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2.2 名前と精霊と魔法

 異世界に来たと思ったら蛇のような精霊で幼女でした。何を言ってるんだと言われても言葉通りとしか言えない所が、悲しすぎて死にそうになる。

 つるーんぺたーんな体。それだけならまだ良いにしても性別女。男から女。しかも幼女。


「うええええーーーーーん! ぴーーーーーー!!」


 感情が抑えきれず泣いた。もう全力で泣いた。両親に忘れられた時より思い切り泣いた。小さな頃に飼っていた犬が死んだ時より号泣した。


「ちょ、ちょっとどうしたの?」

「ぴーーーー!」

「あーもー、とにかく泣き止みなさい!」

「ぴぃぴーーーー!!」

「…………仕方ないわね」


 突然暖かい温もりに包まれた。驚きのあまり涙が引っ込む。

 何が起こったのか説明するなら、水の姉さんが俺を抱きしめてくれていただけだ。


 あったかい。


 けれどそれだけで俺の心はあっさりと落ち着いた。それど心が納得はしていないのか涙の方は少しずつ流れ落ちてくる。

 俺が精神的に落ち着いたのが分かったのか水の姉さんは口を開く。


「落ち着いた?」


 かけられた言葉は優しかった。

 自然と頷く。


「それでどうかしたの?」


 まだ出会って十数分だけど泣き叫んだ俺を抱きしめてくれた。風の姐さんとの会話から水の姉さんが俺に気を遣ってくれていたのも分かった。かけてくれた言葉も優しかった。

 信用できる……と思う。だから、全部説明してみよう。

 

「わあし、かみしゃまがてんしぇいすうっていしぇあいから来たの」


 俺って言ったのにわたしになった。何でだろう? ていうかうまく話せない。


「神様がてんしぇい?」

「てんしぇい……てんしぇ、んん……て、んせい」


 舌がうまく回らず発音も変だ。何度も繰り返して分かるまで繰り返す。それを気を長くして待っていてくれた水の姉さんはやっぱり良い人だと再確認した。


「転生? ああなるほどね」


 納得してくれるとは思っていなかったため驚く。


「わあーてくれりゅの?」

「異世界の言葉を話しているようだしね」


 そういえば日本語を話している筈なのに通じるし、さっきは会話が分かった。


「なんでつーじりゅの?」

「精霊は心を読んで、伝えることできるから。声に出さなくても分かるものなのよ。でも声にした方がはっきりと読めるけどね」

「……わあんない」

「そうね。何故理解出来るのかなんて私にも分からないわよ。でもね、あるのなら使えばいい。持っているだけで使わないなんて意味のない事よ」

「……うん」


 今の「うん」は分からない事が多すぎてどうでもいいやと投げ出した了承だが、水の姉さんは気づかず俺の頭に手を置いた。

 水の姉さんの手が俺の頭をさらさらと上下する。うーん凄く気持ち良い。顔の力が抜けて笑顔になってきた。今なら喉を撫でられ鳴く猫の気持ちが分かる気がする。気を引き締めないと俺も「ぴー」と鳴きそうだ。


「あなた名前は?」

「んぅ?」

「名前よ。あるのでしょう?」


 水の姉さんに嘘は吐きたくないので正直に言う。


「ひりゃつかたいへー」

「ヒラツカタイヘー? 可愛くない名前ね。転生っていうのなら前の名前は捨てて新しい名前にしなさい。一緒に考えてあげるから」

「ぴ?」


 前の名前も気に入っているんだけど、女の体に男の名前は合わないか。

 水の姉さんはうーんと悩み、少しするとはっとした表情で告げた。


「そうね……ソリサ=イスピリトってどうかしら?」

「そりぃあ?」

「ソ・リ・サ。笑顔って意味よ。さっき見せてくれた笑顔が凄く可愛らしかったもの。イスピリトは精霊ね」

「そ・りぃ、りぃ、り・あ?」

 

 サ行・ラ行が発音しにくい。気を付けても余計な物が入ってくるか発音自体出来ない。

 むーと眉を潜めていると水の姉さんが微笑ましそうに見てくるのが分かった。


「発音しにくいならソリアでもいいかしら? 語呂もいいし。うん決めた。今日からあなたはソリアよ」

「そ・に・あ?」

「ソ・リ・ア」

「そ・りぃ、りぃ……り・あ」

「よく出来ました」


 水の姉さんは優しい笑みを浮かべ、また優しく頭を撫でてきた。

 何かいいな、とそう思うと自然と顔がほころんで来た。


「にへー」

「あーもー可愛いわね!」


 強く抱擁された。


「あうー」


 数分後、そこには正座姿で陰を落としている水の姉さんが居た。


「ごめんなさい取り乱したわ」

「ううん。きにしゅぃないでー」


 落ち込んでいる水の姉さんを励ますように笑顔で返す。けれど水の姉さんは勢いよく顔を横に向けてしまう。

 俺の笑顔駄目だったのかな? ちょっと落ち込んだ。気分的にはショボーンですよ。


「うぐっ。我慢よ我慢。今ここで抱きついたらさっきと同じよ」


 落ち込んだせいで涙が滲んできたため手でぬぐう。

 水の姉さんは慌てて俺に近寄って頭を撫でてくる。気持ち良いけどいい加減しつこいな。

 体を捩って手から逃れた。ててっと水の姉さんから離れ、改めて真正面から見た。

 何故かショックを受けたような表情をしているが、やっぱり綺麗な人だなと改めて思う。

 風の姉さんは何というか「エロい」の一言だったが、水の姉さんは綺麗だ。出会って間もない俺の為に色々と教えてくれるし世話好きな綺麗なお姉さんって感じだ。絶対にモテるなこの人。恥ずかしいから言わないけど。


 恥ずかしさが高まり過ぎたので一度ほほを叩く事でリセットする。ちょっと強く叩きすぎたのかじんじんする。けれどその痛みのおかげで頭が冷えてきた。


 色々と水の姉さんには迷惑をかけてしまったなと少し後悔。

 この体になって精神状態が不安定だったのか直ぐに泣いてしまう。もしかして小さな肉体の方に精神が引っ張られているのかもしれない。

 あ、それと俺の名前は『平塚泰平』改め『ソリア=イスピリト』という事になった。本当は『ソリサ』らしいがサ行がうまく発音出来なかったので『ソリア』になった。まぁ際物の名前を付けられるよりはよっぽどマシなので、受け入れることにした。それにこのつるーんぺたーんかつ女で泰平は……ないよな。


 何はともあれ新しい名前と新しい体……の方は受け入れ難いが現状の把握の方が優先だ。

 深い森と、巨大な湖、そして湖の中央にはさらに巨大な大木が周囲に広がる現状。なら地理的はどうなんだろう。

 水の姉さんに聞けば教えてもらえるだろうか?


「ここどこー?」

「ここ? ここは万物の泉よ」

「いじゅみ?」


 首をぽきゅっと傾げる。

 泉と言うよりは湖くらいに大きいけど。


「ああそういえば転生って事はこの世界について全く知らないのね。…………神も何一つ知らない幼子を異世界に送って何をさせようっていうのかしら?」


 突然小さな声で呟き出したので、無視しないでー、と水の姉さんの太もも辺りを叩く。身長差がありそこを叩くのが精一杯だ。


「ええと、この世界について何処まで知ってるの?」

「まったくー」

「そう、なら基礎知識から教えようかしら」


 水の姉さんの説明はとても丁寧で分かりやすい物だった。

 この世界の名前は『エターナル』。主に三つの大国から構成されており、それぞれ『純人』『獣人』『亜人』が統治しているらしい。

 『純人』は人の純血種。『獣人』は獣と人の混血種。『亜人』は獣人以外の混血種らしい。

 純人が統治する国『シュトルツ』。

 獣人が統治する国『マハト』。

 亜人が統治する国『リスティヒ』。

 国ごとの詳しい説明は覚えきれなかったので省く。


 話を聞くにつれて俺の世界との相違点は多くある事が分かる。最も違うのは魔法がある事だった。

 どうやらこの世界にはマナと呼ばれる何にでも成る要素が宙に漂っているらしい。マナには地、水、火、風、光、闇、空と七つの属性があり、それに形を与えることで魔法と呼ばれる力を発揮できる。ただし魔法を扱うには高い適正と、マナを司る精霊に認められる必要があるらしい。

 実は水の姉さんは精霊の一柱であり、文字通り水を司っているらしく、「凄いでしょう」と胸を張ってきた。うん、凄いと思う。

 このように魔法を行使するには面倒が多いが、条件さえ満たせば文字通り何でも出来るらしい。

 水魔法の適正がありかつ水の精霊に気に入られると、砂漠においてでも水が出せるようだ。


 万能に近い魔法だけれど当然のごとく他にも制限もある。

 水のマナからは水に関する事しか出来ず、風も同様である。そしてマナにも好みがある。熱い場所には火のマナが集まり、風が激しい場所には風のマナが集まる。というかマナが集まった結果それらの現象が起きるらしい。

 一番重要なのは魔法によりマナを消費すると一時的にだが、マナがなくなる空間ができあがる。そのためマナが戻ってくるまでその属性の魔法は使えないということだ。

 ようするに水のマナを使うと水を発生させることが出来る。けれど、連続して同じ場所に水を発生させようとしても発動せず、水のマナが戻ってくるまで待つ必要があるようだ。

 と、言うことを水の姉さんは実践してくれた。


「これが水の魔法」


 水の姉さんが湖に向けて手を伸ばす。何をしているのか分からずじっと見ていると違和感を感じた。どうやら空中のある一点に目には見えない何かが集まっているのが感じられた。今までの説明からそれがマナだろう。

 凄いなぁと見ていると、その一点が爆発し大量の水が滝のように落ちてきた。凄まじい轟音と激しい水煙が巻き起こり、飛び散った水飛沫が体を打った。テレビでしか見たことがないが海外の滝に似たような光景があった気がする。


 激しい光景に目を疑い言葉を失う。話を聞くのと実際に見るのとでは衝撃が違った。

 口をぱくぱくと開閉している俺の頭を、水の姉さんは撫でるともう一度湖に手を伸ばす。


「同じようにもう一度使おうとしても」


 爆発と轟音、水飛沫は少々衝撃が強すぎたのか俺の体はびくりと体を震わせ水の姉さんの背中に隠れた(身長が足りずに足に隠れた格好になったが)。けれど、いつまで経っても先ほどのような音がない。不思議に思い水の姉さんの背後から湖を盗み見る。

 何も起きていない。先ほど感じたマナも動いていないようだ。

 今度は水の姉さんを見上げる。憎いほどの満面の笑顔で「発動しないのよ」と言ってきた。

 騙された屈辱で顔が赤くなる。


「むー! だましあー!」

「騙してはいないわよ。先に同じ所に魔法は使えないって説明したでしょ?」

「むー……」


 説明された記憶があったし、言われた通りだろうけど納得がいかない。

 行き通りのない感情を水の姉さんの太もも辺りを叩く事で発散する。


「ごめんなさいね。でも魔法は万能だけど危ない物って事を知っていて欲しかったの」


 水の姉さんは俺の頭を撫でてきて優しく諭してくる。

 そう言われたら納得するしかない。あの光景は衝撃が強すぎたため魔法は危険だと俺の心の奥底まで深く刻み込まれた。

 魔法は危険。だけど使い方によっては便利。まるで包丁みたいな扱いだ。こうなると魔法が身近に感じる。


「ちゅぎいつー?」

「ん?」


 く、うまく発音出来ない。


「ちゅ、ちゅ、つぅぎ、まほー、ちゅ、つぅあういつ?」

「ああ次に魔法が使えるのはいつかって?」


 分かってもらえたので嬉しくなり笑顔で頷く。


「今のは多量の水のマナを使ったから……一時間はかかるんじゃないのかな」


 本当に連発は無理らしい。単発にしても次の魔法までの時間が長すぎるな。

 それにしても魔法か。うん。何というか心が躍るな。


「わあしもちゅ、つぅあえる?」

「魔法を?」

「うん!」

「ソリアは精霊だから使えるとは思うけど……七属性全部は使えないわよ?」

「え?」

「精霊は司る属性以外の魔法は一切使えないの。私なら水しか使えないし、風の姉様は風しか使えないの」


 全魔法を使うロマンは叶える事が出来ないらしい。けれど冷静に考えると得心もいく。

 もし精霊が無制限に魔法を使えるなら精霊最強伝説ができあがってしまう。水の精霊なのに炎風地光闇空を使いこなす。他の精霊も同様。こうなってしまっては何々の精霊という括りがなくなる。と、そこまで考えてある疑問が出てくる。


 だったら俺は? 一応水の姉さんと風の姐さんから精霊認定は受けており精霊だとは思うが属性不明。

 俺も魔法が使いたいという期待のもと水の姉さんに尋ねる。


「わあしのじょくしぇいなあに?」

「…………ごめんなさい分からないの。私も姉様達以外に精霊を見たのは初めてなのよ。ただ七属性ではないと思う。ソリアが七属性のどれかだったら世界のバランスが崩れてしまうから、それは世界が許さない。だから七属性以外の別の属性がソリアの物なのよ」


 その事実に少なからずショックを受けた。七属性というには魔法無双を期待していたのに……。そういえば転生前に神に言ったのは『魔法適正最大』だったなということを思い出した。くそぅ、こんなことなら『全魔法適正最大』ってことにすれば良かった。まさか『極振り魔法適正最大』だとは思ってもみなかった。

 いやここは前向きになろう。全魔法なんて使えたら全部中途半端になってしまう。その点極ふりならその一つだけ極めれば良い。七属性を極めるより一属性を極める方が労力は七分の一で済む。うん前向きに考えると意外と利点がでかい。俺は七属性使えないがな!


 自虐で締めると肩を落として落ち込む。じわりと目が熱くなる。


「だ、大丈夫よ。自分に合う属性は直ぐに見つかるわ」

「ほんとぅ?」


 絞り出した声は涙声だった。


「本当よ」

「よあったー」


 『弱った』ではなく『良かった』だよ?

 とにかく水の姉さんの言葉は信用出来るので心から安心し、涙も引っ込んだ。


 話を作るの難しいですね。たった二話考えるだけで一週間が経過しました。毎日掲載している人は化け物か。

 また次は来週の予定です。

 感想、誤字脱字、改善点とかあればお願いします。

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