1.1 ある街の出来事
場所はある街の十字路。そこは時間帯によって交通量の差が激しく、ある時間帯は渋滞するがそれ以外は全く渋滞しないという交差点である。そのため人通りは多くもないが少ないもないといった程度歩いている人がいるくらいだ。
その歩行者の一人、少年--平塚泰平はスマホを弄りながら信号を待っていた。
(んー、あんま面白いもんがねぇな。しゃーねぇ諦めてゲームでもしてるか。て、お? 母さんからメールだ)
届いたメールを開くと、『今日のおかずは泰平が好きなハンバーグの予定。乞うご期待♪』と書かれていた。
(ったく。母さんは)
ハンバーグは素直に嬉しいが、こんなメールを送ってくるのは少々気恥ずかしい。
(父さんも父さんで『泰平元気か? 父さんは疲れてます』とか送ってくるし。前にダチに見られた時凄い恥ずかったんだが)
嫌ではないが気恥ずかしいというのは青少年には誰でもある事だろう。
母親のメールに『期待してる』と返信し、ちらりと視線を上げると信号は青。感じた気恥ずかしさごとスマホをポケットにしまい込んで横断歩道を歩き出す。数歩、歩いたその瞬間――横殴りにされたように視界が流れ、意識が暗転した。
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「きゃああああああああ!」
交差点で布を切り裂くような悲鳴が上がった。爆発音と瓦礫の崩れる音が後から響き、その喧噪をさらに増幅させていく。
「人が轢かれたぞ!?」
「うっわぁマジ? リアルでこういうの起こるんだ。写メ撮っとこ」
「誰か救急車呼べ!」
「突っ込んだのトラックかよ。居眠り運転でもしてたのか?」
「轢かれた奴死んだwww」
「うっわぁ」
ある人はただ叫び、ある人はおもしろ半分に写真を撮り、ある人は関わり合いたくないと足早に逃げる。
数十分で警察と救急車が着き、事故現場をビニールシートで隠し、事故の事情聴取、原因の究明と言った普段通りの対応を見せる頃には野次馬達もたくさん集まり一帯が賑わった。
次の日、○○県××市□□の交差点で交通事故が発生したというニュースが流された。
居眠り運転をしていたトラックが同県高校に通う一年生を轢き、その学生は病院に運ばれたがまもなく死亡したという。
そのニュースはその他大勢のニュースと同じで数日の間、テレビを賑わせると別の話題に飲み込まれ消えていった。