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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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道三の死

道三勢が、敗走する浅井勢を助けるように突撃する姿を見つめる長政。

「くっ、川が荒れておる・・・助けることも出来ぬ!」

歯を食いしばり、血走った目をして、川向こうで戦う味方を見つめていた。

「殿、今は川辺にたどり着いた、お味方の収容に・・・」

「・・・そうだな、今出来ることをやるしかないのか、急ぎ助けよ。道三殿の行為、無に致すな!」

「御意!」

長政は直経に指示を出す。

そんな時、道三の元に、凄まじい速さで白馬に乗った男が近づく姿が、目に入ってくる。

「なっ、あれは・・・謙信か、なんという威圧感だ!これ程、離れていても、分かるほどの男なのか!」

長政は叫ぶ、あの男は異質!戦では勝てぬと瞬時に理解する。

逃げ惑う浅井兵は、謙信の行先を阻むことなど出来ず、蹴散らされていく。

そんな中、道三の引き連れた兵は謙信の行く手を阻むべく、立ち向かう。

しかし、謙信はまるで無人の野を駆けるような顔をして、道三に迫る。

「お前が、道三か?」

謙信は馬に跨ったまま、道三を見下しながら言葉をかける。

「そうじゃが、ぬしが謙信か?大将が単騎で来るとは・・・些か無用心じゃのう」

道三は話しながら、持っていた槍の矛先を謙信を向ける。

「ふっ、お主のような老いぼれの率いる兵など、気にもならん。何故儂の邪魔をする、我は毘沙門の化身。魔王討伐は我が宿命、邪魔だてするな・・・蝮」

素早く、腰に差してあった刀を抜くと、道三に切りつけた。

「ふっ・・・」

道三は持っていた槍を動かして、謙信の放った斬撃を弾く。

「ほう、我の一撃を捌くか・・・面白い」

謙信は驚いた顔をしたが、直ぐに獰猛な顔を浮かべる。

「儂の槍を甘く見るな、一国を奪った槍ぞ。容易くいくと思うな・・・小僧」

道三も獰猛な顔をして答えと、二人は共に斬撃を放ち、切り結ぶ。

「・・・しかし、歳はとりたくはないものだな」

謙信が呟くと道三の槍が弾かれ、道三の左腕が浅く、謙信に切られる。

「そうじゃのう、最早、ここまでかのう・・・逃げ延びれそうな者は、粗方逃げれたようじゃからな」

道三は槍を地面に落とし、謙信を見つめる。

「潔いな、我にその首捧げよ・・・」

呟くように道三に話し、謙信は上段に刀を構える。

「・・・慢心したか」

道三は懐に忍ばせていた短筒を取り出し、謙信に向けて放つ。

「なんと卑怯な!」

謙信は身を捩って避けると、道三から距離を少し取る。

「蝮が容易く、くたばると思うてか?」

道三はニヤリと笑いながら、懐から紙に包まれた玉を取り出す。

「なっ・・・それは、焙烙玉!」

謙信は道三が出した焙烙玉に、一瞬目を奪われ立ち止まっていると、道三は素早く、導火線に火をつけて、謙信に向かって投げつける。

「・・・甘いわ」

謙信は道三が投げつけた焙烙玉の導火線を、刀の刃で切り落とす。

「流石は・・・謙信か」

道三は膝を着き、頭を下げる。

「やっと観念したか、手間をかけさせよって・・・なっ!」

謙信は道三に止めを刺そう近づくと道三の横に転がる焙烙玉を見て、声を上げる。

「儂は蝮、しつこいのだけが取り柄じゃ・・・共に死ね謙信」

「くっ・・・」

謙信は瞬時に、乗っていた馬の側面に体を隠すと、焙烙玉の爆発から身を守る。

爆発に巻き込まれ、馬と共に謙信も吹き飛ぶ。

しかし謙信に傷は付いていなかった。

そんな謙信を見つめながら、右手と両足が吹き飛んでいた道三は、息絶え絶えになっていた。

「恐ろしき男よ・・・儂にはお主に勝てぬ。そんなお主でも、心優しき魔王には勝てぬ。娘御に賭けた儂の勝ちじゃ」

道三が笑顔で謙信に呟く。

「戯言を死ね!・・・今度はなんじゃ!」

謙信が止めを刺そうとしたその時に、煙幕が投げ込まれ、辺りは煙に覆われて、視界が無くなっていた。

「お前を、謙信公に討ち取らせる訳にはいかぬ・・・」

「・・・・・・」

段蔵は素早く、道三を抱えるとその場を離脱する。

煙が晴れたその場所に道三の姿は無かった。


段蔵は傷ついた道三を、川向こうにある浅井の本陣に届ける。

傷ついた道三を見て、長政と直経は絶句する。

「道三殿はお届けした・・・最後を看取ってやれ」

段蔵はそう呟くと姿を消した。

「長政殿、この様な無様な姿を晒す羽目となった。お役に立てなくてすまなんだ、申し訳ない・・・」

掠れた声で、長政に話しかける道三の目は、虚ろで焦点は合ってはいなかった。

「何を申される・・・道三殿のお陰で、上杉に立ち向かっていった浅井の兵は、辛うじて逃げ延びれた。感謝致す」

「そうです、我らの兵の為、ご自身を犠牲になさるとは、我らが道三様の言を守れなかったばかりに・・・」

道三の前で土下座をして、涙を流しながら、話しかける長政と直経。

「謙信が越後に引くまで・・・川は渡ってぇ・・・ならぁ・・・」

道三は最後まで声を出す事が無く、息を引き取った。

長政は亡骸を岐阜に送り届けるように手配すると、この敗戦を引き起こした三将を含む、家臣を全て呼び付ける。

「井規、貞大、清良・・・やってくれたのう」

長政は冷たい声で呟くように三人に話しかける。

「殿・・・申し訳ございません」

「どのような罰も覚悟しております」

「あの様な策に嵌り・・・弁解のしようもございません」

三人はそれぞれ頭を深々と下げて、長政に謝罪する。

「死して罪を償いなされ・・・御三方」

直経が冷たく言葉を発する。

「なっ!儂や貞大は浅井の親族!一門衆ぞ!」

「そのような極刑、厳しゅうございます・・・お許しを!」

「許してくだされ・・・雨森家は代々、浅井家にお仕えした重臣の家柄、戦に勝ち負けは付きものです」

三人は顔色を変えて、死罪を免れようとする。

「その事、お市様の前でも言えるのか・・・浅井を消すつもりなのか」

長政が冷めた顔をして呟く。

「「「・・・・・・」」」

黙り込む、三人。

「直経、連れて行け!首は道三殿の亡骸と共に届けよ」

「御意」

長政は三人の処分を直経に任せると、集めた家中の前に立ち、叫ぶ。

「我の命を聞かず、不利益を起こせば、処罰の対象となるのは身内であろうが重臣であろうが罰する!この道三殿の姿を見よ!この様なお姿になってまで、浅井の兵を救って頂いたのじゃ!この恩、浅井家中皆、決して忘れるな!」

「「「「「御意!」」」」」

道三死去の報はすぐさま、関連した者達に届けられた。

それは本能寺の戦を終わらせ、戦後処理をしていた信長、市、熊、十兵衛の元にも知らされた。

「流石、義父殿よ・・・」

信長は呟くと奥に消えた。

「戦国一の武将と最後は戦えた・・・父上は本望で御座ろう」

「そうですね・・・そう思わねば、浮かばれませぬ」

熊と十兵衛は共に涙を浮かべながら、呟いた。

「義父を戦場で亡くならせてしまうようにした・・・あたしが一番、罪が重いわ」

市は涙を流さず、冷淡な顔で冷めた声で、誰にも聞こえないように呟いていた。


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