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獣達から見た天下  作者: 女々しい男
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若さゆえ

播磨は京の都や堺にも、近い土地であると共に山陽道に向かう重要拠点。

瀬戸内海での交易における航路に位置し、豊富な海の幸もある。

現在の播磨守護である赤松の力は弱く、我ら小寺、別所等の力に播磨は分裂していた。

そんな播磨には人国記と呼ばれる書にて(播州人は悪賢い又は謀反人が多い土地柄)との認識もあった。

その書に反論したい処であるが、過去の人物である赤松則村や赤松満祐など、実際に謀反を起こした者や現在の状態を考えれば、反論の余地もない。

西からは徐々にではあるが毛利の手が入ってきておる。

播磨を我が殿、小寺政職様に治めさせる為に策を練った。

出した答えは、急激に勢力を伸ばしている織田家を使う事を考え付いた。

当主である信長に対面すべく訪れたが、相手にもされない。

京の都を抑え、山城、尾張、岐阜、伊勢、志摩、伊賀、大和、摂津、和泉、紀伊、丹波、丹後、若狭、南近江、加賀という広大な領地を治め、織田の属国となった北近江、越前を治める浅井を傘下にした織田家の当主が、播磨の一部で勢力を保っているだけの小寺家。

そんな小寺家の一家臣である私が対面できるなど、ありえぬ話ではあったが、駄目元と思い、行ってみるが案の定、門前払いであった。

私は堺に行き、織田の御用商人である今井宗久に仲介してもらおうと店を訪れる。

「播磨の小寺はんとこの方ですか。わてに何用でっしゃろか?」

宗久は俺を見て、興味がない顔をする。

「はい、失礼を承知でお願い致します。織田信長様と会える機会を、私に与えては頂けませぬか」

私は素直に話す。

「失礼を承知なら頼まんで欲しいがな、わても忙しいんや。番頭はん!お客様のお帰りや・・・」

宗久は右手を上げて、番頭を呼ぶと、さっさと奥に消える。

「まっ!まって・・・」

私の叫びは直ぐに止められて、外に放り出された。

「流石は織田の御用商人か・・・気位が高いな」

放り出された私は着物に付いた土を払いながら、呟くようにボヤいた。

そんな私に一人の男が声をかけてきた。

「そこの方、顔色がようございませんな。一息つかれたらどうですか?よろしければ、私の庭にて茶でも進ぜましょう」

男はそう言って私の手を掴み、微笑むと、何故か私は男の案内されるがまま、庭先に来てしまった。

小さな家の庭先ではあったが、凛とした感じがする素晴らしい庭先であった。

「素晴らしい・・・」

私は思わず、言葉が口から漏れる。

「どうぞ、こちらに座ってお待ちください。茶をお持ち致します」

男はそのまま私を庭先にある椅子に座らせると、家の中に入っていった。

「貴方は不思議な方ですな。何故か貴方の誘いを断れませんでした」

私はその素晴らしい庭を眺めながら、男の気配を感じ、背中越しに話す。

「このような、おもてなししかできませんが・・・どうぞ」

「これは忝ない」

男は私に茶碗を渡す。その動作も洗練されており、目を奪われる。

「如何なさいましたか?」

「いや、何でもございません。では頂きます」

私は手渡された茶を口元に持ってくると抹茶の良い香りが鼻を擽る。

一口含んだ時、口の中に広がる味に驚き、私は一瞬で飲み干していた。

「・・・美味い」

「良き顔になられました。その顔であれば、何事も成し遂げられましょう」

そう言って私の顔を見て微笑む。

「貴殿のお名前は」

私は男に興味が湧き、名を尋ねる。

「千利休と申します」

「私は小寺官兵衛孝高と申します」

私達は名を名乗り合う。

「官兵衛様は織田との繋ぎを求めておいでか?」

「えっ・・・何故それを」

「宗久殿の店をあのように追い出されるのは、織田との繋がりを求める者達への、対処の仕方で御座いますれば、官兵衛様が、織田の利権に群がる虫の1匹に見えたのでございましょう」

「遠慮がない、物言いじゃのう・・・」

私は苦笑いをして利休を見た。

「しかし、あの顔ではその様にされても仕方なかったかと・・・」

利休は私が横に置いていた茶碗を片付けながら話す。

「・・・・・・」

「でも、今の顔でございましたら、織田との繋ぎ、取り持ってもようございますぞ」

茶碗を盆に乗せて立ち上がる利休。

「なっ!それは誠か!」

私が立ち上がり、背を向けている利休に叫ぶ。

「はい、三日後この家においで下さいませ。良き方をご紹介いたしましょう」

そう言って利休は家の中に入っていった。

私は三日後、利休の家を訪問した。

「よくお越しくださいました。どうぞこちらに・・・」

そう言って奥に連れて行かれる。そこには小さな庵があった。

「これは・・・」

「狭い茶室に御座いますが、中にお入りくだされ」

利休が小さな扉を開けて、中に入るように進める。

中に入ると大人が四人入れるか、どうかの広さしかない場所に俺は座る。

しかし、茶室には鋭い目付きをした先客がいた。

鋭い緊張を強いられる中で利休が立てる茶の音が静かに響き渡る。

その妙な心地よさに、心を奪われかけていた時、不意に声がかかる。

「儂は松永弾正久秀じゃ、この利休殿とは茶の湯仲間でな・・・面白い男を見つけたというので来てみた」

「面白き男かどうかはわかりませぬが、小寺官兵衛孝高と申します。大和弾正様にお会いできるとは、思ってもいませんでした」

俺は弾正がいることに驚きを隠しきれなかった。

「ふっ、正直すぎるな。お主・・・一度痛い目に遭わねば、一皮向けることは出来んであろうな」

私を値踏みするかのような目で見つめ、鋭い一言を言い放つ。

「・・・精進致します」

「今のようなお主を信長様に会わせても益は無いな」

「なっ・・・」

俺は弾正の言葉に絶望を感じる。

「弾正様、官兵衛様はまだお若い、理由を教えて差し上げたら如何でしょうか」

利休は茶を立て終わり、茶碗を弾正の前に差し出す。

「・・・織田の本質、見抜けないのならば、信長様にあった所で話が合わぬ。紹介した儂にも迷惑がかかる、それすらわからぬか?小僧」

「本質・・・」

「織田が何の為に、天下を治めようとしておるのか。それを分かっていなければ、痛い目に遭うぞ」

「・・・・・・」

「どうせ、お主は自分の主君を播磨の主にしたいのであろう?それは無理じゃ。お主の主君小寺政職に、その力量無い事を、一番良く知っているのはお主であろう。それに目を瞑り、播磨を治めさせれば、どのようになるかわかるか?力量無き者を神輿にすると民が泣くことになる・・・そのような事、あの方は決して許さぬぞ」

弾正は茶を飲み干して、飲み終わった茶碗を前に置く。

「それでも私は殿を立てたい。播州人は信義が忠義が無いと、風潮されるこの世を見返したい!」

私は思わず、叫んでしまう。

「落ち着かれよ」

そう言って俺の前に茶を差し出す利休。

「ふっ、お主のような男を儂は嫌いではない。しかし、お主の言う信義、忠義は偽りの物よ。この乱世を引き起こした捻じ曲げた解釈、紛い物よ。それをお主が知る為にあの方に会わせてやろう。そこで答えを出すと良い」

そう言って、悲しげに微笑むと弾正は茶室を出た。

私は茶を一気に飲むと、あれほど美味しく感じていた利休の茶が今回は苦く感じ、顔を歪めてしまう。

「心の中にある偽りの心が、茶の味を邪魔いたしましたな・・・」

利休は悲しげな顔をして俺を見る。

その後、利休の庵を後にする際、何故か私は喪失感を味わっていた。

今回の官兵衛編はチョイと長くなるかもしれません。

後、2~3話続くかもしれませんがご了承ください。

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