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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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莫逆の友

私は旅の疲れもあったのだろう、光を抱きしめながら、私は眠りに落ちていた。

目を覚ますと、私を心配そうに見つめる光がいた。

「旦那様、お加減は如何ですか?」

「うむ、光のおかげで良く眠れた・・・有難う」

私は恥ずかしくなり、顔を背け、礼を述べる。

「いえ、光は何時でも旦那様の味方です。昨夜の事はうれしゅうございました、旦那様は何事もお一人で考えるので・・・」

光は悲しげな微笑みを浮かべた顔で私を見る。

「私は、この播磨で幼き頃より神童と呼ばれ、同世代の人間から理解されず、敬遠されてきた。目上の人間も俺を腫れ物を触るように扱っていた。唯一私を理解し、見守ってくれた母上は幼き頃に亡くなった・・・」

「・・・・・・」

「そんな私には共に悩み、間違いを正してくれる、そんな友が居ない。そして私は増長し、父上すら私は馬鹿にしておった。・・・何も分かっていなかったのは、私だったのだと、昨夜気付かされた。父上が言った事は全て的を得ている。冷静になれば、その事が良く分かる。なんと滑稽な事か・・・」

静かに俺を見つめる光、私は下を向き、悔しさで手を強く握り締めた。

そんな時、襖の向こう側から善助の声が聞こえる。

「殿、竹中様がお話がしたいとの事・・・」

「わかった、すぐ向かうとお伝えせよ」

私は強く握り締めた手を開き、己の頬を両手で叩き答える。

「有難う、気分が楽になった。では行ってくる」

素早く立ち上がり、部屋を後にする私に向かって、光は微笑みながら、頭を下げていた。


「お待たせいたしました、昨日は良く眠れましたか?半兵衛殿」

「はい、おかげさまで良く眠れました」

「それは宜しゅうございました。して話とは?」

「ほう・・・」

私が半兵衛に話しかけると半兵衛が驚いた顔をした。

「何か・・・おかしな事でも言いましたか?」

私は思わず、半兵衛に尋ねる。

「いえ、他意はないのです。少し姫路の町や村を案内して欲しかったのです」

「ああっ、宜しいですよ。何もない町や村でございますが、ご案内致します」

私は半兵衛と共に町を見て、村を周り、小高い丘で休息をとった。

「姫路は良い所でございますな、民が元気だ」

微笑みながら、竹筒に入れてある水を飲む半兵衛。

「はい、私の自慢の一つに御座います」

「ほう、今日は昨日までの官兵衛殿と何やら感じが違いますな」

「そうでしょうか・・・」

「素直な良き目をしていらっしゃる、姫様が好きそうな目だ・・・」

「・・・・・・」

「ところで官兵衛殿、この姫路以外にある播磨の土地と民をどう思われるか?今の官兵衛殿ならば、お分かりであろう」

「・・・・・・」

私は何も言えず、顔を歪め、下唇を噛み締め、下を向く。

「策を変えましょう・・・」

半兵衛は丘から見える姫路を見ながら呟く。

「・・・はい」

私は涙を流しながら、答える。

「失礼とは思ったが、昨日の職隆殿との会話聞かせて頂いた。その後、息子を頼むとお願いされました・・・良き父上で御座いますな」

半兵衛は私に微笑みながら、優しく語りかけた。

「私は井の中の蛙でした・・・」

私は肩を落とし、下を向いた。

「そうですか、井の中の蛙ですか。でも私は井の中の蛙の話が一番好きですよ」

そう言って微笑む半兵衛に私は侮辱されたと思い、睨みつける。

「勘違いなさるな。井の中の蛙、大海を知らず・・・その続きの言葉があるのをご存知か?」

「!・・・・・・」

「その顔はご存知のようですね。井の中の蛙、大海を知らず、されど誰よりも空の青さを知る・・・全てを求めるのも大事では御座いますが、一芸に秀でる事の美しさは、代え難いですよ」

「半兵衛殿・・・」

「官兵衛殿、貴方は頭が良い、いや良すぎる。今はまだお若く、経験が不足しているのに、切れ者過ぎる故に起こる空回りや勘違いがある。人は時に感情で左右されて思考を邪魔される。今の貴方であれば、織田の政策を理解できるのでは?」

「織田の終着地点は・・・弱き民の開放ですか」

「そうです、農民が安心して作物を作り、職人が安心して物を作り、商人が安全に商売が出来る。それを邪魔するものを排除するのが武士の努め、それを怠り、真逆な事をするこの乱世を終わらせる。それが織田のいや・・・信長様とお市様の願いなのですよ」

俺は半兵衛殿に対して、無意識に頭を下げていた。

「私は貴方に嫉妬していた。申し訳ありませんでした」

情けなくて、体を震わせる私を静かに見つめる半兵衛。

「誰しも嫉妬などあるものです。ただそれを認め、相手に謝罪する事は誰でも出来ることではありません」

真剣な顔をして私を見つめる半兵衛を見て、私は心が熱くなるのを感じた。

「お願いでございます。私の莫逆の友になって貰えませんか!私には貴方が必要です・・・」

私は思わず、半兵衛の手を掴み、恥も外聞も無く、頭を下げて頼み込む。

「まさか、男に告白させてしまうとは、これでは姫様にからかわれますね。しかし私も官兵衛殿が気に入りました。私もまだ若輩者、共に切磋琢磨いたしましょう。よろしくお願いしますね官兵衛」

「私は代え難い友を得られた、この時を生涯忘れる事は無いでしょう。有難う半兵衛」

二人は共に微笑み合うと姫路の城に戻り、策を思案するのであった。


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