表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達から見た天下  作者: 女々しい男
29/76

元就との密会

場所は毛利元就の居城である吉田郡山城。

尼子が織田に泣き付いたという報告を聞き、親子で話し合った後・・・。

元就は一人、庭先に出て、夜空に浮かぶ月を見つめていた。

「思うように行かないものだな」

元就は口から溢れる溜息と共に心境を呟く。

(山陽での失態が此処まで大きく響くとは、分かっていた事だとしても苦しい。尼子だけでもと思ったが・・・もう無理であろう)

そんな時に一人の忍びが現れる。

「お面か・・・どうした」

元就の前に現れたのは、座頭衆の棟梁、杉原盛重であった。

「どうやら、織田の姫が出雲に来るようで御座います」

片膝を地面につけて、頭を下げる盛重。

「ほう・・・その情報、良く仕入れることができたな」

元就は怪訝な顔をして、盛重を見つめる。

「・・・・・・」

頭を下げたまま、言葉を発しない盛重を見て、元就は悟る。

「すまぬな・・・多くの犠牲を払ったのであろう」

「・・・些細な事に御座います」

元就は盛重の前にしゃがむと手を取り、悲痛な顔をして、頭を下げた。

「なっ!そのように頭を下げないで下され・・・」

「すまぬ・・・すまぬ・・・」

元就は涙を流して謝罪する。

「我ら、毛利に賭けておりますれば、このような事で、心を乱さないで頂きたい。元はと言えば、山陽での出来事も我らの腑甲斐無さが原因・・・少しでも挽回せねば、世鬼一族の名折れで御座います」

盛重は土下座をして、元就に頭を下げる。

「お主達の気持ち無駄にはせぬ・・・」

元就は、覚悟を決めた顔をして、月を見ながら呟くとその場を去った。


市が少ない共を連れて、出雲に訪れると、直ぐに尼子義久と会って話を纏めると、直ぐに出雲を立ち、岐阜に帰る道中。

「んっ、どうしたの?藤林・・・あらっ望月もいるのね」

市は目の前に現れた二人を見て声をかける。

「姫様・・・情報が漏れていた様でございます」

「我らの不備、申し訳ございません。我らの配下も十数名しか連れて来ておりません」

二人は深々と頭を下げて謝罪する。

「・・・毛利の忍びか」

市は周りを見ながら、呟く。

「はい、囲まれております」

「まっこの辺は毛利の庭だもんね、仕方無いわね・・・逃げれそう?」

市は笑顔で、藤林に問い掛ける。

「我らの一命を賭けて!お守り致します」

「姫様は我等など気にせず、お逃げ下さい・・・道を開きます」

藤林と望月が覚悟を決めた顔をする。

「姫様、この熊の背中に隠れて居られよ!」

「熊、俺と雑賀衆が援護してやるよ、と言っても俺も数名しか連れて来てねぇ・・・でも、必ず姫は逃がせ」

熊は市に話しかけていると、鴉が現れて熊に話しかける。

「何言ってんの、逃げないわよ。あたしがどんな死に方をしても天命・・・あんた達を置いて逃げる訳無いでしょ」

市は笑顔で、皆に語りかける。

「姫様、今回ばかりは、姫様の言い付けを守れませぬ!姫様は我らの希望、天命ならば、神仏すら切り捨てましょう!逃げてくだされ・・・お頼み申します」

熊が皆を代表するかの様に話すと、皆が頭を下げる。

「・・・熊、皆もなの」

市が悲しげな顔をして、皆を見る。

そんな時、市に向かって、一人の翁が歩いてくる。

「姫様、其れがしの後ろに!」

それを見つけると、即座に市の前に立つ熊。

「どうやら・・・殺る気はまだ無いようよ」

市は呟くように話す。

「織田の姫、お市様ですかな・・・」

翁は熊の前まで来ると、熊の後ろにいる市に声をかける。

「そうよ、あんたが元就?あたしの首でも取って、拝みに来たの?」

微笑みながら、元就の前に立つ市。

「姫様!あぶのうございます!」

「煩い熊!静かにして、元就はあたしの首だけでは殺らないわ・・・兄様と一緒じゃなきゃね」

「気づいておられましたか・・・」

「気付くわよ、殺る気なら、とっくの昔に殺られてるわ。でもわざわざ出向いて来るって・・・交渉かしら?」

首を傾げながら、元就に話しかける市。

「流石、お市様・・・話が分かっておられる」

元就はしてやった顔をして、市を見る。

「交渉ねぇ・・・どうせ、織田の不穏分子の炙り出して、恩でも着せる気?東海の甘ちゃん子狸辺りを唆すのかしら?」

「なっ!」

元就は驚いた顔を隠せずにいた。

「上杉、三好、佐竹、里見、山名、三村、後は山陽の反織田派辺りも動くんでしょ?」

「・・・・・・」

「見返りは情報を流すから、毛利の存続願いってとこかしら?違う?」

市が微笑みながら、元就に話しかける。

「・・・ご推察の通りです」

元就は苦しげな表情をして、市に呟くように話す。

「そうね、安芸、石見、周防、長門の四カ国のみ、安堵かしら・・・」

元就に冷めた顔をして、冷たく言い放つ市。

「・・・是非も無し」

肩を落として、呟く元就。

「後、人質を出してもらうわ。あんたの孫の幸鶴丸をね・・・」

「なっ・・・それは・・・」

元就が苦痛に歪む顔をする。

「あたしの元で養育し、責任を持つわ。嫌なら、織田に敵意を抱く者と一緒に、纏めて消すしかないわ・・・毛利」

「・・・・・・」

沈黙する元就。

すると周りに伏せていた毛利の忍達が、殺気を放つ。

「ふぅ、殺る気?まっいいけど・・・」

市が、この世の者とは思えない様な声で呟く。

「お面!動くな!挑発じゃ!」

元就が叫ぶが間に合わず、数本の棒手裏剣が、市に向かって飛んでくる。

「甘いわ!」

熊が全ての棒手裏剣を叩き落とすと、藤林、望月、鴉の三人とそれぞれの配下が反撃しようとする。

「殺っちゃ駄目よ・・・」

市が呟くと、皆が武器を仕舞う。

「器が違うか、見かけに寄らず・・・恐ろしき女子よ。お市様の条件、呑みまする」

笑顔で元就が市に話しかける。

「流石、謀神と呼ばれる元就殿ね。今度、二人でゆっくりと、お茶でも飲みましょ」

市は微笑みながら、元就に優しく話しかける。

「謀神など・・・お市様の前では、恥ずかしくて言えませぬ。ただ・・・お心を強くお持ちくだされ」

「・・・ありがと」

頭を掻きながら、笑顔で話す元就に、市は笑顔で答える。

しかし、元就の心には、これから市が行わなければならない事を考えて、市の心が折れないようにと願っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ