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2.1 異世界

 俺は神を憎む。

 別に手違いで死なせたことを根に持っている訳ではない。

 人は死ぬときには死ぬ。それが少し早かっただけだ。両親に別れを言えなかったのは残念だったが、まぁ記憶を消してくれたようだし気にしないことにする。

 ならば何故神を憎むのか。それは簡単だ。


「ぴーーー!!(何で転生先が人間じゃねーんだよ!!)」


 確かに転生としか言ってなかったけど普通人にするだろ! 悪くても亜人だろ!


 今現在の俺の体はなんと『蛇』らしい。蛇にしては鱗がもふもふしてたり、少々太かったり、羽が生えててぱたぱた出来たりするが、姿形は蛇だ。蛇以外で表すなら『ぬいぐるみ』だ。何というか子供が抱える感じのぬいぐるみかもしれない。


「ぴー……(ちくしょう)」


 自己分析の結果もの凄く悲しい気分になった。

 

 こんなことになった現況、くそ神に会ったら絶対に殴ってやる!

 と、意気込むが手が羽になっていることを思い出し、殴っても痛くない事が分かると


 炎の息吹で燃やしてやる!

 と、方向性を変えてみるが、炎の息吹も出来るか分からないと気づく。


 …………何というか生きるのがつらくなってきた。


 蹲る要領で体をぐるりと巻いて自分の頭を体に乗せる。


「ぴ!(お!)」


 意外とこの毛のもふもふ加減が気持ち良いかもしれない。夢中になって顔を動かし、満足するまで堪能した。

 その頃には落ち込んだ気持ちがまぁなんとかなるさ程度には回復しており、今後の事を考えるようになった。


 現状の把握がてら周囲を見渡す。いまさらかよという突っ込みは置いとけ、気が動転してたんだよ。

 周囲には多くの木が乱立しており、小さな俺の体からすれば海と勘違いしそうな程巨大な湖。その中央には巨大な湖すら覆い隠す程のさらに巨大な木が存在している。


 うーん、定番ながら世界樹か? 巨大な木 = 世界樹というのは異世界物では定番ですよね? ……誰に聞いてんだよ俺。


 寂しいので独り言に近い、独り思いが多発している。

 こんな所でうだうだして居ても余計に落ち込むだけなので湖に近づくことにした。

 現状の改善に期待を込めて一歩を踏み出――――そうとしたが足がないため歩けない。ならば転がるかとも考えたが、湖に着く頃には目が回り吐きそうになっていることは容易に想像できる程度の距離が開いている。

 体をくねらせて蛇のように進むのは何というか悲しかった。


「ぴー!(でけー!)」


 何はともあれ湖に到着。のぞき込んでみると湖底がはっきりと見える程に透き通っている。ここまで透き通っていると雑菌がいなさそうに思える。


「ぴ?(飲めるのか?)」


 おそるおそる顔を近づけて舐めてみる。

 全身の毛が逆立った。とてつもなく美味しい。今まで飲んだことのある水がもの凄く不味く感じてしまう程、美味しかった。


「ぴー!!(うめー!!)」

 

 湖に頭を突っ込んで夢中になって飲みまくった。

 力が無尽蔵にわき出てくるような今までにない高揚感が体を満たす。


「けぷっ」


 飲み過ぎてお腹がぱんぱんに膨れてしまった。今食べ物を渡されても入る容量がないほど胃袋は水で満たされている。でも後悔はしていない。夢見心地で羽を使ってお腹であろう部分を撫でる。


「ぴぃぴー?(この水持ち運び出来ないかな?)」


 先ほど頭を突っ込んでいた辺りを見ると水面が渦巻いていることに気づいた。再度湖に近づく。

 なんだろ? と渦の中央を覗き込もうとすると渦が人の高さほどまで盛り上がり、手が突き出た。


「ぴーー!(ぎゃーー!) ぴーーー!(化け物ーーー!)」


 驚きのあまり後ろに倒れ込む。距離を取ろうとするが腰が抜けた(どこが腰か分からないが)せいで震えることしか出来ない。


「誰が化け物よ、失礼な子ね」


 化け物から透き通るような綺麗な声が聞こえると、盛り上がった水がばしゃりと音を立てて落ちた。

 そこには青い女性がいた。腰まで伸びた青い髪、服も青を基調としたドレス、瞳も青く、まさに青い女性というのが相応しい程だ。

 青色は度が過ぎると気持ち悪く感じるが、この人からそれが全く感じない。むしろ、これ以外に似合っている服装はないだろうと思う程だった。


 少しの間ぼぅと眺めていると、その人もこっちを見返していることに気づいた。

 女性はじっと俺を見つめつつ口に手を当て「この子私たちと同じ?」と、呟いた。


 同じってなんだ?



「姉様達ではないようだし……風の姉様に聞いてみようかしら?」

「んー呼んだぁ?」


 強い風が吹いたと思うと眠たそうな顔の女性が現れた。


「丁度良い所に。風の姉様、この子知ってます?」

「んー、あれぇ?、この子誰ぇ? んー……新しい末っ子が出来たぁ?」


 風の姉様と言われた女性が俺を見ると首を傾げる。

 そのとき初めて俺はその人を見る事が出来た。

 ぼんきゅっぼーんな肉体を強調するように、申し訳程度の緑の布が局部を隠しているだけのスタイル。眠そうな顔が妙に妖艶さを醸し出していて元男子高校生の俺からすると鼻血が出そうな刺激的な格好だ。

 風の姉様って言われていたし風の姐さんと呼ぼう。


 そんな俺に気づいていないのか、水の中から出てきた女性は風の姐さんと同じように首を傾げる。


「風の姉様でも知らないのかしら?」

「うんー。私は知らないなぁ。みんなも知らないと思うよぉ。風の噂に広めようかなぁ」

「止めてあげましょう。この子まだ生まれて間もないみたいだし、変な人間にでも捕まったら大変よ」

「大丈夫だと思うよぉ? この感じは精霊だしぃ。精霊だったら大丈夫ぅ」

「それはそうだけど……」

「もしかして水ちゃんは気に入っちゃったぁ? 一目惚れぇ? 可愛い子を縛るタイプぅ?」

「そそそそそんなわけないじゃない!」


 おお動揺している。てか俺の事を忘れないで。二人きりの世界に入らないで。寂しいですよ?


 登場シーンにびびっていたのを完全に忘れて、勝手なことを思う。とはいえ伝える手段はないため空気となった俺を尻目に話が進んでいく。


「そおぅ?」

「そうよ!」

「なら大丈夫だねぇ」

「え!」

「みんなにも伝えておくからぁ」

「ちょっと風の姉様!?」

「じゃあねぇ」


 また風が吹くと最初からそこに居なかったように消えた。二人を眺めてみただけだったが風のようにつかみ所のない人だったなぁと印象に残った。

 そして青い女性は水ちゃんと呼ばれていたはずだ。なら水の姉さんと呼ぼう。


「……そこの精霊」

「ぴぃ?(ん、俺?)」

「あなたよ。その姿は……竜? 早く人型になりなさいな。話しにくいでしょうに」

「ぴ?(人型?)」

 

 意味が分からず首を傾げる。


「もしかして姿を変えられないの?」


 「ぴー?(変えれるの?)」と首を縦に振った。


「精霊なら人か、属性に合った生物になれるわよ。やり方は……念じてみれば出来るんじゃないの?」

「ぴー……(適当な)」


 ため息を吐く。

 そもそも精霊かどうかすら分からないのに。というか人から蛇になったと思ったら、今度は精霊ですか。安定しないなぁ。

 あきれられたのが分かったのか女性は焦った様子で口早に話す。

 

「仕方ないじゃない! あなただってどうして生まれて間もないのに声を出せるのか分からないでしょう? 姿を変えるのはそれと同じよ」

「ぴー?(そんなものかな?)」

「とにかく騙されたと思ってやってみなさい」

「ぴ、ぴー(まぁ、とやってみるか) ぴぴー、ぴー(人型になってくれー、むしろなれー)」


 言われたとおり目を閉じて強く念じる。すると、ぐにゃりとした感覚が全身を襲った。立ちくらみのように一瞬意識が遠ざかる。

 くらくらしながらも目を開く。 

 手……はちゃんと五本指である。足……もちゃんと二足あって指も揃ってる。ぷるぷると震え、喜びのあまり握った拳を空に突き上げ歓声をあげる。


「やあー! でぇたー!」


 さらば爬虫類! 人最高! ……お?


 気のせいでなければ、口が回らず妙に舌足らずかつ可愛らしい声が出た気がする。適当に「あ、あ」と喉に手を当て声だし確認をする。うん幻聴じゃなかった。間違いなく俺の口から出ている声だ。


 …………もしかして。


 分かりたくない事実から目を反らすように自分の体を確認することにした。

 変身では服が出来ないようで素っ裸だった。そのため下を見ると体の前面がよく見える。

 ぷにぷにしてそうな肌。そして、何よりつるーんぺたーんなボディがはっきりと分かる。さらに男の象徴たる物体Aが存在する場所もつるーんぺたーんとしており……。


 あれ? 何故に幼女?


 新事実発覚。転生先は精霊かつ幼女でした。


「ぴーーーーー!!」


 なんかもう色々と信じられず叫んだ。


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