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2.3 旅立ち

話がくどくなりそうなので一気に時間を経過させます。

詳しくは別枠として掲載する予定です。

 あれから一ヶ月が経過した。


 一ヶ月も立てば人は変われるもので、今では俺は自分の事を『私』と呼ぶようになったり、変化しても体調が悪くならないようになったり(最初は吐きそうになった)、水のお姉ちゃんから世界の常識から戦闘に至るまであらゆる事を教わったため強くもなった。おかげで精霊としても人?としても成長できたと思う。

 服については竜から人になる時についでに身に纏う事が可能のようだ。精霊が服を買う光景を目撃しないのはこういう理由らしい。

 さて、話が変わり現状についての説明をしよう。


「ぴー!(待てー!)」


 私は竜形態で獲物を追いかけ回している。羽を動かし宙に浮いているため地面の微妙な高低差を感じることなく、空中を滑るように移動していた。

 私が狙っている獲物はオオカミ、お化け、ゴブリン。それらは全力で逃げ惑っている。オオカミはスピードと土地を生かし、お化けは木々をすり抜け、ゴブリンは大人数で固まって、それぞれが全力で私から距離を取ろうとしている。だからと言ってそのまま逃がしたりはしない。


「ぴ!(えい!)」


 口の中で必要以上に溜めていたマナを放出する。突如視界が光で埋まった。


「ぴー!(ぎゃー!)」


 強力な光が目に突き刺さる。あまりの眩しさに姿勢を崩し地面に墜落した。竜形態では目を塞ぐことが出来ないので直視してしまった。ノリで言うなら目が、目があああああ!


 至近距離で閃光直視は流石に堪え、時間をかけてゆっくりと治したい。けれど今は魔物退治の真っ最中でそんな余裕はなかった。

 内心で調子に乗って戦闘中に新技開発した事を反省する。まさか込めたマナが多すぎて閃光になるとは夢にも思ってなかった。目を塞ぐことの出来ない竜形態では自爆技以外の何物でも無い。そして、また一つ自爆技が増えてしまったと少し嘆く。


「ぴいい(落ち着こう)」


 目は見えないけどマナは感じ取れるし相手の心も感じられる。一ヶ月で精霊としての力の使い道は教わったし、後は応用だけだ。

 軽く息を吐き心を静める。

 マナがざわめき、誰かが体を狙って攻撃を仕掛けてくるのが分かる。


「ぴ!(食らえ!)」


 感じた気配に口に溜めたマナを放出する。今度はあまりマナを込めなかったため閃光にはならず純粋に威力を発揮した。


――ギャワン!


 聞こえた音からしてオオカミのようだ。肉の砕ける音はしなかったので仕留めるには至っていないらしい。けれど攻撃を受けたオオカミの死に対する恐怖が感じられた。

 精霊にとって恐怖はちくちくと痛むもので、魔物や獣のそれはとても純粋で感じると少しつらい。それに生前犬を飼っていたせいかオオカミを仕留めるのは少し堪える。


 うううう、これも私の目的のため。ごめんオオカミ君。


 次いでマナを薄く広く放出。これは転生前の世界でいうソナーを模した技で、マナに触れた相手の位置を把握できる。


 う、広がりすぎてる。


 オオカミ君達は私を囲むように包囲しているが、ゴブリン数体とお化け達は既に遠くに逃げていた。逃げ遅れたゴブリンはさっきの閃光を見たせいかその場で停止したままだった。


 うん、ゴブリンは滅!


 オオカミより先に動かないゴブリンを攻撃する事にした。

 今度の技は『竜の咆吼―ドラゴンロアー―』。広範囲かつ高威力の私が持つ最大の技を放つ準備をする。

 口の中にマナを集め、凝縮する。

 水のお姉ちゃんの特訓で一番多く倒したのはゴブリンだ。そして一番痛めつけられたのもゴブリンだ。棍棒を乙女の顔にぶつけてくれた恨みを晴らしてくれよう!

 怒りと共に竜の咆吼を放つ。


 ちゅどーん、と轟音が森に鳴り響いた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 魔物退治が終わり、万物の泉で水浴び中。


「うきゃー」


 着ていた服は変化で消して裸になり、泉に飛び込む。冷たい水が肌を濡らす感触はやはり黄色い悲鳴が出てしまう。適当に頭と体を手でこすり、泉を泳ごうとしたところ、


「そんな適当に洗っては駄目よ。もっと優しく丁寧にしないと」

「うー……」


 私が泳いでいた付近の水ごと持ち上げられた。

 持ち上げたのは当然水のお姉ちゃんだ。私が体とかを適当に洗っていると必ず現れ、丁寧に、とても丁寧に洗われる。今の目標はどうやって水のお姉ちゃんの妨害を受けずに泉を泳ぎ切るか。

 え? きちんと洗ってから泳げば良いって? 障害の無い目標はただの通過点ですよ。

 

 そういえばこの世界に石鹸のようなモノがあった。見た目は握り拳くらいの白石。これでごしごしと洗えば汚れを落とす泡が出てくる。石鹸と違う点ははっきり言うとこっちの方が性能が良いという事だ。

 その石は『清浄石』と呼ばれており、汚れた水を清浄石に漬けると真水になるほど浄化作用が高い。清浄石は洗浄と清浄の効果があるマナが集まれば勝手に出てくるようで、そのマナは汚れがない綺麗な場所によく集まるらしい。

 つまりは泉の周辺にこれでもかというくらい落ちている。


「あわあわー」

「あわあわね」


 現実逃避をしている間に体は洗い終わったらしい。精霊になってからというもの寒暖をあまり感じなくなっているためお湯無しで水洗いでも余裕だ。

 犬のように体を震わせ水気を飛ばす。


「それじゃ駄目よ。……少し離れてちょうだい」


 離れてとは私に対してではなく、体に付着している水分についてだ。水のお姉ちゃんに頼まれた水はまるで磁石のように私の体から弾かれた。

 余談だが髪や肌の保湿の面から、水気を完全に取り除くのは止めておいた方が良い。


「うー、ぱさぱさする」

「あらら。やり過ぎちゃったわ」


 泉の水で顔を洗い直し適度な水分を確保する。その後一度竜形態になり人形態に戻る。一手間がかかり面倒だけどこれが一番簡単な服の着方だ。服は竜形態の体毛と同じ、薄い灰色に青色を足したような灰青色の上下一体のワンピース。

 服については色々試したけど、これが一番複雑じゃなくて便利だった。参考にしたのは水のお姉ちゃんのドレス。これを簡単にしたのがこのワンピースだった。

 風呂上がり――ではなく水上がりに泉の水を飲む。


 うんやっぱり美味しい。


 一息吐いていると水のお姉ちゃんが話しかけてきた。


「一月でずいぶん強くなったわね。今なら高位の魔物にも善戦できるんじゃないかしら?」


 魔物のレベルは低位、中位、高位、神位、例外枠の霊位の五位で構成されている。

 低位は初心者パーティが倒せるレベル。

 中位ならベテランの冒険者パーティが倒せるレベル。

 高位はベテランの冒険者パーティが複数集まり倒せるレベル。

 神位は伝説でしか出てこないようないわゆる神獣や魔獣。

 例外である霊位は条件さえ揃えば高位と同様だが、逆に条件が揃わないと神位よりもタチが悪いらしい。

 つまり私はベテランパーティ複数と同じ程強くなっている。この一ヶ月でしたことと言えばマナの使い方と精霊の力、戦闘時の動き方を覚えたくらいだから、精霊の力が凄いということが分かる。

 それでも褒められると嬉しくなる。


「うん」

「でも本当に戦う時は分かってるわよね?」

「あぶないとにげる。生きるのがゆうせん」

「よく出来ました」


 諫める水のお姉ちゃんの質問に答えるとぎゅーと抱きつかれた。


「きゃー」


 黄色い悲鳴が出る。うーん、やっぱり精神が若返ってるなとしみじみ思った。


「……これで外に出る準備は全部終わったわ」

「うん」


 一転して少し寂しげな声で水のお姉ちゃんは呟いた。


 ここ一ヶ月でしたことが脳裏を巡る。ゴブリンを追いかけ回したり殴られたり、水のお姉ちゃんに抱きしめられたり、説教をされたり、教わったり。本当に色々あった。

 ろくでもない記憶もあるけど、それでもここで過ごした一ヶ月は絶対に忘れる事がないと思えるくらい、心に刻み込まれている。


 私が一ヶ月前に交わした約束は一つ。

 世界の常識を身につける。日常の細かな事を習得させる。戦闘技術をしみこませる。魔法、ひいてはマナの使い方を覚える。

 これらに合格すれば世界を旅しても良いと約束してくれた。

 常識、と日常は既に合格をもらっている。戦闘技術と魔法は先ほどの戦闘で合格した。

 これで外に出る準備は整った。


「ソリア。これを持って行きなさい」


 目の前に透き通った石の中央をくり抜いたような腕輪が差し出される。


「なにそれ?」

「水の精霊に認められた証よ。これがあれば悪いようにはされないわ」

「わりゅ、わるいよう?」

「詳しくは教えないわ。でも、これを肌身離さず持っていて」

「うん」


 受け取り、腕に装着する。腕の大きさに合わず落ちそうになるが、水のお姉ちゃんが腕輪に手をかざすと丁度良い大きさに縮んだ。


「ずいぶんあっさりと受け取ったわね」

「水のねーさ……お姉ちゃんしんようできるから」


 姉さんと呼ぼうとした瞬間、背後から凄い殺気を感じ急遽お姉ちゃん変更する。

 前にお姉ちゃんと呼ばれるよう矯正されてから姉さんと呼んだら特訓の質が跳ね上がったことがある。量は上がらなかったが質が上がったため疲労はいつもの何倍にもなっていた。


「嬉しいこと言ってくれるわね。うん、それじゃあこれもあげる」

「なにこれ?」


 次いで渡されたのは見た感じただの竹筒。吹き矢にしては太いし短い。

 それにしてもこの世界に竹に似た植物があったのか。


「空の姉様にお願いして泉を繋いでもらったのよ。これがあれば万物の泉の水がいつでも飲めるわ」

「ん! ありあとー!!」


 竹筒は水筒だった。前に水筒が欲しいと言ったのを覚えていてくれたようだ。

 嬉しくなって水のお姉ちゃんに抱きつこうとしたが、既に後ろから抱きつかれているため身動きが取れなかった。


「ねぇまだ此処で特訓しない?」

「ううん。はなれるのがかなしくなっちゃうから」

「気にしなくて良いのに」

「わたしのもんだいだから」


 私は世界を見てみたい。けれど……水のお姉ちゃんと別れるはつらい。

 瞳の奥が熱くなる。

 泣くな。泣いちゃいけない。水のお姉ちゃんが心配する。でも目の奥が熱い。だって一ヶ月も一緒に居たんだ。独りぼっちと思っていたけど水のお姉ちゃんが居てくれた。泣きそうなときに抱きしめてくれた。話を聞いてくれた。

 本当に救われていたんだ。


「そう……なら頑張ってね」

「うん」

「元気でやるのよ」

「うん!」


 水のお姉ちゃんの腕を離れ、水のお姉ちゃんを真正面から相対する。


「ほら笑顔を見せてあなたは『ソリア』。笑顔が一番似合う女の子なんだから」

「うん!!」


 こうして私は一ヶ月過ごした万物の泉を後にした。

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