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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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それぞれの思惑

堺の教会で二人の宣教師が意見を交わしていた。

「このジパングは野蛮だ。このような僻地に、偉大なる西洋の教えを広めても、理解すら出来ないだろう。黒人の様に奴隷として扱うのが最も良い」

フランシスコ=カブラルが苦々しく口にする。

「野蛮なのは同意する。しかし、彼らの武力は侮れない。長き内乱で、この国の住民は戦に慣れている。我らが持ち込んだ銃を、今では自分達で製造するほどだぞ」

ルイス=フロイスが辛そうに話す。

「くっ、確かに野蛮人なだけはあるな。しかし・・・この国には、良く売れそうな良い女子が多いし、金銀が豊富にある!それは捨てがたい」

ニヤついた顔をして呟くように話すカブラル。

「それも、些か難しくなってきた」

「織田か・・・」

懸念を口にするフロイスと、それに答えるカブラル。

「そうだ、織田の目が厳しくなっている」

「九州では支障は無いが、織田の領地や織田に与する国では、我らは動きにくいことは確かだな」

真剣な目をして語るフロイスに、辛そうな顔をして、話すカブラル。

「そこでだ、私が織田のトップと話をして、布教を認めさせてくる」

「うまくいくのか?」

「織田のトップである信長という男、西洋に関心を持っておるらしい。上手く騙して見せよう」

「ほう・・・」

「しかしだ、上手くいかぬ場合も考慮しなければならん」

「・・・・・・」

「ガブラル殿は大友義鎮の元に行き、籠絡しておいて貰いたい。そして台湾、ルソンに滞在している軍船を動かして貰いたい」

「なんと・・・この国の争いに介入するつもりか」

「最悪を想定して言っている。我ら西洋の力をもってすれば、このような辺境の国など直ぐに滅ぼせる・・・」

「つまり、我らでこの国の富を手に入れようと言っているのか・・・面白い」

「大友は九州では一、二を争うほどの強国だ。それに我らが合力すれば、九州はすぐに我らの手に落ちよう。それから徐々に、この国を攻め滅ぼせば良いのだ。織田が布教を許せば、楽は出来るだろうがな」

「分かった、フロイス殿の案に乗ろう。私はルソン、台湾の軍船を手配したら、一度国に戻り、法王様に報告しておこう」

「上手く、言いくるめてくれよ・・・この国の富は、捨てがたいとな」

二人はニヤついた顔で笑い合っていた。

それからガブラルが堺から豊後に向かうと、フロイスは一人の男を呼び出した。

「在昌殿、朝廷との連絡をお願いできますか?」

フロイスは柔らかな笑みを浮かべながら、賀茂在昌に話しかける。

「はい、フロイス様の頼みを断る事など出来ません」

賀茂は胸の前で十字を切り、頭を下げて答える。

陰陽師であった賀茂は、その伝を使い、関白近衛前久と面会すると、織田との取次を依頼する。

この際、西洋の珍しい品や金品が賄賂で送られていた。

賄賂に目が眩んだ前久は二つ返事で承諾したが、後にフロイスと織田が仲違いをしてしまうと、それを勧めた前久に、織田からの容赦ない追及がなされ、窮地に立たされることになる。


三好討伐の命を受けた松永弾正久秀は岸和田城に入り、兵を集めていた。

「摂津、河内、和泉からの兵は殆ど集まったようじゃな。後は・・・紀伊の兵じゃが、熊野水軍が連れてくるのかのう?」

弾正が傍に控えていた男に問い掛ける。

「はっ、堀内氏善様が熊野水軍を使って、乗せてくるとの報告を頂いております」

「ふむ、処で左近・・・淡路に居る安宅清康殿との繋がり取れたか?」

島左近清興が弾正に対して答えると、直ぐに問題を投げかけられる。

「はい、織田に付くとのお答えを頂いております」

「そうか・・・これで労せずに、淡路は手に入ったも同然じゃな」

「御意」

「それに淡路水軍までも、此方に付けば、三好は海を渡れまい・・・ゆるりと切り崩していくかのう」

ニヤリと笑いながら話す弾正に、左近は呟く。

「しかし・・・殿、何やら噂を耳にしたのですが、お聞きしても宜しいでしょうか」

「んっ?懸念があれば、言うてみよ」

真剣な眼差しで見つめる左近を見て、弾正は頷く。

「それが・・・」

何やら、言いにくそうにする左近。

「なんじゃ、お主は・・・言いたい事は迷わず言えば良い。どうせ、三好の女主人の事であろう」

呆れたような顔をして、呟くように話す弾正。

「・・・そうでございます。三好の小少将が殿を師と言っておるとか。真にございますか」

「弟子と言えばそうじゃな、それに・・・女として目覚めさせたのも儂かも知れぬな」

「なんと!」

「その様に驚かずとも良いではないか!儂にも若い頃はあったのじゃ、もててもおったぞ。あやつが細川持隆の嫁になる前に男女の仲になった・・・その後、持隆が暗殺されると、実休様の元に嫁いだ為、縁が切れたがのう」

弾正が茶の用意を始めながら、笑いながら左近に話す。

「そっそれは織田家の方々に、お伝えしておるのですか。伝えてなければ・・・危ういのでは」

左近は青い顔をして、弾正に話しかける。

「ふっ、疑念など持たれた処で、儂は姫様を裏切らん。お主が筒井に居った時に知った儂では、もう無い」

「・・・・・・」

「今は織田の中枢に居る、前の主君である筒井順慶に密告しても良いぞ。そうすれば、今の儂の地位に、順慶を据える事も出来るやも知れぬぞ?」

ニヤリとした顔をして、左近を見る弾正。

「何故、その様な事を仰る・・・試しておられるのか!」

赤い顔をして叫ぶ左近。

「いや、儂はお主を買っておる。その才気、磨けば光る!いずれ儂を超えれるかも知れぬと思うぐらいじゃ。儂はお主を育てたいと思っておる・・・だから隠し事などしたくはないだけじゃ」

照れたように左近から、顔を背ける弾正。

「なんと、左様な事を殿が仰るとは・・・」

涙を浮かべて、弾正を見つめる左近。

「そのような顔をして、儂を見るな・・・慣れてはおらぬのだ。その様に見られることにな」

「殿と共に、何処までもお供いたします」

深々と頭を下げて答える左近を見て、弾正は優しく微笑みながら、点てた茶を、左近の前に差し出すのであった。

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