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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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明善寺の戦い

三村家親の軍勢と浦上宗景の軍勢を迎え撃つべく、宇喜多直家は兵を集め、沼城を出立すると備前国上道郡沢田村周辺に陣を築き、兵を展開させていた。

直家の後ろには猿が鼻を掘じりながら控えていた。

「わざわざ、相手が出揃うのを待つのきゃ?」

猿が白けた目で直家に問い掛ける。

「ふっそんな阿呆な事を儂がすると思うのか?」

猿に対して馬鹿にしたように答える直家。

「三村は備中、美作に守備兵を残して、1万といったとこかのう?浦上は四千といったとこか?それに対してこちらは用意できる兵は二千・・・真面に相手はしないわな」

頭を掻きながら呟く猿。

「・・・・・・」

「それに、ここには二千も兵は居らぬ。旗指物を多数掲げておるが、どう見ても五百位か。仕込んだな」

猿は真剣な顔をして話し出す。

「明石が真に寝返るのならそれで良いが、保険は掛けておきたいと思うのは間違いではなかろう?」

微笑みながら、猿に話しかける直家。

「慎重な事で・・・そう言えば、花房正幸殿が見当たらぬが、伏兵にでも使ったか?」

猿は辺りをきょろきょろと見渡しながら、直家に呟く。

「お主、儂の元に来ぬか?儂はお主が気に入った・・・」

直家は猿を真剣な眼差しで見つめると呟いた。

「ありがたい申し出じゃが・・・」

「美作をやるぞ・・・駄目か」

断ろうとする猿に直家は食い下がる。

「ふっ、山陽全てを貰えるとしても、姫様の元が良いわ」

猿は直家を見つめて、微笑みながら呟く。

「そうか、儂はその姫様に嫉妬するわ。そこまでお主を惚れさせる女子か・・・会ってみたいな」

悲しげに話す直家。

「ほうじゃのう、姫様に会って気に入られたら、この世の地獄と極楽を知る事になろうぞ」

猿の顔色がどんどん悪くなる。

「なんじゃ・・・左様な顔をするな、恐ろしいではないか」

直家の顔が引きつる。

「・・・会えばわかる」

猿はそれ以上話そうとはしなかった。


浦上宗景は天神山城を出立すると宇喜多軍を挟み撃ちにするべく、直家が居る陣に向かい、兵を進めていた。

「まさか、籠城もせず、野戦を望むとは気でも狂ったのかのう?兵力差と情勢が分からぬ男では無いと思っておったのだがな」

宗景は近くで兵を指揮する明石行雄に呟く。

「確かに、毛利に下ると思っておりましたが・・・これは逆に良かったのではないでしょうか。直家の首を取れば、安心できるというもの」

「確かにな・・・」

行雄の言葉に頷きながら同意する宗景。

そんな時、急に雨が降り始める。

「通り雨で御座いますが、少し雨が強うございますな。最早勝ち戦は間違いございませんからな。暫し、休息致しますか?」

行雄は宗景に進言する。

「そうじゃのう。そう致すか」

こうして休息をとることになる。

暫しの静寂が訪れ、兵のみ成らず、宗景にも油断が生じていた。

その時に周りから、鬨の声が響き渡る。

「なっ!なんじゃ!何があった!」

宗景は手に持った茶碗を持ったまま、立ち上がり周りを見渡す。

「旗印、剣片喰!三村の裏切りに御座います!」

外に居た近習が、宗景の前に進み出ると、早口で報告する。

「なにぃ!謀られたのか!迎えうっ・・・」

(シュー・・・トスッ)

「・・・殿ぉ!」

宗景の額に1本の矢が突き刺さっていた。

矢を受けて倒れこむ宗景を、隣にいた明石行雄が受け止めると、宗景の口元に耳を当てる。

そして宗景を静かに横に寝かせ、手を合わせると行雄は直ぐに立ち上がり、叫ぶ。

「殿の遺言じゃ!宇喜多に加勢して、三村を討てとの仰せじゃ!周りに居る三村の兵を蹴散らし、三村の本陣に横槍を入れるのだ!」

その命令を聞いた浦上軍は行雄に率いられて、宇喜多軍と対峙する三村家親の元に向かうのであった。


強固な陣を張っている宇喜多の陣を見ながら、三村家親は苦い顔をしながら酒を呷っていた。

「くっ中々に強固な陣じゃ!忌々しい」

「殿、ここは某が先陣をきって、宇喜多を蹴散らし、庄家の武門お見せ致しましょうぞ!」

庄高資は家親の前に進み出ると力強く進言する。

「いや、ここは浦上軍の到着を待ち、万全を喫するのが良いかと!」

庄元祐は義父である高資の意見を抑え、実父である家親に進言する。

「なんと弱気な、ならばお主はこの本陣にて震えておれ!殿!お願いいたしまする」

高資は家親に強く頼み込む。

「うむ、そこまで言うのであれば、やってみよ!」

暫く、思案すると高資の顔を鋭い視線で睨みながら許可を出す家親。

「はっ!必ずや、宇喜多直家の首取ってみせましょう!」

高資は直ぐに立ち上がり、その場を去っていった。

「父上、良いのですか!あの陣に正攻法で攻めては被害が出ますぞ!」

「良いのじゃ、上手く宇喜多の陣を破れば良し。討ち死にしても良し、負けて逃げ帰れば、罰すれば良い」

嫌らしい顔をして微笑む家親。

「なるほど・・・流石は父上で御座いますな」

二人の親子は向かい合いながら、高笑いをしていた。


こうして庄高資は兵を率いて、宇喜多の陣に突撃を開始したが、宇喜多の陣からは反撃はおろか、1発の銃声すらなかった。

すると庄高資は、宇喜多軍の二町手前で止まると反転し、三村軍に向かい合う。

「敵は!三村家親!長年の恨み!晴らすのは今ぞぉ!かかれぇ!」

高資は大声で叫ぶと三村軍に突撃する。

それを見ていた家親、元祐は顔を青ざめるが、兵数での優位性は揺るがない事もあってか、直ぐに気持ちを落ち着かせると迎撃を命じる。

「ふっ、ちょうど良い。共に滅ぼして、禍根を消してくれよう!迎え撃て!」

兵力の優位性が少しずつ、形となり、宇喜多勢を押し始めていた。

「殿!浦上軍がこちらに向かってきます!」

伝令は慌てたような声で家親に報告する。

「ほう、早かったのう。これで勝ちは決まったな」

安心した顔をする家親。

「いえ!鬨の声をあげて、我が方に攻撃を仕掛けております!」

「なにぃ!浦上が裏切ったのか!」

手に持った杯を落としながら、叫ぶ家親。

「後方より伏兵!兵糧を狙われ、奪われました!」

「殿!兵が混乱し、指揮が取れませぬ!急ぎ撤退を!」

次々に入る報告に家親は撤退を決意する。

しかし、周りを宇喜多勢に囲まれ、しつこい追撃を受ける。

家親を逃がすため、庄元祐は本陣に残り奮戦したが、宇喜多家家臣長船貞親に槍で突かれて、討ち死にする。

宇喜多は三村の兵が逃げる場所に伏兵を置いており、家親は命からがら、逃げ回った。

等々、三村家親は美作国の興善寺まで逃げ延びて、休息を取っている処で、直家の命を受けていた遠藤秀清、俊通兄弟に待ち伏せされて、短筒の火縄銃で打たれて、この世を去ることになる。

こうして宇喜多直家は備前での地位を高め、美作や備中にも影響を与える存在となるのであった。

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