表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達から見た天下  作者: 女々しい男
49/76

それぞれの意地

昌景率いる赤備えに陣地内を蹂躙され、混乱に拍車がかかる。

「敵は武田の赤備えとは言え、少数じゃ!落ち着き対処せよ!」

国清が赤い騎馬武者を睨みながら、叫ぶ。

「無理じゃ、馬から降りず、速度も落とさず、槍を振り回されれば、手の出し様が無いわ!」

国清の叫びを近くで聞いていた甘粕景持が、顔を歪めて叫ぶ。

「遠距離から攻撃をしようとすれば、用意する前に、弓矢にて崩される!死角が無い・・・」

本庄実乃が追従するように呟く。

そんな時、本陣に凄まじい速度で迫る騎馬武者数騎が。国清の目に飛び込む。

「ああっ・・・あれは、山県!」

国清は後ろに後ずさりながら、声を漏らす。

「止めよ!山県が来る!」

景持が悲鳴のような声で叫ぶと、素早くその横を実乃が、馬を駆けさせ、山県に向かって行く。

「今のうちに兵を退き、体制を立て直せ!」

実乃が去り際に叫び、指示を出して、昌景の前に立ちはだかる。

「んっ?本庄実乃か・・・」

昌景が実乃を前にして呟くと、昌景に追従していた男が馬を前に出して、話し出す。

「実乃か、妙な処で会うな。このような混戦した戦場で、その智謀は役に立つのかな?」

「くっ大熊朝秀・・・」

「昌景様、ここは我にお任せを!先を急ぎなされ!」

朝秀が実乃に対峙しながら、話す。

「本庄殿!我も助太刀致す!赤備え等、打ち破ってくれよう!」

「おおっ!勝長殿、山県を頼む!」

実乃も朝秀に対峙しながら、助太刀に来た色部勝長に声をかける。

「色部か・・・そう何度も赤備えを敗れると思うな!」

昌景は素早く馬を駆けさせると、渾身の力を込めて、馬上から横薙ぎに、槍を勝長に向かって振り抜く。

「ふっ、あまっ・・・」

昌景の槍に反応して、持っていた槍で受け止めた勝長の体が、槍ごと真っ二つに切り裂かれる。

「甘いのはどちらかな」

昌景は呟くと絶命した勝長を打ち捨てて、その場を後にする。

それを目の当たりにした実乃は、朝秀から意識を背けてしまう。

「・・・!」

「戦場ではその様な行為、死に直結しますぞ・・・実乃殿」

実乃の首に、朝秀の手にした槍が突き刺さっていた。


春日山城では、大きく開いた国清派との兵力差に対抗せずに、籠城する事にした政景の元に、一人の忍びが現れる。

「政景様、久しぶりで御座いますな」

「なっ・・・段蔵か!まさか国清派に付いて、儂の命、奪いに来たか」

驚きと共に、瞬時に項垂れる政景。

「ふっ、我はお市様を生涯の主君として仕えておる・・・ようなことはせぬ」

心底嫌そうな顔をして、政景の言葉を否定する鳶。

「何!お主が、定満殿以外の者を主君と仰いだのか!」

「我自身も信じられんがな、このようになるとは・・・しかし、儂は姫様に惚れ込んだ。この命、姫様の物にて」

綺麗な瞳をして話す鳶に、政景は嘘偽りが無いと悟る。

「そうか・・・良かったな段蔵、それでお主が此処に来たという事は・・・」

「お市様は幼き使者に心動かされた。越後に援軍を送ると、それまで耐えよと言われた」

「卯松達は・・・使命を全う出来たのか」

政景は目に涙を浮かべながら、呟く。

「そう言えば、ここに来る前に、赤で統一された軍を、山浦の陣近くで見かけた。今頃は突入しておるかも知れぬぞ」

淡々とした口調で話す鳶。

「なっ!赤に統一された軍とな・・・武田の赤備えではないのか!」

慌てながら、早口で話す政景。

「そうだろうな、信玄の読みと用兵は、衰えてはおらぬのだろう」

「しかし、山浦の兵は万を超えておる!赤備えといえど、赤備えだけでは、兵力差に飲まれよう!危険じゃ!」

顔を青くして、叫ぶ政景。

「ならば、助太刀致せ。働かぬ者を一番嫌うお方故、儂の主は・・・」

「こうしては居れぬ!兵を集めよ!赤備えを救援する!急げ」

近くにいた近習に叫ぶ政景。

「なんともせっかちな者が多いのじゃ、こんなに短期間で動き出すとは・・・この分ではお市様が、越後に参られるのも遅くはないのだろうな」

政景は一人事を呟きながら、その場を後にするのであった。


勝長を切り伏せた昌景は、本陣に向かって馬を駆けさせ、国清を目に捉える。

「ふふふっ、まだこのような場所に居ったか。肝が座っておるのか・・・馬鹿なのか。まぁ良い儂には好都合じゃ!国清!その首貰い受ける!」

昌景が国清に対して、槍を突き出す。

「させぬ!」

「ここまでじゃ!」

一人の男が昌景の槍を弾き、残った男が槍を昌景に突き出す。

「くっ!柿崎景家か!」

昌景の槍を弾いた男を睨みながら叫ぶ。

「危ないのう・・・昌景、先行しすぎぞ!斎藤朝信の槍でやられておったぞ!」

昌景に向かっていた槍を弾いた男が、昌景に声をかける。

「秋山殿か、助かった!」

「我が槍、止められるとはな・・・流石は甲斐の牛と言ったところか」

「最早、この本陣は役に立たぬな、甘粕殿・・・国清様を連れて、ここを離れよ!兵を立て直せ!ここは儂らが抑える!急げ」

次々と現れ、山県の元に集まる赤備えの兵を見つめながら、景家は叫ぶ。

「逃すと思うてか!なっ!」

「行かせる訳がなかろう」

この場を離れようとする国清に対して、馬を向けようとするが、朝信に邪魔される昌景。

「お主も行かせぬぞ・・・秋山信友いや、甲斐の牛」

「そうであろうな」

二人に立ち塞がれて、足を止めた山県達に対して、落ち着きを取り戻した国清の兵達が、徐々に周りを取り囲んでいく。

「どうする、昌景・・・もう潮時だぞ」

「確かにな、だが土産は貰ってからにしよう・・・お主ら二人を手土産にしてくれるわ!」

周りを見ながら、昌景に呟く信友に対して、獰猛な笑みを浮かべながら、呟く昌景。

「ふっ、儂ら二人を土産にするつもりか・・・傲慢じゃのう!」

朝信が呟きながら、山県に槍を向ける。

「若さとは怖いものよな、牛もそう思うじゃろ」

「そうだな、しかし・・・儂もそう思っておるわ」

景家に問いかけられた信友が、笑みを浮かべて答える。

「流石は武田といったとこか・・・羨ましいのう」

悲しげな顔を浮かべた景家と朝信が、二人に対して槍を向ける。

「時間もそれほど残されてはおらぬ故、参る!」

昌景が呟くと、信友と共に馬を動かして、二人から距離を離すと一気にそれぞれの獲物に向かって駆ける。

四人が交差した場所には、、、真っ二つになった二本の槍が突き刺さっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ