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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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思いと覚悟と決心と

岐阜城の麓の屋敷に住む老人が、一人裏庭で茶を飲んでいた。

「今日は何故か調子が良いのう・・・」

暖かな日差しに包まれながら、呟く。

「旦那様、お客人が見えられました」

使用人らしき男が老人に来客を告げる。

「はてっ?儂の様な老いぼれに会いに来るなど・・・ほう、娘御か。息災であったか」

老人は市を見つけると、話しかける。

「はい、ご無沙汰致しております。義父様、お元気そうで何よりです」

市は微笑みながら、道三に話しかける。

「まっ元気ではあるがな、もう役にも立たぬ故、そろそろお迎えが来てもおかしくはないかのう」

「まっご冗談を、飛騨の一件で暗躍されたのは、耳に入っておりますよ。飛騨の三木自綱を説得したのは、義父では無いのですか?」

市は道三を微笑みながら、見つめる。

「何でもお見通しじゃのう、自綱の嫁は儂の娘じゃ・・・不幸にはしたくなかった故、ちっとズルをした。婿殿や娘御には申し訳なかったがのう」

「そうですよ、潰しちゃおうかと思って動いてたら、真っ青な顔で臣従すると、慌てて岐阜に来ましたからね」

少し頬を膨らまして話す市に、道三は微笑んでいた。

「それで・・・何か用があったのじゃろ?」

道三は真剣な顔付きになり、市を見る。

「義父様には、隠せないですね。毘沙門天が動きます・・・」

暗い顔をして、話す市。

「ほう、毛利や三好が動いておると聞いておる・・・面倒じゃな」

「毘沙門天は第六天魔王とは相反する考え、消さねばなりません。ですが、私や兄様が相手をする余裕が無いのです・・・そこで長政に相手をしてもらおうと考えましたが、どうしても力不足は否めません」

「毛利か?それとも・・・まっ良い、娘御には考えがあるのであろう?儂に長政を補佐せよとの事かのう?」

「はい、義父の体調が余り良くはないと、姉様に聞いておったのですが・・・信頼出来て、力のある者が私の手元に余りおらず、力をお貸し願いたいと思い、参りました」

苦痛な表情を浮かべて話す市に、道三は笑いながら答える。

「はっはっはっ、儂は長良での戦で死ぬ定めだったのじゃ。この歳まで生きれたのじゃ御の字であろう、それに・・・義龍とも和解出来た。娘御には感謝しておるのだ。あっ今は熊五郎だったかのう?」

笑いながら話す道三に釣られて、市も笑ってしまう。

「もう・・・このように話す事は無いかも知れぬ。だが後悔など無いと言いたいとこではあるが・・・婿殿と娘御が天下平定を成し得て、その治世が見たかったのう。贅沢じゃな儂も」

最後に冗談を言って笑う道三。

「・・・感謝致します義父様。必ずや良き世を」

見れますよと言いたかった市ではあったが、道三の容態を観た医師が、長くは持たないと報告していた為、言えなかった。

そんな市は、涙を流さない様に我慢する。

「最後にお前達の役に立てれるのなら、本望じゃ・・・今までありがとう」

「・・・義父」

市は我慢が出来ず、泣いてしまう。

それを見た道三は何も語らず、市を優しく抱きしめるのであった。


市が道三の屋敷から去ると入れ替わるように二人の男女が訪れる。

「今日は、人が来る日じゃのう・・・」

二人の男女を見ながら、呟く道三。

「ご無沙汰をしております、父上様」

「元気そうですな、父上」

現れたのは濃と熊であった。

「なんじゃ、二人して・・・別れを言いに来たのかのう?残念じゃがまだ死ねぬ。娘御に頼まれ事をされたのじゃ・・・守れず、死ぬ訳にはいかぬからのう」

「「・・・・・・」」

笑いながら話す道三に、悲しげな顔をして、何も言えなくなる二人。

「そのような顔をするな、儂が出来なかった事を・・・婿殿を最後まで、どの様な事があろうと支えよ、良いな濃」

「・・・はい」

「義龍、いや、熊五郎であったな。娘御をしっかりと守れ、己の命を惜しむな、娘御の為に死ね。良いな義龍」

「言われずとも、その覚悟!しかし、もう誰にも義龍と呼ばれたくは無いのに、父上に呼ばれますと・・・何故か嬉しゅうございました」

二人共涙を流し、道三を見つめる。

「儂は良い子を持った・・・儂の自慢の子じゃ」

道三は二人を手繰り寄せると纏めて、優しく抱きしめた。


その後、道三は旅支度を済ませると北近江の小谷城に居る浅井長政の元に訪れた。

「これはこれは道三様、ご無沙汰致しております。どうぞ、こちらにお座りくだされ」

長政は道三に上座に座るように勧める。

「いやいや、この度は長政殿の指揮に従うつもりで参ったのじゃ。話は聞いておろう?」

道三は長政に問い掛ける。

「はい・・・上杉謙信が動くとの事、お市様より来た文にて、聞いております。しかし、本当によろしいのですか・・・体調が思わしくないと聞いておりますが」

長政が苦しげな顔をして、道三に話す。

「ふふふっ、心配無用じゃ。長政殿に儂の最後看取ってもらおうかの」

「・・・・・・」

笑いながら話す道三に、何も言えなくなる長政。

「すまぬ、戯言じゃ。気になさるな、戦場では体調が良かろうと、悪かろうと相手は手加減してはくれぬ。ましてや毘沙門天が相手じゃ、蝮では力不足かも知れぬが・・・意地は見せてやるわ」

「・・・道三様」

「加賀、能登、飛騨の兵権は貰ってきた。それなりに翻弄してやろうぞ」

「頼もしきお言葉、この長政・・・勉強させて頂きます」

「うむ、その意気じゃ。戦う前から、相手に飲まれては戦う前から負けるだけじゃからのう」

二人は共に笑い合う・・・彼らの戦も刻一刻と近づいていた。

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