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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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覚悟の離別

命からがら、新発田城に逃げ込んだ国清と数名の騎馬武者は、城主である新発田長敦との面会を行っていた。

「これはこれは、国清様がこのような田舎城に来られるとは、如何なされた」

長敦は怪訝な顔をして、国清に問い掛ける。

問いかけられた国清は、これまでに起こった経緯を長敦に伝える。

「ほう、お味方大敗されたと・・・」

長敦は冷めた声で国清に語りかける。

「そうだ、儂は景持の進言通り、奥州各大名や佐竹、里見と連携を取り、反攻に移ろうと思っておる」

顔を赤くして、興奮冷めやらぬ国清を、冷めた目で見つめる長敦。

「戦に勝ち負けはつきものにて、まずは落ち着きなされ、部屋を用意しております。今はごゆるりとなされませ・・・」

「そうじゃな、確かに疲れた。しばし、休む」

国清は長敦の言葉に従い、部屋を後にする。

国清が部屋を出ると長敦はおもむろに口を開き、隣にいた男に声をかける。

「このような無様な負け戦とは・・・重家、お主の言うた通り、あの男には謙信公の跡を継ぐ器では、なかったのやも知れぬな」

「先ほどの国清の言い分では、挽回の余地があるような物言いでしたが、私はそうは思えませぬ」

兄長敦の言葉に首を振りながら、答える重家。

「そうよな、景持殿、景家殿、朝信殿等を含めて、ほとんどの上杉の将が国清に味方し、共に軍を動かしてこのざまでは・・・」

「それほどに武田、いや・・・織田の力、侮れないと言う事で御座いましょう」

「織田か、もう動いておろうな」

顔を歪めて、話す長敦。

「間違いなく、動いておりましょう。私の感では、あの女宰相が直接動いたやもしれませぬ」

「なにっ!」

重家の顔を睨みつける長敦。

「今の織田は、女宰相の意で動きます。近年での行動、仕置を見れば、あの女子・・・狂気を少し帯び始めておりますれば、越後に血の雨が降るやもしれませぬ」

青い顔をして、下を向く重家。

「不味いな、重家・・・織田を相手に勝ち目は有ると思うか」

不安げに重家に語りかける長敦。

「謙信公亡き今、この越後で、いや・・・日の本で織田に勝てる者などおりますまい。他の大名の合力を得たとしても、勝てぬ。なれば、我らが取るべき道は一つ」

「しかし、お主が思うような行為、亡き謙信公に顔向け出来ぬな」

重家の答えに、悲しげな顔をして、呟く様に声を出す長敦。

「そうですな、謙信ならば怒りに身を任せましょうな。その謙信も、もう居ない。あの子供のような無邪気な心を持った、義という物に取り付かれてしまった男は、全ての民を思う魔王に・・・敗れたという事でございましょう」

「・・・・・・」

「如何なされますか、兄上」

真剣な顔を崩さず、語りかける重家。

「我らも変わらねばならぬのか」

「時勢に御座いますれば、詮無き事」

「お主は適応出来るのだな、時勢に・・・ならば、儂が幕を引こう」

「兄上!何を考えておるのだ!ならぬ、言い出したのは私だ!私が責を負う!」

少し微笑みながら、重家を見つめる長敦に、重家は嫌な予感を感じ叫ぶ。

「儂には、時勢の流れに対応出来そうにない。お主は生きよ、儂の代わりに、この乱世の行く先を見届けよ。全ては儂の一存にて行う。謙信公には会って、詫びを入れておく」

「・・・兄上」

長敦の顔を見れず、下を向き、項垂れる重家。

「早急に動かねば、隣国の者共が動き出す。そうなれば、残された上杉は消えるやも知れぬ」

「兄上の行為、無には致しませぬ」

長敦に向かって、深々と頭を下げる重家。

長敦は重家の姿を優しく見つめながら、立ち上がると背を向けて呟く。

「女宰相が越後入りする前に、全てを終わらせねばな」

長敦はその場を離れると、国清の休んでいる部屋に赴くと、国清の首を取る。

直様、春日山に国清の首を持って、一人で現れ、降伏する。

降伏を受け入れた政景の前で、影腹を切っていた長敦は、政景等の見守る中で、静かに目を閉じ、微笑みながら、この世を去ったのであった。


越後に到着した犬達は内乱が収まっている事に、驚きを隠せなかった。

「くっ我らも急いだのだが、武田と上杉の力で収められたか」

「でも良かったんじゃないか?織田の手が入っていない内に収まったんだ。もし、織田の力を使っていれば、姫さんが動く」

愚痴を溢す犬に、一人の男が声を掛ける。

「慶次!姫が動いて何が悪い!」

犬は慶次の言葉に噛み付く。

「叔父御も分かってるんだろ・・・今の姫さんは危うい」

「くっ・・・」

慶次に指摘されて、苦しげな表情をする犬。

「今回の一件では、政景に任せざる負えないから、姫さんは仕置を行わなくてすむ。これは良き事だと思わないかい」

「確かにな、しかしだ。お主に言われると、何故か納得したくないのだ!」

慶次の言葉に対して、赤い顔をして叫ぶ犬。

「どうせ、奥州にそのまま行くんだろ?そこで暴れたらいいさ」

慶次は犬に向かって、手をひらひらさせながら、その場から離れていった。

「奥州か・・・」

犬は奥州の方角を見つめながら、市が行うであろう戦に、不安を拭う事が出来ないでいた。


その頃、信玄は反政景派の城を、次々と攻め落としながら、北上していた。

「歯応えの無い城ばかりじゃな」

「どうやら、春日山攻めに兵を出して、この辺の城兵は少なくなっておるからのう」

「戦功第一は昌景か」

「いや、山浦国清は逃がしてしまったようじゃからな。国清の首を取れば・・・」

各将が信玄の前で、思い思いの事を言っておる時に、伝令が走り込んでくる。

「お館様、春日山城に新発田長敦が一人で現れ、山浦国清の首を持参し、降伏した由」

「そうか、時勢の流れが分かる者が居ったか、それで長敦殿の処分どのようになった」

「新発田長敦は影腹を召してからの登城をされていたようで、降伏を認められたと同時に、息を引き取ったとの事」

「・・・そうか」

使者の答えを聞いて、呟くと静かに目を瞑る信玄。

信玄の心の中に悲しげな風が、吹き抜けた気がしたのであった。

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