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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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市、動く

越後から来た、幼き使者の要望に応えることにした市の命により、犬は岐阜城内にある狼煙台に向かい、たどり着くと持ち場の者に声をかける。

「赤い狼煙を上げよ!本数は同時に4本じゃ!急げ!」

「はっ!」

犬の指示を受けた男が返事を返すと、直ぐに4本の赤い狼煙が立ち上る。

犬は狼煙が上がるのを見届けると、犬は遠眼鏡を覗きながら、遥か先に備えてある狼煙台からも赤い狼煙が立ち上るのを確認する。

北、南、東、西を順番に見つめ、赤い狼煙が呼応して、立ち上るのを確認すると、直ぐに声を荒げる。

「藤林は居るか!」

「此処に・・・」

犬の前に素早く、姿を現す藤林。

「姫様が動く、加賀、能登、越中、飛騨、岐阜、尾張、伊勢の兵を迅速に動かさねばならぬ。狼煙が上がり、各方面の兵は準備し、集まるで有ろうが、詳しき詳細は分からぬであろう・・・伝令の任、頼めるか」

「御意」

藤林が承諾すると六名の忍びが現れる。

「この者らに指示をお願い致しまする」

「よし、加賀、能登、越中、飛騨に向かい、集めた兵を越中と越後の国境に集結させよと伝えろ。兵権は滝川一益を別働隊総大将として統括させると伝えろ。残りの尾張、伊勢の兵は岐阜に集れと伝えよ!急げ!」

「「「「「「はっ」」」」」」

六人は犬の指示を受けると直ぐに消える。

すると一人の男が慌てたように、犬の前に現れる。

「前田様、姫様が動かれるのですか!」

「才蔵か、そうじゃ!姫様が動く、忠次殿に伝え、供回り衆を全て集めよと伝えよ。姫様のお命は供回り衆が命に代えてもお守りせよ!良いな!」

「言われずとも、お市様のお命、守り通す所存!それに供回り衆千名!既に集まって御座います!」

誇らしげに胸を張り、答える才蔵。

「流石は才蔵よな、しかし・・・一人で突っ走って、姫の警護怠るなよ!」

「なっ!もうそのようなこと致しませぬ!」

犬はニヤリとした顔をしながら、焦る才蔵を見つめていた。


その頃、市は一人の男を呼び出していた。

「お市様、お呼びと聞き、軍事開発部将補本多正信、罷り越しました」

「あらっ、早かったわね。入りなさい」

正信を部屋に入れると茶を差し出しながら、話す市。

「まっ、急いで来たから、喉も渇いたでしょ?酒じゃないから、余り美味しくないかもだけど・・・」

「いえ、お市様の茶は私の好物で御座いますれば・・・」

そう言って差し出された茶を掴むと、一気に飲み干す。

「それで・・・使えそう?」

真剣な眼差しで、正信を見つめる市。

「お市様に制作せよと仰られていた五つの事柄、全て実践での投入が、可能かと思われます」

「そう、間に合ったみたいね・・・でも何か懸念があるようね」

正信の顔が不安気に見えた市は、問い掛ける。

「火縄銃の先に矛先を付けた(銃剣隊)は全ての鉄砲に装備させ、訓練もしておりますが・・・実践での効果は未知数で御座います」

「それは仕方ないわ、でも行き渡ったのなら、それで十分とも言える。開発部には苦労させたみたいだけど・・・」

苦笑いしながら話す市。

「大筒も車輪を付けて、移動可能となりました。2頭の馬にて、引く事で運用は可能です」

「そう・・・」

「しかし、馬上で鉄砲を扱う(鉄砲騎馬隊)の数が五百ほどしか出来ていませぬ。馬の耳を塞ぎ、音を余り聞かせないようにしたのですが・・・数がまだ足りませぬ。しかし鐙は全ての武者騎馬に取り付けまして御座います」

「十分よ、今から増やせばいいし、鐙だけでも間に合ってたら、それでいいわ。後は連弩戦車と鉄甲船・・・どうなってるの」

睨んだような顔で、正信を見つめる市。

「連弩戦車に関しては、運用が大変難しゅう御座いますが、台車に乗せた連弩を馬4頭で引く事で移動は楽になりました、馬に引かせた連弩は全体を鉄の板にて補強しておりますれば、盾の様にも扱えまする。お市様考案のシャベル、ツルハシという物にて、構成された工作隊の運用により、道や陣地構築も短縮されておりますれば、問題は無いかと・・・ただ」

正信の顔色が悪くなる。

「鉄甲船ね・・・どうせ、長くは海に浮かべて居られないのでしょ」

「よくお分かりで・・・開発に携わった軍事開発部一佐九鬼嘉隆殿が、どうしても改良出来ないと、悔やんでおりました。それに3隻しか制作出来ておりませぬ」

下を向き、力なく話す正信。

「いいのよ・・・今は3隻でも十分よ。鉄甲船は北条の援軍に、何時でも出せるようにしておきなさいと伝えといて」

「それは・・・里見を視野に入れておられるのですか」

正信の目が怪しく光る。

「あらっ謀将の血が疼いたのかしら?せっかくだから、貴方も越後に来る?」

「越後だけでは済みますまい・・・狙いは奥州ですかな」

「流石は正信ね・・・良い読みしてるわ」

「私を開発部に配置なされたのは、あの装備の運用方法を覚えさせる為ですか・・・」

「ええっ、運用方法が分からなければ、あの装備も十分に成果を出す事は出来ないでしょ?」

悪戯を成功させたような顔をして、正信を見る市。

「しかし・・・あのような武具を考案するとは、姫様は神仏の生まれ変わりでは無いのですか」

正信は真剣な眼差しで、市を見つめる。

「神仏なんておこがましいわ。間違えた使い方をしてるんだもの・・・悪鬼羅刹の所業が相応しいわ」

市は冷淡な顔をして、正信に話しかける。

「そのような事・・・」

「あるわ」

無いと言いたかった正信の言葉に、被せる様に話した市の顔を見て、正信は奥州の仕置が、壮絶なものになる予感を消す事が出来なかった。

こうして市は伊勢、尾張、岐阜の兵が集まると越後に向かって進軍を開始するのであった。

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