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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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三郎と通

私は三郎、北条氏康の七男だ。

何故?七男なのに三郎なのか・・・未だに謎だ。

父上は私を上杉に人質に出し、同盟を組むと思っていた。

しかし、織田の領土拡大が父上の予想を上回っていたのだろう、織田に付く決心をされて、私は織田信長が居る岐阜に連れて行かれた。

どうやら、父上は歳が七つ上の信長の妹を、私の嫁もしくは婿にしようと考えておられるようだ。

私が元服する年齢になって、嫁にするのが、行き遅れた女子など・・・気が進まない。

ましてや婿など・・・織田家は強大で妹は第六天魔王と呼ばれるほど、恐い女子だと聞いている。

私はもう絶望していた。

信長に会い、話をすると女子の名前は市と言うらしい、しかも嫁に出来れば、関東をくれるという。

それほど、嫁の貰い手がないのかと落胆したが、北条の為、人柱になる覚悟で市を落としてみせると意気込み、彼女を見た時に私は、これまで悩んでいた事が嘘であったかの様に、思わず見とれてしまう。

その美しさは言葉では言い表せれず、声も仕草も全てにおいて魅了された。

こうして私が惚けている間に、信長とお市様は、父上と共に、茶を飲みに行かれてしまった。

このままお待ちしようと思ったら、少し歳をとってはいるが、これまた美しい女性が、私を違う部屋に案内する。

女性の名は井伊直虎さんと仰る方で幼少の頃から男として育てられて居たそうだ・・・勿体無い。

そして案内された場所には幼いが美しい女子が二人と生意気そうな男と真面目そうな男が居た、どちらも私よりも四つ下らしいが、中々の美男子だ・・・私には負けるであろうがな。

よく話してみると、生意気そうな男は奇妙丸というらしく、なんと信長の嫡男らしい・・・。

次期当主確定、仲良くせねば北条のみ成らず、私も危うい。

良かった、生意気だからと邪険に扱えば、全てが終わるところであった。

もう一人の真面目そうな男は鶴千代と言って私と同じ、織田家に人質としてここに居るそうである。

親近感が湧いて喋ってみたら、此奴、何かが違う、仕草や言葉使い、会話の内容・・・こいつ出来ると感じた。

只者ではないと、私の心が注意しろと呼びかける・・・仲良くしよう。

美しい女子の一人は武田の松姫、どうやら奇妙の許嫁らしい・・・羨ましいぞ。

残ったもう一人のこれまた美しく可愛らしさもある女子は冬姫というらしく、父親が信長だった・・・危ない、色目など使っていたら、終わっていた。

この子も鶴千代の許嫁らしい・・・羨ましすぎるぞ。

でも良いのだ、私にはお市様がいる。

しかし何故?この子達はお市様の部屋の隣にいるのだろうと、考えていた時に、お市様が戻ってこられた。

ちょうど良いと思い、お市様に話してみるとお市様が育てていらっしゃるとお答え頂いた。

終始、上の空だった事は否定しない。

するとお市様が突然、皆に声をかける。

「今日はちょっと早いけど、皆でお風呂入ろっか」

笑顔で話されるお市様。

「「「「あい」」」」

私を除く、四人が声を合わせて返事をする。

「あっ三郎もいたわね・・・」

お市様が気付いた様子で私を見る。

「あっ私は皆さんの後で一人で入りますので・・・」

思わず、否定の言葉を私はお市様に伝えてしまう。

「あっそっか、もう恥ずかしがる歳なのかもね。じゃ行きましょうか」

お市様は、頷きながら私に話すと、子供達四人と井伊殿を連れて、部屋を出ていった。

なんであんな事を私は言ってしまったのだ!

子供の振りをしていれば、お市様とお風呂に入れたのに!

ひとり残された部屋で、私は畳の上でのたうち回っていた。



面倒を見る子供達が五人に増えて、織田の仕事もしていた市は毎日忙しかった。

そんなある日、信長が一人の女の子を連れてくる。

「市、すまぬ。この子の面倒も見てくれぬか・・・」

信長が顔色を悪くしながら、市に話しかけた。

「何ですか・・・またどこぞで作ってきた子ですか」

冷めた目で信長を見る市。

「いや・・・違う、この子の父は小野政秀じゃ」

信長が言いにくそうに話す。

「えっ政秀の子ですか・・・ならば仕方ありませんね。いいですよ、こちらにいらっしゃい。名は何と言うのですか?」

市は女の子を優しい目で見つめ、声をかける。

「・・・通といいます」

通は緊張しているのか、声を震わせながら話す。

小野政秀は、つい最近あった織田と三好の小競り合いで、戦場視察をしていた信長を庇い、討ち死にした織田家家臣であった。

小野政秀は天涯孤独であり、妻も流行病にて亡くなっていた為、子の通が身を寄せる場所や住まいがない事を心配した信長が引き取る事にしたようだ。

信長としては罪滅しのつもりなのだろうと考える市。

「お通・・・いい名前ね。あたしの子になる?」

市は通を見ながら、優しく声をかける。

「えっ・・・そんな、恐れ多いです」

小さな体を萎縮させ、震えながら声を出す通。

「兄様、この子あたしの子にしても良いですか?」

市が信長を見て、語りかける。

「なんじゃ、同情なのか・・・それならばやめよ」

機嫌の悪い顔で市に話す信長。

「同情などありませぬ、この子の目を見て、気に入ったのです。この子はあたしの子として、しっかりと養育してみたいのです。この子は聡明な良い女子になりましょう」

市は強い視線で信長を見据える。

「ほう、この子が・・・良し分かった。市の子とするが良い、ただし、通の気持ちを優先させてもらう。通、我が妹市が、お主の母になりたいと言っておる。どうじゃ?母と呼べるか?」

市に話した後で通の前でしゃがみこみ、目線を合わせて問い掛ける信長。

「・・・・・・」

通は涙を浮かべて、何も話さず、沈黙する。

「ごめんなさい、先を急ぎ過ぎてしまったわね。あたしとした事が・・・」

市も信長の横に立つと、通の前でしゃがみこんで目線を合わせてから、謝罪する。

「いえ・・・思いもかけないお言葉と、嬉しさで、自分自身が驚いてしまい・・・っ」

体を震わせて、泣きながら、話す通を見て、市は優しく通を抱きしめる。

「今日から貴女は私の子です・・・通」

市は優しく通を抱きしめて、頭を撫でた。

「・・・母様」

通は市の胸に頭をうずめて静かに泣いていた。

こうして通は市の養女となったのである。

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