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1.2 異世界行きますか?

「は?」


 平塚泰平――こと俺は目を開くと思わず間抜けな声を出してしまった。それも当然だろう。目を開けるとただ黒い空間しかなかったからだ。

 戸惑いながら周囲に目を向けると、さらに謎が深まった。


 暗い以外何もない空間。しかも明かりがないのに自分の体は見える。地面が無いのに立っている感覚がある。そもそもここ何処だ? 等様々な問題が頭に浮かんでは解消されないまま煮詰まっていった。


「…………これは夢だ」


 煮詰まった結果その答えを導き出した。


(明晰夢ってやつだな。変なリアルさが答えを出すのを邪魔していたが間違いない、これは夢だ、そうに違いない。二度寝すれば自然と目が覚めるだろう)


 そうと決まればごろんとその場で寝転がり目を瞑った。正直な話、この空間で寝転がる時に地面があるかどうかでドキドキしたが、寝転がれたし結果オーライと判断する。


「夢というのはある意味では当たりだが、ある意味では外れだな」

「誰だ!」


 声のした方を向くと白いローブを身にまとった身長の小さな怪しい奴がいた。


(いつの間に居やがった?)


 警戒と同時に睨んでいると、そのローブは肩を揺らして笑い始めた。


「くっくっく。そこまで警戒しなくても大丈夫だ。どうこうするつもりは全くない」

「何かするつもりはないから警戒するなって言うのも無理な話だろうが」

「ごもっとも。だがそれを言っては話が進まない。だから無理にでも話を進ませてもらうぞ」


 何かするつもりか、と逃げる準備をする。戦うという選択肢はない。怪しい奴を見かけたら戦うより叫んで逃げろという防犯上の鉄則もある。

 すぐにでもしっぽを巻いて逃げるため足に力を入れる。だが、


「済まなかった」

「はぁ?」


 いきなり腰を九十度曲げる謝罪を受けるとは予想だにせず力が抜けた。


「こちらの手違いでお主を死なせてしまった。本当に申し訳ない」

「手違い? 死なせた? は? なにいってんの?」

「む? 覚えていないのか? お主は八月一日にショッピングモールに行こうとした最中の交差点で交通事故に遭い死んだのだ」

「ショッピングモール、一日………………あ!」


 最近の記憶を探るとすぐに思い出した。そして直ぐに頭を抱える。


(そうだ……そうだそうだそうだ! あのときいきなり視界が飛んだと思ったら意識が消えて。もしかしてあのときか?)


「そうあのときだ」


(考えを読まれた!? いやいやいや、落ち着け落ち着け落ち着け。テンパってるとそのままゲームオーバーになるパターンも結構ある。とにかく落ち着くことが第一だ)


 なんだかんだで現代人の泰平はゲームを結構やる。RPGにシューティング、アドベンチャーにホラーとジャンルを問わず一度はやる。そのため似たような状況はゲーム内で経験済みだったので比較的すぐに落ち着いた。

 短く呼吸をすると、改めてローブを来た奴を見る。


(つか、こいつ誰だよ妖怪か? 人の考えを読む妖怪ってサトリしか思いつかん)


 言葉を発する前に一度大きく深呼吸をし、起き上がりローブをまっすぐ見た。


「……で? 人の考えを読む妖怪さん、それを言ってどうするんだ?」

「妖怪ではないのだが……。まぁいい、本来あのときお主が交差点を通り過ぎた時点で事故が発生する筈だった。決められた通りに起きなかったのは偏に偶然が重なりすぎたのだ」

「偶然?」

「ああ、運命担当者の引き継ぎがまだ不十分だったのと、災害の担当者が別の担当者ともめていた。さらに我も他世界から相談を受けていたのだ」


(……言ってる意味がさっぱりわからん。運命担当者? 災害担当者? そもそもこいつなに?)


「ああ、言ってなかったな。我はこの世界の管理人――いわゆる神と呼ばれる存在だ」

「神様!?」 


(マジかよ。神っているんだな)


 無神論者を貫いていた泰平にとって、リアル神がいるというのは結構な衝撃がある事実だった。


「人が考える神とは違うがな」

「あ? 違うのか?」


 何となく少しだけ安心した。


「人が思う神は何でも出来る神であろう? だが我らとて出来ぬ事はある。具体的には『時を戻す事が出来ぬ』のだ。星を、海を、山を、生物を作る事が出来ても時間だけは戻す事が出来ぬ。それをしてしまっては我らは何をする必要もなくなってしまうからな」


(やっぱり意味がわかんね……ってちょっと待て)


「あんた、いやえーと神様よ。さっき『時を戻す事が出来ぬ』って言わなかったか?」

「気づいたか」

「気づいたかじゃねーよ! え? なに? つまり時間巻き戻して死ななかったことにするって駄目なの!?」

「死者の蘇生は神においても禁忌に属する。未来確定の変動に多大な影響を与えてしまうのだよ」

「いやそんな専門的な事はどうでもいいから。てか俺本当に死んだの? 復活も不可能なの? えー……」


(本当に死んだのかよぉ。えー……)


 告げられた事実が重すぎて飲み込めない。考えがまるで歯車のように同じ所を繰り返すだけになってしまうくらい事実が重くのしかかってきた。

 そこに神の声が響いた。


「そこで救済措置として異世界の神と取引を行ったのだ」

「取引?」


 若干涙声になりかけている声で聞く。


「ああ、先ほど異世界の神の相談を受けていたと言っていただろう? そこには精霊種と呼ぶ生命体が生きておる。その精霊種の一柱が寿命のために死にかけておるのだ」

「だから意味分かんねーよ」

「結論から言おう。お主異世界に行かぬか? そこなら今の記憶を持ったまま行けるぞ」

「いせかい…………異世界!? それって異世界転生っての!」

「難解な語を嗜むな。少々待て…………」


 ローブ――いや神は後ろを向くと虚空に向かって話しかけ始めた。はっきり言うと宇宙人と交信している姿を彷彿とさせ怪しさが半端ないのだが「娯楽の神」、「意味」とか言っている辺り娯楽関係の語彙を教えてもらおうとしているんだろう。と、推測している間に話が終わったのかこっちに体を戻した。


「待たせたな。少々差異はあるが基本的にはそうだの」

「マジで! だったら俺にステータス変更とか魔法適正最強とか物理耐性最大とか色んなスキル付けて送ってくれよ!」

「急に元気になったな。どうしたのだ?」

「どうした? じゃないだろ! 人は誰しも一度はそういうのに憧れるんだって!」


 泰平の言葉に神は「ふむ」と頷くと「お主厨二病という奴か?」なんて聞いてきた。

 とっさに返事が出来ずに唸るだけになってしまったが、それで納得したようで、


「恥ずかしがらんでも良い。そんなキラキラした顔で言われては否定も出来ぬし、そもそも否定する気もない」

「あーもーいいからさっさと転生してくれよ!」

「詳しい話は良いのか?」

「現地で知るから大丈夫」


 これぞリアルRPG。ドヤぁみたいな顔になりそうなのを堪える。


「そうか。なら最後に一つ迷惑料を払っておこう。お主の家族についてじゃが」

「…………家族」


 『家族』という単語に浮かれていた気分が一気に無くなり、冷や水をかけられたように背筋が凍り付いた。


(そうだ。異世界転生とかで浮かれてたけど、俺って死んだんだよな。父さんと母さん泣いてるのかな)


「お主が望むなら家族からお主に関する記憶と証拠を消しても良い」

「マジで、それじゃ頼――――」


 ――みます。と、咄嗟に頼みそうになったが、そうした場合に何が起こるのかを考えてしまい言葉を飲み込む。

 もし受けたら両親から俺に関する記憶と証拠がなくなる。つまり、俺がいなかったものとされる。

 家族仲は良かった方だと自信を持って言える。だからこそ、俺に関する記憶がなくなったら、悲しい。


「どうする?」


 神の提案に悩む。非常に悩んだ。

 体感的には一日ずっと悩んでいたような重い感覚で、絞り出すように答えを言う。

 

「………………ぁ……た、頼みます。俺をいなかった事にしてください」


 選んだのは俺が居なくなることだった。

 

(どうせ戻れないんだ。なら忘れてもらった方が良い。覚えていてつらいだけなら忘れてもらった方が良いに決まってる)


 締め付けてくる心を掻きむしるように胸を強くつかむ。

 出した答えに納得いかない自分が居ることも分かっている。だから涙が出てくる。一度出した涙は止まらず、次から次へと頬に流れ落ちていく。


「くそっ」


 両手を顔に当てるが指の隙間から涙が溢れる。


「おねがいじまず。きおぐ、消じでくだざい」


 涙声のまま神様に頭を下げる。


「ああ分かった。君を異世界に渡してから直ぐに改ざんを行う事を誓おう」

「……ありがどうございまず」


 神様は再度後ろを向くと空に向かって話しかけ始めた。


「話が付いた。後は頼む」


 すると俺の足下に黒く光る魔方陣が現れ、


「スキルについてはお主が言っていた物を付ける。本当に済まなかったな」


 また意識が暗闇に飲み込まれた。

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