表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達から見た天下  作者: 女々しい男
45/76

闇の決着

和田惟政、京極高吉、一色義道、武田義統の四人は、市を連れて京を立ち、若狭の国に入ると細川藤孝に面会の申し出をする。

申し出を受けた、藤孝は後瀬山城で政務を行っていた為、四人を城に招いた。

「良くおいでになられましたな。京極殿、和田殿、お久し振りでございますな。しかし・・・一色様と武田様まで一緒にいらっしゃるとは・・・」

藤孝が不思議そうな顔をして、話しかける。

「藤孝殿・・・いや、藤孝様にお願いがあり、参りました」

皆を代表するように、高吉が藤孝に話しかける。

「様付けとは・・・」

困惑した顔をする藤孝の前で、四人は深々と頭を下げる。

「お市様の一件聞き及んでおりましょう・・・今が立たれる好機に御座います」

一人、頭を上げて藤孝に話し出す高吉。

「まさか・・・話したのか、儂の出生の秘密を!」

いきなり立ち上がると怒気を放つ藤孝。

「あの女子を連れて参れ・・・惟政」

「はっ・・・」

高吉に言われると惟政は素早く立ち上がり、一人の女を裸のまま連れてくる。

「なっ!おっお市様!」

その女を見た瞬間、藤孝は思わず、声を上げる。

「ふふふっ、驚いたでございましょう。この女子・・・最早、意識など御座いませぬ。惟政の術にて生きる屍にございますれば・・・」

高吉はいやらしい笑みを浮かべて、藤孝を見つめる。

「なぜ、儂に見せた・・・一蓮托生とでも言いたいのか」

肩を落としながら、座り込み、呟くように声を出す藤孝。

「流石は足利将軍と成られるお方ですな。言わずとも分かって頂けるとは、説明せずともよくて助かりまする」

高吉は話終わると、笑いを隠そうともせずに、藤孝を見つめる。

そんな高吉を睨みながら、藤孝は思案する。

今の織田家は確かにお市様有っての事、今はまだ表立ってはおらぬが、各地では叛意を起こす者が後を経たぬ状況だ。

心を殺されたとは言え、お市様の身柄がこちらにある事は確かに市様、恩顧の者達には効果があるじゃろう。

如何にする、織田は強大とは言え・・・高吉の申す通り、足利の世をもう一度起こせる好機でもある。

しかし・・・儂も・・・お市様の恩顧の武将じゃ!

あのようなお姿・・・見るに耐えぬ!

「・・・捕らえよ!この者らを捕らえよ!」

藤孝は近習の者達に命令する。

「なっ!なにを!」

高吉は声を荒げる。

五人の周りを取り囲む、藤孝の配下の者達に対して対峙する高吉達。

「しかし、早計ですな・・・このようにしたらどうなされる?」

そう言うと惟政は己の刀を素早く抜くと、虚ろな目をした市の首元に刃を当てる。

「なっ!皆動くなぁ!」

藤孝は市を人質に取られ、手が出せなくなる。

「ではもう一度お聞きしましょうか?我らの傀儡となれ、藤孝…様」

笑いながら話す惟政に悔しさで唇を噛み締め、血を流す藤孝。

「何をなさっておられるのですか?お師匠様・・・えっ、母上、、、さまぁ・・・」

そんな時、騒ぎの音を聞きつけて顔を出した通が、人質に取られている市を見つけ、驚きと共に声を出す。

「クッ、通様下がっておられよ!あぶのう御座います!」

藤孝は通に叫ぶように話す。

「・・・違う、母上じゃない」

驚いていた通は冷静な顔付きになると、呟くように声に出した。

「なっ!何を言っておる!小娘が!その様な事・・・なっ!」

惟政は慌てたように言葉を出していたが、市と思っていた女の顔を見ると、顔色が変わる。

「流石は、お通様・・・良く見破られましたな。私の術を見破った方はそんなにおられませんよ、ただお通様の母上様には見破られたので・・・親子とは似る者なのですね」

そう話し出すと、首元に突きつけられていた刃をかわして、四人から距離をとる女。

「お前は誰なのだ!」

惟政は冷静になれずに怒鳴る様に叫ぶ。

「答える義理は無いんだけど・・・まっいいわ、あんたが一人でお市様を思って、悶えてる姿とか見れたしね。特別に名乗ってあげるわ・・・望月千代女、武田の歩き巫女って言った方が分かりやすいかしら?」

そう言って微笑む千代女。

「なっ・・・私が、術にかかっておったのか・・・」

膝を折り、頭を下げる惟政。

「観念したら?もう全部露見してるのよ。あんた達はこれでおしまい、藤孝様の気持ちを確認したからね・・・あんた達の役目も終わりよ」

微笑を絶やさず、四人に話す千代女。

「フフフッ・・・甘いわ!甘いわ千代女!善住坊ぉ!通を狙っておれ!動くなよ。動けば、善住坊に通を撃たせるぞぉ」

惟政は動揺していた自分を何とか取り戻し、いやらしい笑顔を浮かべる。

「いいわょ、出来るなら?天下一の火縄の名人だったかしら?でもね・・・あの男には勝てなかったみたいよ・・・」

そう言って庭に視線を向ける千代女に釣られて、庭先を見ると、善住坊が眉間に穴を開けて、事切れていた。

「なっ・・・そんな、馬鹿な!こうなればぁ!」

惟政は通を人質に取ろうと、通に向かって駆け出す。

「馬鹿ね・・・」

千代女が呟くと、通の前に熊が現れて、手にしたクナイで、惟政の刃を弾く。

「なっ・・・お前は死んだはずでは・・・」

惟政はわなわなと、後ろに下がりながら呟く。

「・・・我は五右衛門、あのような事で死ぬと思っておるのか?」

熊だった男が本来の姿に戻りながら、言葉を放つ。

「なんだとぉ!皆の者!こやつらを血祭りに上げろ!」

惟政は大声で叫び、配下の者を呼ぶが誰も現れない。

「何故だ・・・何故、誰も現れぬ・・・」

惟政は呆けた様な顔付きになる。

「それはな・・・わしらが始末したからじゃ」

惟政の前に現れた一人の男が、話しかける。

「出雲守・・・様・・・」

惟政は膝を折り、顔中に冷や汗を出しながら、かろうじて言葉を出す。

「ようもやってくれたの、惟政・・・お主のお陰で和田家と杉谷家は根切りじゃ」

出雲守が冷たく言葉を発すると惟政の手から力が抜け、武器を落とす。

「捕らえよ・・・」

出雲守が呟くように言葉を発すると、甲賀の忍ぶが複数現れて、四人を捕縛する。

こうして叛意の目を炙りだしたこの一連の騒動は噂として、処理されて事無きを得る事になる。

この事で市は泣きながら半蔵等に諫言されて、二度と同じような策は使わない様になったという。

しかし、今回の一件は最も苦手とするあの人物達にまで、影響を及ぼしていた事に・・・市はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ