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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
19/76

策と戦略と謀略と・・・

毛利と手を切り、三村家親との戦に明け暮れていた備前天神山城を居城とする浦上宗景は、混沌とする山陽の情勢と味方ではあるが、数々の功績を上げて、影響力を増す宇喜多直家に対して頭を抱えていた。

そんな時、播磨の小寺、別所、赤松が毛利方に付くという報告を受ける。

頭を抱えて思案する宗景に家臣、明石行雄が口を開く。

「殿、読みが外れましたな・・・」

行雄は顔を歪めて話しかける。

「まさか、播磨の三家が毛利方に付くとはな。直家も三村に押されておる・・・」

「なれば、今一度毛利に付くのは如何ですか?」

「なにっ!そのような事・・・」

行雄の言葉に嫌とは言えず、言葉が出ない宗景。

「織田は武田に目が向いており、急速に拡大した領地統括に、力を入れておりまする。播磨の姫路迄は抑えたようでございますが、織田は兵を送る気配はありませぬ」

「確かにな・・・」

「逆に毛利は織田の動きが無い内に、中国を纏めようと動いておりまする。我らの帰参は大いに喜ばれましょう」

「うむ・・・」

「それに、少々目障りになってきた宇喜多を潰す好機とも言えまする・・・」

嫌らしい顔を浮かべて話す行雄。

「相分かった、文を出す。兵の用意を致せ!宇喜多の息の根を止めるとしよう」

宗景は立ち上がり奥の部屋に入っていった。

「・・・(ふっ先が見えぬ男よ。毛利と織田を見比べれば一目瞭然であろうに・・・あの方に良い報告が出来そうじゃ)」

行雄は笑みを浮かべながら、その場を後にした。


その後、浦上宗景が毛利家の軍門に降ると言う、文を貰った小早川隆景は、山陽での不安要素に対しての処置を取り始める。

宇喜多直家に対しては三村、浦上を使い攻略するように命じると、配下の乃美宗勝に小早川水軍を率いらせて、播磨に対して援軍を差し向ける。

安国寺恵瓊も宇喜多家の切り崩し、播磨で中立している地侍を毛利側に引き込む様に暗躍していた。


その頃、御着城の城代となっていた半兵衛の元に、百地が集めた情報が持ち込まれていた。

「ほう、中々素早い手を打ちますね。流石は謀神の子ですね、攻め時を知っていますね」

軍配を口元に当てて話す半兵衛。

「毛利の援軍に呼応して、播磨の三家のみならず、地侍まで動き出しておりますが、いかがなさるおつもりで?」

百地は心配そうに話しかける。

「そうですねぇ・・・御着に来る敵は小寺と赤松、後は周辺の地侍ですかね?まっ数で言えば、三千から四千と言った処ですか。その程度の数であれば、籠城して、敵を引きつけて置くことは容易い。姫路は毛利の援軍と別所で六千位ですかね?これは中々厳しいですが、策も共に考えてありますし、官兵衛殿にお任せするのが良いでしょう。宇喜多に対しても策は猿殿にお伝えしておりますから、お任せするとしましょう」

「しかし、宇喜多は三村と浦上に挟まれて長くは持ちますまい。それに姫路も毛利の援軍を含めた別所に攻められては、官兵衛殿で持ち堪えれるとは・・・ここは姫様に援軍を要請された方が良いのではないでしょうか?姫様も嫌とは仰せになりますまい」

「百地殿は心配性ですね。正攻法であれば、無謀ですが・・・伊達に姫様に期待されてはおりませんよ。この戦終われば、山陽の勢力図が一気に変わりますよ」

微笑む半兵衛の顔を見て、何故か敵に同情したくなる百地であった。


姫路城の一室で目を瞑り、座禅を組んでいた官兵衛の元に善助が慌てた様子で話しかける。

「殿!毛利の援軍を連れた別所が姫路に向かっております!その数六千!」

「・・・そうか、半兵衛殿の読み通りだな。流石よ」

「殿!我らは姫路に守備兵を割けば、動かせる兵は五百にも満たしておりませぬ・・・籠城し、織田に援軍要請をされた方が良きかと!」

善助は青い顔をして、進言する。

「策はある・・・上手くいけば、黒田の武名は天下に轟くわ!手筈通りに致せ!毛利の援軍は船旅で疲れておる。それに蜂殿の置き土産もある・・・出陣じゃ!」

ニヤリと笑いながら、勢いよく部屋を出る官兵衛。

その後ろには覚悟を決めた黒田家臣が官兵衛の後に続いていた。


備前沼城に着いた猿は宇喜多直家と面会をしていた。

「織田からの使者とはお主か?見窄らしい男じゃのう・・・」

直家は蔑んだ目で猿を見て話し出す。

「なんじゃ?初めて会う者に対して、酷い言い草だでぇ。それでは敵ばかり増えるだけだがや」

「ほう、人の言葉が分かって、口も聞けるとは不思議な猿よのう」

「そこいらの山に居る猿ではにゃぁで、須弥山に住む猿だでぇ」

「ほう、大きく出たな・・・須弥山とはな。ならばお主の飼い主は帝釈天か?」

呆れたような顔をして、猿を見る直家。

「いいや、菩薩であり、天魔でもあるぎゃ」

「・・・なるほどな。お前面白いな、嫌いではないぞ」

「おみゃさんを見てると、前の儂に、よう似てるから儂は嫌いじゃ」

微笑む直家と頬を膨らませて横を向く猿。

「そうか・・・儂に似ておったのか。何故、そのように成れたのだ」

羨ましそうな顔をして問い掛ける直家。

「姫さんが全部背負ってくれた。儂の思いを・・・乱世に巻き込まれる弱き者の叫びや思いを、掬い上げてくれる姫に儂は賭けたからだ」

「・・・・・・」

「あんたは曲者だけど、心根は優しいだろ・・・だからそうして無ければ、自分が壊れるから、そうしてるんだろ?違うか?」

「・・・何がわかる、貴様如きに!」

猿は冷めたように話しかけ、直家は素早く立ち上がり、怒りを露にする。

「儂は皆に苛められて、家から追い出され、村から追い出され、人に言えぬ事をして生き存えてきた・・・でもな、それでも人は嫌いにはなれなかったよ」

六本有る指を見つめながら、話す猿

「それを自覚させたのが・・・お前の主か」

「そうだ」

「良き主に巡りあったのだな・・・何故か、羨ましいと思ってしまった。この儂が・・・」

下を向き、呟くように話す直家。

「ならば、儂と共に歩まぬか?」

猿は悲しげに微笑むと直家に手を差し出す。

「・・・もう遅いわ。三村と浦上が攻めてくる。儂に出来ることは毛利に下るだけよ」

両手を握り締めて、下唇を強く噛み締める直家。

「ふっ、三村、浦上如きに攻められて弱音を吐くのきゃ?何の為に儂が来たと思っとるんだぎゃ?」

ふてぶてしい顔をして話す猿。

「戯言を申すな!ここからの逆転など無いわ!それに播磨も毛利の手に落ちる!織田が介入し、兵を出せば話は変わるが・・・出さぬのであろう!」

立ち上がり、猿を見下しながら叫ぶ直家。

「確かに織田は兵を出さないぎゃ・・・でもな策はあるぎゃ。死んだつもりで賭けて見ないきゃ?」

「どんな策じゃ!言ってみよ!」

「明石行雄はこちらに寝返っておる・・・」

「なっ・・・なんじゃと」

「半兵衛が調略しておる。宇喜田との戦になれば、その場で浦上宗景の首を持参してこようぞ」

「・・・なれば、三村だけか」

「そうなるのう、浦上の兵は混乱するじゃろうから、当てには出来んが・・・お主の所に居る、客分の短筒使いに殺せたらどうじゃ?」

嫌らしい顔で囁くように話す猿。

「本当に儂によく似ておるな・・・面白い。乗った!これほど周到に準備しておるということは、播磨も何やらやらかすのだな」

嫌らしい顔を浮かべ、微笑む直家。

「ああっ、姫の秘蔵っ子が居るからのう・・・ふふふっ」

「そうか・・・はっはっはっ」

二人は共に手を握り合い、高笑いをしていた。

それぞれの戦いが迫っていた。

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