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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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英賀の戦い

別所安治の軍は、室津に上陸した小早川水軍との合流地点を英賀に定めて、兵を集合させていた。

そんな英賀を領する三木通秋は、家臣の三木清閑が官兵衛の妹婿であり、通秋自身も本願寺の熱心な門徒であった為、内心では織田方に付いた黒田家の方に心は傾いていた。

そんな時、一通の文が通秋の元に届けられる。

それを家臣三木清閑と共に見ると口を開いた。

「まさか、儂のような者にまで心を砕かれるとはな・・・」

「殿、上人様からの直々の書状・・・無下には出来ませんぞ」

届けられた文は本願寺顕如が英賀御堂を通して、三木通秋に織田方に付くようにとの書状であった。

英賀の地には本願寺門徒が多数在籍していた為、顕如の影響力は絶大であった。

「しかし、毛利、別所の兵の数と黒田の兵では一〇倍以上の差がある・・・勝てぬ戦じゃ」

通秋は頭を抱えて、下を向く。

「確かに、毛利の兵四千弱は船旅で疲れてはおるでしょうが、別所の兵は千弱、三木の兵は五百強、合わせて約六千に対して黒田は五百弱でしょう。無謀ですな」

清閑も頭を抱える。

そんな二人の前に一人の忍びが現れる。

「なっ!何奴」

清閑は通秋を庇うように忍びに立ち向かう。

「儂は百地丹波、織田の忍びじゃ・・・」

腕を胸で組んで話す百地。

「織田の忍びじゃと、我らが織田に付かぬのであれば、消しに来たか?」

通秋は百地を睨みながら、呟く。

「そのような勿体無い事はせぬ、もう直ぐ黒田が奇襲をかける。その時にお主らは黒田に合力し、共に毛利、別所を攻めろ」

百地は二人を睨みながら呟く。

「なっ・・・」

「そのようにしたいのは山々ではあるが、播磨に織田の援軍は来ぬのであろう。この兵数で勝てる訳がないわ!勝てぬ戦は出来ぬ・・・」

通秋は下を向き、清閑は寝返れない懸念を口にする。

「ふっ、黒田の兵には援軍が来る。御着からな・・・もう配置についておるようだ」

「御着だと!赤松と小寺の兵四千が攻めておるはず、援軍など不可能じゃ、御着自体落とされておろう!」

「御着での戦、もう終わっておる。小寺と赤松の軍勢は全滅したわ」

「なっ、そんな馬鹿な」

「嘘を言ってどうなる。真の事を伝えたまでじゃ」

真剣な顔を崩さない百地に通秋はそれが本当の話であると確信する。

「では、此度の戦いも勝ち目があると言うのか・・・」

通秋は呟き、百地に問い掛ける。

「耳を貸せ、・・・・・・・・じゃ」

百地が策を伝えると通秋と清閑は共に見つめ合い、嫌らしい顔を浮かべ微笑む。

「なるほどな、それならば勝てる・・・相分かった我らは織田に付く」

「ふっ、良き判断じゃ。混乱に巻き込まれぬ様に注意しておれ、我らが視界を悪くしておくのでな」

そう言い放つと百地はその場から消え去った。

「我らも準備をせねばならぬな、急げ清閑」

「はっ!」


英賀周辺に兵を進めていた官兵衛の元に百地が現れる。

「三木は我らに寝返った」

「そうか、手間を取らせましたな」

「いや良い、川並衆が本願寺門徒と周辺に住む農民と共に山に潜ませておる。合図があれば動く、それに御着から増援も来よう」

「流石は半兵衛殿か、このように早く終わらせてしまうとは・・・心強い」

「しかし、こちらは簡単には行かぬぞ。毛利の大将はあの乃美宗勝・・・手強いぞ」

百地は心配そうに官兵衛を見つめる。

「黒田の強さ、お見せしよう・・・出陣じゃ!」

官兵衛は立ち上がると大きく叫んだ。

「我らが視界を悪くする、同士打ちには気を付けよ。ご武運を・・・」

百地はそう呟くと、官兵衛の前から消える。


英賀の地で休息を取る毛利軍から乃美宗勝は離れて、別所軍の本陣にいる別所安治の元を訪れ、今後の動きを話し合っていた。

「今頃は御着も小寺赤松の兵に落とされておる頃でしょうな」

安治が陽気に宗勝に話しかける。

「ふむ、安易に考えては行かぬでしょうが・・・流石に負ける事はないでしょうな」

「負けるなど有り得ぬ話でございましょう。兵力差が一〇倍は離れておりますれば、相手が籠城した処で籠城戦ならば、三倍あれば勝てるのですから負けるなど考えつかぬ」

鼻で笑うように話す安治。

「いや万が一、織田が動けば・・・分かりませぬぞ」

宗勝が呟くと安治は顔色を悪くする。

「そのような不吉な事を仰るな・・・肝が冷えてしまうわ」

「申し訳ござらん、しかしそのような事はなかろう。織田は武田に目が向いておる。播磨に目を向ける事はまだ無かろうて・・・」

そんな会話をしていた時に外が騒がしくなる。

「んっ?どうしたのだ」

安治は外から聞こえる騒ぎに意識を傾ける。

「黒田が攻めてきたぁ!各自慌てるな!対処せよぉ!」

「奇襲じゃ!黒田の奇襲じゃ!」

「落ち着けぇ!黒田の兵など数はおらぬ!慌てるなぁ!」

天幕の外から様々な声が聞こえてくる。

「くっ、確かにこの状態ならば、奇襲しか無いではないか。この儂とした事が慢心したか。しかし、兵の数は多くない!落ち着いて対処せよ!返り討ちじゃ」

安治は顔を歪めて叫ぶ。

「これはいかん、儂も本陣に戻り、兵を収めてくる!暫し、黒田を抑えておいてくだされ!」

宗勝は安治に叫ぶと毛利の本陣に向かった。

朝方であった事で、朝霧が出ていて視界を遮られ、混乱に拍車をかける。

何とか毛利の陣にたどり着いた宗勝は、被害の大きさに顔を歪める。

「くっしてやられたわ!しかしまだ挽回できる!押し返せ!」

宗勝が叫ぶと、毛利の兵は徐々に落ち着きを取り戻していた。

その時に悲鳴のような伝令が走り込んでくる。

「三木殿が織田に寝返り!その混乱で別所安治殿が黒田家家臣母里太兵衛に討ち取られました!別所軍の体制保てず敗走しております!」

「我が軍勢の周りを、織田の旗が立ち並び、囲まれております!」

「御着の方角から、織田の旗を掲げた軍勢が向かってきております!」

次々に訪れる報告の伝令と、益々混乱に拍車が掛かる軍に対して、宗勝は纏める事が出来ず、撤退の指示を出す。

「撤退じゃ!撤退せよ!」

我先に船に殺到する毛利軍に、追い打ちをかける黒田三木の兵に散々叩かれて、逃げ伸びれた毛利兵は5百に満たなかった。

別所軍も当主である別所安治以下、主だった重臣を多数打ち取られ、逃げ延びれた兵は数える程しかいなかった。

御着と英賀での圧倒的勝利は播磨のみ成らず、全国の諸大名に織田の力を見せつける事になった。

この戦いで黒田官兵衛孝高も半兵衛と共に、全国にその名を知られ恐れられる事になる。

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