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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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不貞な思惑

二条城、京に滞在していた室町幕府15代将軍足利義秋の為に作られた城であったが、義秋が京より逃げ出した為、主不在となり、織田が接収してた。

信長は新たな居城として安土の地に城を建設していたが、岐阜城からでは距離がある為、二条城を臨時的に居城にしていた。

そんな二条城の周りには4つの大きな建物が四方に点在していた。

二条城の北に位置する場所にあるのは、織田の諜報機関の建物、そこで二人の男が顔を合わせる。

「これはこれは、木下様・・・いや羽柴様と名前を変えられたのでしたな、それに諜報幕僚長になられたとか、羨ましいほどの御出世で御座いますな・・・」

男は猿に声をかける。

「おおっ、これは和田諜報三佐惟政殿ではにゃぁか。全ては信長様と姫様のおかげだでぇ、儂の様な百姓上がりは色々ねたみもあるからにゃ、織田の古参で重臣でもある柴田様と丹羽様から、名前を頂いて羽柴と名乗ったんだぎゃ、そしたら姫様より秀吉と名乗れと下の名前まで頂いたぎゃ」

胸を張りながら、惟政に答える猿。

「それは大変名誉な事で御座いますな・・・処で羽柴様、お市様の警護の者が足らぬと聞き及んでおりましたが、目処はたったので御座いますか?」

うっすらと笑みを浮かべて猿に話しかける惟政。

「それがにゃ、色々あたってはおるんだぎゃ・・・何処も人不足なんだぎゃ」

猿は嫌そうな顔をしながら、惟政に問いに答える。

「ほう・・・それならば、我が手の者が暇をしております。宜しければ、お使いになられますか・・・」

頭を下げながら、猿に話しかける惟政。

「おおっ和田殿、それはありがたいぎゃ!丁度、姫様が岐阜にお戻りになられる道中警護の人員が不足しておったぎゃ。余りにも人がおらぬから、お忍びで帰られる事になるじゃろうが、和田殿の手の者は如何程おられるのきゃ?」

猿は首を傾げながら、惟政に話しかける。

「二十名ほどでございますが、私も同行いたしましょう。して羽柴様もいらっしゃるので?」

「儂は別の案件があって同行できんのぎゃ、それに姫付きの警護の者も姫から仕事を与えられておってな。熊しか付かぬのじゃが・・・大丈夫かや?」

猿は不安そうに惟政に問い掛ける。

「自分で言うのもおかしな事では御座いますが、手の者達の腕は確かでございます。おまかせくださいませ・・・」

優しく微笑み、猿の問いに答える惟政。

「そうきゃ、なら和田殿にお任せするか・・・姫は大勢を連れ歩くのを嫌う方だぎゃ、ある程度距離を置いて警護して貰う事になるがいいきゃ?」

猿は警護の注意点を惟政に伝える。

「畏まりました。お市様の身辺警護はお任せ下さい・・・」

(このようにすんなりと行くとはな・・・百姓上がりの成り上がりが、お主の出世もこれまでよ。)

深々と頭を猿に下げる惟政ではあったが、心の中で思っていた。

惟政は猿に日程やどの道を通るのか等、細部を聞き出すとその場を後にした。

その後、手の者を集めると先ほどの経緯と警護する際の注意点や何処で暗殺するかを話し合う。

京や南近江では織田の領地になる為、暗殺する事を諦め、浅井領内にて決行する事に決めると解散して、京極高吉、一色義道、武田義統の三人に連絡を取る。

「いよいよだな、このように早く行動できる好機が訪れるとは・・・いささか不安を感じるが・・・」

手の者が去った後で、部屋に入ってきた杉谷善住坊が懸念を口にする。

「時に来る、好機とはこのような事を言うのであろう。心配致すな・・・相手は二人しかおらぬ・・・」

にやりと笑い、奥の部屋に入っていく惟政。

その姿を不安げに見つめる事しか出来ない善住坊であった。


惟政は予定の期日になると身支度を整え、お市が出立する時刻と場所に向かった。

約束の場所、二条城の正門に二人の男女が会話をしている姿を惟政は見つける。

(あれが市か・・・確かに美しい、殺すのが惜しくなるわ。少し味わってから殺すとするか。隣の熊とやらは・・・それほどの使い手には見えぬな、見かけだけか)

口元が僅かに上がる惟政。

「お初にお目にかかりまする。和田諜報三佐惟政と申します、お市様の岐阜までの警護の任に当たらせて貰いまする」

片足を曲げて、地に付け頭を下げる惟政。

「ふ~ん、あんたが猿が言ってた警護してくれる方なのね・・・よろしくね惟政」

「・・・・・・」

市は惟政に挨拶をしたが、熊はただ惟政を見つめるだけであった。

「あっ熊は初見の人には余り話さないのよ。気を悪くしないでね・・・」

そう言って微笑む市に心を奪われそうになる惟政。

(クッ、確かに魔性のおなごよ・・・不覚にも儂が心動かされかけるとはな・・・やはり殺すのは惜しくなったわ。我術で虜にしてしまうか、市を世間より抹殺してしまえば、良いだけだしな。熊とやらには用はない、顔を潰した女の遺体を市になりすまさせて、始末して横に放置すれば、信憑性も増すであろう)

僅かに口元を上げて、惟政は予定を変更することにする。

こうして和田を含めた三人は岐阜に向かう。

道中、想定外の襲撃があったが、それらは全て和田の手の者にて排除された。

「惟政の配下って意外とやるのね。これなら岐阜まで何事もなく帰れそうね」

「お市様にそう言って頂けますと、我が手の者も喜びましょう」

「・・・・・・」

微笑みながら話す市にますます心を奪われる惟政であった。

ただ・・・熊だけは冷めた目で惟政を見つめるだけであった。


そこの頃、諜報機関の建物で二人の男が話し合っていた。

「羽柴殿、姫様の警護をあのような新参者に任せるとは、とても羽柴様の為さりようには思えませぬが・・・」

男は猿に自分の思う懸念をぶつける。

「煩いぎゃ!半蔵!人不足なんだぎゃ、ほれ・・・このように各地からの報告が山済みだぎゃ、選別や報告書を纏めるのに、猫の手も借りたいほどだぎゃ!」

猿は山済みにされてある報告書の山を、指でさしながら叫ぶ。

「しかし、姫様の警護は伊賀と甲賀の者双方にて行うのが、本来の決まりではなかったですか!それを甲賀者だけに任せるとは!もし姫様に何かあれば、羽柴様の首だけでは収まりませぬぞ!」

半蔵は猿に凄い剣幕で詰め寄る。

「織田の抱える忍びは伊賀と甲賀者だけでは無いぎゃ、それに伊賀と甲賀だけ特別にした訳でもないぎゃ!北条の風魔、武田の三つ者、毛利の座頭衆も諜報には組み込まれてるぎゃ!これらの者も平等に仕事を振り分けろとの姫様からのお達しもあったぎゃ!なので順次振り分けられる事になるぎゃ」

猿は半蔵に対抗して叫ぶ。

「しかし・・・」

「しかしもへったくれもないぎゃ!お主もこの山になっておる報告書を片付けるぎゃ!忙しい忙しい忙しいがゃ!」

猿は半蔵をやり込めると書類に目を向け、処理するのであった。

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