?」
「わっ我が首にて、降伏を許して頂きたい」
懐刀を取り出すと、自らの前に差し出し、深く頭を下げて頼み込む景道。
「あんたの首は要らないわ、元凶に腹を斬らせなさい」
「なっ!」
「光道って言ったかしら?あんたの息子、小野寺の現当主なんでしょ?」
「そっそれが、、、」
「んっ?なに?どうしたの?居ないんでしょ、光道」
「!っ」
「あんたが逃がしたんでしょ?我が子は可愛い者ですもんね」
「なっなぜ、」
「織田の諜報を舐めるな景道」
「・・・・・・」
「根切りがいいか?自らで首を取ってくるか?選ばせてあげる」
「そっそんな、」
「でもね、詰めが甘いわね。逃がすなら、妻子も一緒に逃がさなきゃ」
「まさか、」
市は視線を横に向けると、市の視線の先に、幼い子を抱いた女が連れてこられる。
「ええっ、貴方が考えてる事をするつもりよ」
優しく微笑みながら、呟く市。
「お許しを!」
「許さないわ」
「小野寺は降伏したのですぞ!何故このような仕打ちをされねば、ならぬのだ!」
前に出した懐刀を掴むと、光道の妻子の前に立ち、市を睨みつける。
「あんた達、本当に身内には甘いのね。その感情を、何故、民に向けてやれなかった!奥州武士は力こそ全てなんでしょ?だから、それをやられる者達の気持ちを、私が教えてあげるわ・・・」
「なにっ、民だと」
「あんた達が、家畜か何かと思ってきた民の事よ、彼等もね、家族があり、感情があるのよ?わからないのでしょうけどね」
「そんな者達と、わし等を同じに考えるお主の考えなど、分かる訳が無かろうが!」
「じゃ、死ね」
「なっ、、、」
市の言葉と共に、景道と光道の妻子の首が、市の忍び達に、斬り落とされる。
その光景を目の当たりにした小野寺の家臣達は、刀に手をかける。
「文句のある者は、かかってきなさい。相手になってあげるわ」
そんな小野寺の家臣達を冷たい目で見つめながら、呟く市。
市の周りには、素早く現れた市近衛衆が、槍や刀を手に持ち、構えていた。
その姿を見て、自分達が置かれている状況を認識させられた者達は、肩を落とし、頭を下げるのであった。
「あんた達が、生き残る為には、小野寺光道の首と、今後、民に対して悪辣な事をしない事しかない、わかったわね」
「「「「、、、はっ」」」」
その後、お市の手により、小野寺の一族郎党全て、根切りされる。
この出来事は、奥州に更なる波紋を広げるのであった。
「じゃ、あたし達は、葛西と大崎を攻めるから、犬は、織田の兵1万と、最上、小野寺の兵を使って、戸沢に逃げ込んだ光道を始末してきなさい。そのまま安東に攻め込んで良いから、分かってるとは思うけど、鬼になれないなら、任せれないけど」
「いえ、姫のお気持ちは分かっておりまする、この犬にお任せあれ」
「いってらっしゃい(ごめんね、、、犬)」
犬は、市の命に対して了承すると、すぐに、兵を纏め、戸沢領に向けて、出立するのであった。




